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あさぎに揺れて―幕末男子の愛が重すぎます【新選組 沖田総司✕タイムスリップ小説】―疼くようなときめきを、甘くて重い幕末からお届けします  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中
二章 朱い糸(八月十八日の政変)

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呑めや唄え


 気づけば葵は部屋に一人だった。

 直清もいない。羽織を握っても、もう何も起きなかった。


 前世の復讐のために幕末に呼ばれたなんて、未だに現実感のない葵だったが、今ここにいるのは本当だ。


「それにしても……」

 葵は手首の組紐に触れる。

 

 佳代の心を思って胸が痛んだ。 

 愛する人に裏切られた絶望の中、佳代は死んでいったのだ。





 物音がして、見ると沖田だった。彼の羽織はきれいなまま。土方の言葉通り、御所は無血で守られたようだ。


(無事で良かった)


「おかえりなさ――」


 言いかけて、砂埃のような外の匂いが葵を包む。大きな胸のあたたかさに、彼に抱きしめられていると気づいた。


 何か言おうとするのに喉が閉じてしまっている。震える手で彼の襟を掴みかけた――

 

 瞬間、沖田はぱっと離れて、

 

「あおい君! 無事でよかった」

 

 と、いつか葵を抱きしめた、藤堂の台詞を真似た。



 からかわれているだけと分かり、葵は残念なようなほっとしたような気持ちになる。

 彼の空気が柔らかいのを感じ取り、声が少し上ずる。

 

 

「お手柄ですか?」


「まぁ。土方さん達上機嫌だよ。呑めや唄えの大騒ぎだ」


 言われてみると男達の声が響いてくる。

 沖田は肩をすくめた。


「あおいさんを連れて来いってうるさくてね」

 



 

 大部屋に行くと、隊士たちのどんちゃん騒ぎは、外から聞いていたよりも凄かった。


 あまりの騒々しさに、さっきまで暗かった気持ちが少し晴れる。


(に、しても――ひどい有様……)


  

 床に転がっているもの、上衣をはだけているもの、なんなら生まれた姿のまま踊っているものもいる。


  

 目のやり場に困っていると、上座にどっかり座った土方が声をかける。


「あおい、遅いぞ!」


 引っ張られ、隣にすとんと座らせられ、盃になみなみと酒を注がれた。

 酔っているのか土方は、普段の三割増声が大きい。


「お前のおかげだ! 俺達浪士組、いや――新選組は今日という日に名を刻んだ!」


 土方は盃を高く掲げた。

 うぉーっと男達の叫びが続く。


「新選組……」


「そうかあおいさんは知らなかったね。今日の功が認められて、名を授かったんだよ」


 にこっと微笑む沖田に、「おめでとうございます」と返せば、彼は何か言いたげに葵の目を覗き込む。


(……なんだろう?) 



 

「ほら、飲め飲め」

 土方は、葵は一滴も飲んでいないのに、どんどん空の盃を集めては酒を注いでいる。

 

 葵はお礼を言いつつ徳利を奪い取り、

 

「土方さん、お酒がお強いんですね」

 そう微笑んで、盃を一つずつ土方に返すことにした。


「あおいの言った京都一の剣士集団になった! 見事約束を果たしたじゃあねぇか! まぁまだまだ働いてもらうがな!」

 

 酔って区別がつかなくなっている土方は、葵に勧められるがままに酒を煽っている。

 

 その様子を見て、沖田はくくっと笑いをこらえていた。 

「怖いなぁ、飲ませ上手で。さすがは美人芸妓の(あお)さん」

 

 碧は葵が祇園に潜入捜査したときの偽名だ。


 

「美人芸妓だなんて、よく言いますね……沖田さん、ちっとも興味なかったくせに」


「ん? そんなことないけど」

 沖田は自分で手酌して、葵はそれを見て妙な気持ちが沸き起こる。


(代わりに注いで、お疲れ様でしたって言いたい――)

 思って葵は、ん? と眉間に皺を寄せた。

 お酌なんて、今、土方に散々しているではないか。



(私は沖田さんに、したいの……?)


  

 一瞬、沖田を見て、男らしく声を下げた。

 

「沖田さんは、どんな女が好みなんですか?」

 

 彼は飲みかけた盃を卓に置いた。

 返事を待つ間、葵の手は強く徳利の首を握りしめていた。


 彼はふっと息を吐き、盃に口をつける。


「かわいい子が、好みかな」


「それは、皆そうでしょうよ……」


「見た目の話じゃないよ」


 葵はヤケな気分だった。

 結局、真面目になんて答えてもらえないのだ。

 

 

(飲んじゃおうかな……)


 

「あおいさんは、どんな人が好みなの?」

 その質問に、葵は理由もなく身体が熱くなる。


「私は――」


 

 葵の徳利を土方がぶんどった。


「俺は色っぽい女がいい。可愛くても色香のねぇ女は駄目だな」


 いきなり熱弁を振るいだした土方は、葵の顎を掴む。


「あおいの、芸妓姿が忘れられないんだよな」


 土方の普段と違う熱っぽい視線と、酒の香りに当てられて、葵はくらくらしてきた。

 極めつけに、


「男にしておくには惜しいよな……」


 と意味ありげに呟いて、顔を近づける。

 息がかかりそうなくらい近い。


(何――)

 

 葵は身を固くして目を閉じた。


 

「飲み過ぎですって、土方さん……」

 沖田の声がして、熱い気配が遠のいた。


「あおいさん、ちょっと来て」

 沖田は葵の手を引いた。



 


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