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5柔らかい


 翌日。

 芹沢鴨訃報の知らせは、屯所に衝撃を与えた。


 朝からばたばたと隊士達が動き回り、沖田も対応に追われていた。

 いつもより大分遅れて朝餉の席に行くと、葵がいた。

 

 隣に行こうとして、足が一瞬いうことを聞かなかった。

 

「沖田さん……芹沢さんが……」

 もともと白い肌が青みがかかり、唇が震えている。

 

 沖田は迷ったが、隣へ腰を下ろした。

「うん、聞いた。賊徒の仕業だってね」

 

 そういう事になっていた。

 芹沢鴨は、外から侵入した賊徒に襲われ死亡した。これが、今の新選組の中での公的な情報だ。


 沖田はいつも朝餉に時間をかけたくなかったので粥を食べるが、今日は白米にしていた。


 言葉もなく黙々と食べる沖田。

 その横で、葵は箸を置いたままでいる。


「門には見張りも立っていたのに、どうして賊徒が……」

 

 沖田は手を止めずに答える。


「今まで何もなかったからね。うちの見張りなんて寝てるのと同じだよ」

  

 よくも次々嘘を重ねるな、と頭痛がした。

 それでも、葵に気取(けど)られるわけにはいかない。

 巻き込めないという気持ちもあるし、やはり仲間を闇討ちしたという事実を、彼女に知られたくなかった。



――昨日は四人で襲いかかり、芹沢達を殺った。

 

 暗闇の中、あらかじめ割り振った部屋に押し入り……


 全てが終わった後沖田は、騷ぐ血を抑えて素早く視線を走らせた。

 隣室で、芹沢の愛人であるお梅を見つけると、沖田は近寄った。確認しなくても事切れていることは明らかだった。


「おい、やめておけよ」


 原田が止めたが、沖田はお梅を抱えた。首が落ちないように、後頭部を左手で支えて。

 魂を失い緩みきった身体は、手のひらに沈むような柔らかさだった。


 そっと降ろし、裸同然でいた彼女の身体が見えないように布団を被せた。


 その後井戸端で手を洗った。

 爪の間まで血が入り込んでいるような気がして、何度も手を洗った。


 感触を消そうと、痺れるまで手を打った。

 血の匂いがする気がして、葵がいる部屋に戻ることは出来なかった――






 

 

 まだ痛む右手で箸を握る。

 

 口に放り込んだ高野豆腐が、生暖かくて…… 

――柔らかい


 沖田は反射的に手で口を覆っていた。


 

「沖田さんっ――!」

 葵が立ち上がり、背を擦る。

「お顔の色が……気持ち悪いですか?」


「……いや、なんでもない」

 無理やり飲み込んだ。



「お加減が悪いなら、白米でなくお粥にしますか?」


「ううん、ごめん疲れてるのかな」


 葵が心配そうに見ている。

 沖田は震えを抑え込み、もう一度高野豆腐を箸にとる。


 今まで、どんな修羅場に出くわしたとて、その次には粥をかき込めた。


 いや――


 今朝粥を選ばなかったのは、柔らかいものを無意識に避けたのか。

 これまでの自分の強さを疑いたくなかった。


 高野豆腐を口に入れた。

 じゅわっと汁が口に広がる。

 汁気が抜け、ぱさついた高野豆腐を、ゆっくり咀嚼(そしゃく)する。


 一噛みずつ、確かめるように。


 味がしない気がしたが、それは一瞬だった。茶で流し込めば、茶葉の香がきちんとした。


「ほら、あおいさんも食べちゃいなよ。こんな事があって食欲ないかもしれないけれど……高野豆腐、おいしいよ」


 また頭痛がした。

 それでも味覚はいつも通りだ。


 その後は、朝餉をすべて平らげた。

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