悲睡蓮前編(4)
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気が付くと其処は深い森の中だった。
空は高く、伸びた樹木の青々とした木の葉に覆われて、隙間から青い空が見える。
空が青いという事は日中なのだろう。
足元は雑草や木の根が這っていて、人の手が一切入っていない様である。
自身の格好は薄橙色のカットソーに焦げ茶色の膝丈フレアスカートにミュールという姿で、森を歩くのには不適切と言えるだろう。
この時ばかりは自身の好みが反映されている事が悔やまれる。
周囲を見渡しても同じような樹木や植物が鬱蒼と咲いてるだけだった。
仕方がない。先ずは歩こう。
諦めたように歩を進めて十数分は過ぎただろうか。喉は乾き、足に疲れが出てきた。
変わらない景色に不安が増してきた頃。前方の景色が僅かに開けてきた事に気づく。
(疲れた、水が欲しい。休みたい)
期待に歩調が速まり、心音と呼吸が荒れる。
首筋と背に汗が滲む中辿り着いたのは、ぽっかりと開けた野原だった。
「もう、無理」
心と体が崩れそうになり、膝を付きたくなった時。野原の奥に希望が見えた気がした。
まだ少し遠いが、青空を映すような青と、陽光を反射するような小さな輝き。
再び立ち直すと、その輝きへと歩を進めていく。
一歩一歩疲労で重い足を進めていくと、その正体が鮮明に見えてくる。
池だ。幾つもの円い睡蓮の葉と、緑色の睡蓮が咲き浮かんでいる小さな池だった。
本音を言えば湖や川。湧き水があれば嬉しかったのだが、背に腹は代えられない。
懸命に歩を進めて池の端に辿り着くと、私は崩れるように膝を着いた。
「はぁ…はぁ…っん…はぁ」
乱れる呼吸の間に、両手で掬った池の水を喉に流し込むと、冷たく僅かに甘い水が喉から食道。
そして胃へと流れていく感覚が心地良く感じる。
二回程掬い飲み終えると、私はふと我に返った。
池の水を飲んでしまった。
こんな寄生虫や細菌がいても可笑しくない危険な水を。
池の底が僅かに見える程澄んでいるとはいえ、安全という保障など欠片も無い水を。
背中から腰に掛けて、現実が思考を冷めさせていく。
「…な……じょ…」
焦りと不安で動けずにいると、少し離れた所から女性の声が聞こえた気がした。
驚き顔を上げた事で、幾つかの事に気が付いた。
前面に広がる水面には、求めていた緑色の睡蓮の花が幾つも咲いている事。
そして、私から二十数歩離れた池の端に、膝を崩して横座りしている、白いノースリーブワンピースを着た濃い紫の長髪の女性がいる事に。
「此処は、この花は…っ」




