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あさぎに揺れて―幕末男子の愛が重すぎます【新選組 沖田総司✕タイムスリップ小説】―疼くようなときめきを、甘くて重い幕末からお届けします  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中
三章 復讐の煉火

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414煉火

ここまでの話

タイムスリップしてきた現代の女子高生

神木葵は、目覚めたら蒼井直清と呼ばれて男(男装)になっていた!


剣が強いので、男のふりをしたまま、新選組で過ごしている。


新選組で結核が広がりかけ、コロナの知識を使って阻止する葵。


その一方で、局長の芹沢鴨(せりざわかも)に目をつけられて一緒に飲みに行くことに。

しかし芹沢は何かしでかしそうで……?

「おい、打ち壊せ」


「は?」

 耳を疑った。


「焼き払う」


 平然と、芹沢は言ってのけた。


「そんな……」

 馬鹿な、とは声が続かなかった。 

取り巻きたちは店に雪崩込み、中からは悲鳴や、何か叩き割るような音がしている。


「なにも礼相撲の日に騒ぎを起こさなくても……」

 

「こんな日だからだ。武士のくせに、あいつら情けねえ真似しやがって!

こいつらも、新選組が守ってやってるってのに、恩も感じねえで……金をケチるんじゃねえよ、この腐れ町人どもが!」


 葵は芹沢の腕を力いっぱい引いた。

「こんな事していいと思ってるんですか!?」


 芹沢はゆっくりと葵を見下ろした。

 その目は、まるで虫でも見るような、冷たく見下げた目だった。

 一瞬、葵は五感を失った。


 はっと気づくと、ばしゃばしゃという水音と、油の匂いがし始める。


 

 今ここには葵だけ。

 いつも助けてくれる人達はいない。

 

 震える手を、組紐の上から押さえ付けた。


(もう、見てるだけは……) 


 葵は店に飛び込む。


 中は、反物がぐちゃぐちゃに引き裂かれ、壁もあちこち叩き壊されている。

 

 さっと見渡すが誰もいない。

 いよいよ火をつけるのか取り巻き達は皆外に出ていた。


(店の人は……?)


 住人は二階に逃げたようだ。

 階段を一段飛ばしに駆け上がると、身を寄せ合って震えている家族が一斉にこちらを見た。


「今すぐ逃げて! 火が!」


「でも、品ものが……」


「そんなのどうでもいいから! お願い!」


 葵は無理やり手を引っ張った。下の階から焦げる臭いがどんどん強くなり、煙が這い上がってくる。


 火の回りが、想像以上に早い。

 窓を開け放ち、下を見た。


(行ける――)

 ばっと振り向く。


 大人四人に子が一人。


「ここから行って! 男は女子供を補助!」


 切迫した葵の声に、皆が慌てて一階の屋根を経由しながら避難を始めた。


 ふっと気が緩みかけたその時、向かいの家の屋根の上に芹沢の姿が見えた。

 物見遊山のように悠然と腰を下ろし、酒壺を傾けながら、燃え上がる店を眺めている。


 その姿に、葵の身体は内側から突き上げるように激しく震えた。


――この男は、本当に人間なのか。


 その時、逃げた人の中から「子どもがひとりおりません!」と叫ぶ声が上がった。


 葵は迷わず走った。


 煙がさっきの倍以上に濃くなり、呼吸が苦しい。視界が白く煙ってほとんど何も見えない。


(……どこにいるの?)

 身をかがめて一度息を吸い、声を張り上げた。


「返事して!」


 下から、小さく弱々しい声が聞こえた気がした。

 階下はすでに火の海だ。

 一瞬、本能が足を縫い止めた。


「助けて……」


 子どもの声が、今度ははっきり聞こえた。

 葵は息を詰め、転げ落ちるように階段を駆け下りた。


(いた――!)


 倒れている子供を背負い上げる。

 視線を走らせるが、轟々と燃え盛る正面からはもう出られそうにない。


 頭から、血が混じった汗がだらだらと流れた。

 背中のぐったりした小さな熱が、葵を必死に奮い立たせる。


 煙を吸いすぎてふらつく足で、階段を一段一段、必死に踏みしめた。


 登ってきてくれていた男に、子供を引き渡すと、苦しい息の中、葵はゆっくりと床に倒れ込んだ。


 右手の組紐が熱くなり、周りの音が遠のいていく。



 暗い意識の底で、女の声が響いた。

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