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あさぎに揺れて―幕末男子の愛が重すぎます【新選組 沖田総司✕タイムスリップ小説】―疼くようなときめきを、甘くて重い幕末からお届けします  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中
二章 朱い糸(八月十八日の政変)

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閑話_ある日の稽古①

楠さんのキャラは、完全に創作しております。。


 

「そういえば、これなんなんだろう?」


 葵は、白い長い布を見つめていた。直清の手荷物にあったもので、2mほどある。

 さらしに似ているが、もっと厚地だ。

 

 葵は、自分の身体を太く見せるのに使えるのではないかと思いつき、ぐるぐると着物の上から試し巻きを始める。

 ちょうど襖の方へ向いた時、沖田が入って来て、珍妙な生き物でも見るような顔をしている。

 

「何してるの? ふんどしなんて巻いて……」

 

「え」


 葵は耳まで真っ赤になった。

 だが、恥ずかしがっている場合ではない。沖田の疑念をとこうと、


「はは、知ってますよ」

 と、返事をしながら下を向き、ふんどしをそそくさと畳んだ。


「そう? じゃあ、稽古行こうか」

 

「……はい」

 

 うるさく言われなくてよかった。それにしても、まさかふんどしだとは。

 



  

 稽古場に着くと、沖田が入ったことで隊士たちが色めき立つ。

 

「見ろよ、沖田先生だぜ」


 葵も以前沖田へ向けて先生と呼んだのが、気色が悪いからやめろとまで言われそれきりだった。



 沖田が淡々と準備に取り掛かり始めた。

 その間、一人の隊士が葵ににじり寄る。


「あおいさん。少々腕に覚えがあるようですが、先生に可愛がられているなどと勘違いなさらないでくださいよ」


 彼は(くすのき)小十郎(こじゅうろう)。花の美青年だ。

 沖田の一番弟子を自称している。

 

 楠は、仰ぐべき師である沖田の周りをうろつく葵が、ひどく(かん)に障るようで、

 大きな目を精一杯細めて睨みつける。

 

 

「大体、先生の部屋で寝起きするというのは、どういう了見なのです。

いくらなんでも馴れ馴れしすぎやしませんか?」


  

 ここにいればいい――そう言って部屋に葵を置くのは沖田なのだ。 


  

 視界の端にいる沖田は、防具を付け終えて竹刀を選んでいる。

 弘法筆を選ばずというのか、沖田は物に執着もなく、毎日気分で竹刀を変える。

 

 

「打とうか」


 沖田がくると、楠は態度も声も裏返した。

 

「沖田先生! 今日は僕が先ですよ。この前お約束してくださいましたよねっ」


 沖田は、「そうだっけ?」と首をかしげる。


「そうですよ……ずっと……お待ちしてたんですよ?」


 瞳を潤ませる楠に、沖田は慌てた様子だ。

 (なだ)めるように腰を折り、楠の顔を覗き込む。


「ごめんね、覚えてるよ。打とうか」


 沖田は口だけで葵に(待ってて)と伝え、歩き出す。隊士たちは道を作るようにさーっと開けていく。

 ついていく楠は、よほど嬉しいのか、まるで手毬(てまり)のように弾んだ足取りだ。

  

(楠さんって、素直で可愛い。沖田さん、性別こだわらないみたいだし――)


「あおい、打とうぜ」


「あ、はい!」 


 葵は他の隊士と撃ち合うことになった。

  

 竹刀を手に取り位置につく。

 互いに撃ち合えば、聞こえるのは剣の空を裂く音だけ――

  

 額の汗が、頬を伝って顎を落ちた。


 葵の強烈な突きが決まり、隊士は地面に叩きつけられた。


 

「うわぁ、あおいのやつ容赦ねぇ」 

「また腕を上げたんじゃないか? 今じゃ組長達に並ぶなんて言われてんだぜ」


 周りの隊士たちのそんな声が聞こえる。

 毎日猛者(もさ)たちと打ち合い、葵は本当に強くなっていた。直清の力が組紐を通じているおかげもあるが。



「あおいさん、お待たせ」

 

 汗を拭って爽やかにこちらに向かってくる沖田を、どうしてかまともに見られない。

 葵の指に、竹刀のささくれが刺さった。


「いたっ……」


「見せて」


 沖田が手を取ると、葵は急にそわそわしだした。

 

(やっぱり、沖田さんって緊張する……近いし。一々……)


 

「はい、とれた」


 声に、葵はさっと後ろに手を隠す。


(手汗かいてなかったよね……?)


 袴で手を拭っていると、沖田はくすっと笑う。


「余計なこと考えてるからだよ。竹刀の棘は心の粗って、ね?」


「いや……はい……」


――余計なこと


(たしかに考えてたけどね。楠さんのこととか、沖田さんの……こととか……あれ、思考読まれてない?)

 

 沖田はすべてを見透かしたような、それでいて、自分には踏み込ませない笑みを浮かべる。

 

「あおいさんが分かりやすいだけだよ」


「そうですか?……って、やっぱり沖田さん人の心が読めんですか!?」


「あはは、読めるわけないでしょ。面白いこと言うね。ほら、打とう」 

 


 沖田は、葵の肩を軽く叩き位置につく。

 

 腑に落ちないが、葵は中段に竹刀(しない)を構えた。

 

 目の前には、相変わらず構えもせず、どこからでもどうぞと言わんばかりの沖田。


「行きます」

 

 とりあえず断って打ち掛かる。

 初めこそそれなりに打ち合うが結局葵が負ける。


 葵が沖田に剣を当てたのは、幕末へ来た最初の一回だけだった。


 

「もう一回」「あと一本」「最後だから」

 手を変え品を変えて、沖田はしつこく手合いを求める。

 

 まるでおもちゃをねだる子どものようで――

 

 どれくらい交えていたのか、

 不意に、鋭く低い声がした。

 

「代われ」


「斎藤さん……」

 

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