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あさぎに揺れて―幕末男子の愛が重すぎます【新選組 沖田総司✕タイムスリップ小説】―疼くようなときめきを、甘くて重い幕末からお届けします  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中
三章 復讐の煉火

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斎藤と巡察


「何か(くわだ)ててる?」


 刀を差している葵を、問い詰める沖田。

 葵はここ最近巡察の回数を目に見えて増やしていた。人手不足で沖田が出ていた分を、まるで奪うように。


 葵は視線を彷徨わせつつ、


「腕を上げたくて……」

 と答えて俯く。


「ではこれは?」


 彼の視線の先には、濡れた布が干されている。

 洗濯なら外に干せば良さそうだが、なぜ室内の鴨居に干すのかが、沖田には皆目見当もつかないようだ。


「潤いを……喉にいいんです……」


「喉痛いの?」


 心配そうに覗き込む沖田に、耐えられないとばかりに、葵はさっさと部屋を出た。



 八月十八日以降、葵は土方のますますの信頼を勝ち取り、京都中を奔走しているのだった。

 その任務は市中警備だけではなく、諜報(ちょうほう)、雑用まで多岐にわたる。

 


 隊士たちと落ち合い、巡察に出た葵は、視線が空をさまよい、手は意味なく十手(じって)(かぎ)つきの警棒のようなもの)に触れる。

   

(沖田さんに出来ることって、他に何があるのかな? 休息と加湿、栄養? 大したことが思いつかない……)


 そもそも沖田は結核の兆候もなく、元気そうに見える。


(池田屋事件で血を吐くんだっけ……? いや、あれは後世の創作だとかお父さんがうるさく言ってたな)


 もしかしたら、このまま元気で長生きするのではないか――


 葵はため息をつく。

(佳代さんのお墓参りも行きたかったのに……)

 調べたところ大阪の方だとわかり、しばらく行くことはできなそうだ。

 

(駄目だ、集中しないと)


 今さら反省して、斜め前を見た。


 今日の巡察は斎藤と一緒だった。

 無言。


 歩幅も一定、足音すら揃っているようで、気配だけがある。

 

(……気まずい)

 

 沖田とは違う種類の緊張だった。気を遣われている感じもなければ、試されている感じもない。

 

 ただ――見られている。

 評価されている、というよりは、観察されているような息苦しさだ。


 

  壬生から外れ、市中に出ると、夕暮れの色が、町を淡く染めていた。

 通りの先で、男が二人、言い争っている。

 侍と、町人風の男。


「喧嘩ですかね?」


 葵は一歩踏み出しかけた。

――が、その肩口に、軽く手が触れる。


「待て」

 低い声だった。

 振り返ると、斎藤は視線だけで前を示す。

 

「先に見ろ」


「……はい」

  葵は息を整え、改めて二人を観察する。

 

 侍は酔っぱらい、足元がふらついていて、大声でわめいている。

 葵は斎藤に頷いてから十手に手をかけ、二人に声をかけた。


「何をされているんですか」

 

 侍ははんっと馬鹿にしたように笑う。


「なんだ、優男が……」

 言いかけて、葵が自分よりずっと背が高いことに気づいたようだ。侍は黙り込む。

 町人が助けを求めるように口を開いた。

 

「この男が、いきなり絡んできたんです……!」

 

「うるせぇ、こいつがぶつかってきやがったんだ!」


 葵はなるべく穏やかに二人の間に割って入る。

 

「新選組です。争いはお控えください」


  一瞬の間。

 今や京都の町で有名になりつつある新選組の名は、なかなか効果が高いようだ。

 侍の顔色が変わる。

 

「……ちっ、つまらねえ」

  侍はそれだけ言うと、ふらつきながら去っていく。

 

 葵は町人に向き直る。

 

「怪我はありませんか」

 

「あ、ああ……助かりました」

 

 深く頭を下げる男に、葵は「お気をつけて」と見送った。

 

「……よかった」

 

 と、思ったとき――


 背後から殺気。

 振り向きざまに鞘で受ける。

 音が遅れて届く。


 葵は目を見開いた。


「斎藤さん……!?」


 刀で振りかぶってきたのは斎藤だった。


「ちょっ、なんの真似ですか!?」


 鞘に手を添え、押し負けないように力を入れる。

 斎藤は静かに太刀を払う。


撃剣(げっけん)訓練だ」

 

  低く淡々とした声に、葵は青ざめて声が出なかった。


「十手など甘いことをするからだ」

  

 彼は音もなく刀を収めると背を向けた。


「初手で潰せ。死にたくなければな」


「……申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げる葵は喉がひどく乾き、自分の甘さを飲み下した。

 斎藤は再び歩き出す。

 

「勘の良さは評価に値するがな」


 ぽつりと声がした。

 葵の一歩前を行く斎藤は、意識してか知らずか、守るように行く位置だった。



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