5翌日①
沖田のまぶたがぴくりと震えた。
眩しい。
もう朝なのだろう。
感じるのは今までとは違う感触。
さらさら滑る素肌が昨夜を思い出させて、深く息を吐く。
「一生を懸けて護る」
そう誓った直後に彼女を傷つけるのが自分であることが、
花を手折り、花弁をもいでいるような罪悪感があり、
あそこまで苦しいとは思わなかった。
抑えられる、と思った読みが甘かったか。
生身の触れ合いを前にして"読み"などと考えた浅はかさに内心で苦笑する。
先の世から来て言い知れぬ思いがいくつもあったろうに受け入れてくれた。
その覚悟を思えば、自分が彼女にしてやれることなどないに等しい。
「ん……総司、さん」
瞑想するのに、その合間合間に挿し込まれるのは葵の健やかな寝息、香しさ、
それから――
薄っすら目を開ける。
明るい朝日とともに眼前にさらされた姿はなぜか昨晩より扇情的で、そっと掛け布団を手繰り寄せた。
◆
身体に、ふわりと柔らかいものがかかる。
目を開けると、左半身を下にして沖田の胸にうもれていた。
(昨日……)
色々思い出して、同時に身体の奥が熱くなった。
大きな手のひらが背骨を撫で、ぴくんと肩が跳ねた。
「おはよう」
反応したことにほのかな罪悪感を抱きつつ、胸の中から笑みを作る。
「……おはようございます」
「身体は?」
不安げな声。
昨夜もあんなに耐えて優しかったのに、まだ今朝も心配してくれることに、心が一層忙しくなる。
「へいき、です……」
そっと潜り込むように沖田へ身を寄せて、あることに気づき。
思わず腰を引こうとして、彼を傷つけるのではないかと止めた。
(あんなに我慢してくれたんだから……今そんな露骨な反応したら……)
というより、今までも散々沖田に我慢させてきたのかもしれない。
ここに来ていまさら男の性に気づいた自分の鈍さをはたきたくなる。
沖田は葵と自身を断絶するように、間にさっと手を割り入れた。
「朝餉はここへ運ぶから、もう少し横になればいい」
言い終えるやいなや起き上がろうとし出すから、咄嗟に手首を掴んでいた。
「まだ一緒にいたいです」
再びくっつこうとすると、沖田が身を返す。
急に目の前が大きな背中だけになった。
「総司さん?」
「……」
「こっち向いてください」
返事がない。
無言の背から葛藤が伝わってくる。
「……寂しい……です」
溢れた本音を接吻がすくい上げた。
「ん…」
手が葵の後頭部を支え、唇同士を押しつけるように導く。
(こんなキス……知らない)
知らないけど応えたい。
自分から腕を回して深くした。
苦しくても、わずかな空気を取り入れてまた。
互いの名を溢しながら、唇が遠のく。
「葵、責任とってくれるよね?」
甘い微笑みにうなずいたのち、視界が塞がった。
◇
(総司さんって……)
稽古場で防具を身に着けながら、思い出しても信じられず。
彼はあくまで身体を心配する姿勢は崩さないくせに、頼んでくることは過激で対応できず。
結局責任は取らないまでに赦されたわけだが。
「よう沖田!」
永倉の声がした。今いないはずの沖田が戻ったのだろうかと辺りを見た。
「いや、葵だよ。沖田葵」
「沖田葵……」
繰り返して手で口を押さえた。
原田がにやにや割入る。
「どうだったよ昨夜は」
「い、や……どうもこうも」
昨夜どころか……
「うちの妻になにか?」
沖田が涼しい顔で現れた。
真っ赤になる葵の肩を抱き、
「そんな顔見せるのは俺の前だけにしてくれる?」
どこかが音を立てて破裂した。
「ったく、見せつけてくれるよなー」
原田たちは頭の後ろで腕を組んでぶらぶら違う方へ行った。
沖田はぱっと葵の肩から手を引いた。
「葵、あの手のからかいは堂々としてるほうが早く済むよ……って」
ひらひら葵の目の前で手を振るが反応がない。
「口付けていい?」
「だっ……駄目!」
大きな声が出てしまい、周囲の注目を集める。急いで小声に切り替えた。
「……一番からかってるのは誰ですか。もう、皆でおもしろがって……」
「怒った?」
「怒っては……ないです」
しゅんとした態度に絆されると、
「じゃ、はい」
ちゃっかり竹刀と木刀を差し出してくる。選べということだ。
「今日は木刀にします」
重量のあるものを振りたい気分だった。




