第15話「大魔法使い」
木々の陰から、一人の少年が姿を現した。
おかっぱ頭に、古臭いデザインの帽子。サイズが合っていないローブを引きずっている。
見た目は子供だ。だが、その瞳には千年の時を見つめてきたような、老獪な光が宿っていた。
「だ、誰ですの!? 私たちの愛の語らいを邪魔する無粋者は!」
レギーナが叫ぶ。
少年は、倒れ伏すラインツファルトを一瞥し、呆れたように肩をすくめた。
「愛ねぇ。一方的な暴力の間違いだろ。……それに、そいつはまだ死なせるわけにはいかんのでね」
少年が指を鳴らす。
パチン。
それだけの動作で、森の空気が一変した。
地面から若木が急成長し、ラインツファルトの体を優しく包み込む。緑の光が傷口に浸透し、失われた左足を「仮の植物」で補修していく。
「な……ッ、森の魔力を、直接操作して!?」
レギーナが驚愕に目を見開く。
この魔の森は、暴走した魔力の濁流だ。人間が制御できる代物ではない。
それを、この少年は、まるで自分の手足のように操っている。
「名乗りなさい! 何者です!」
「名乗るほどの者じゃないが……」
少年――シュテュンプケは、ニヤリと不敵に笑った。
「強いて言うなら、この森の『大家』ってとこかな。店子が騒がしいから、説教しに来てやったんだよ」
「……減らず口を!」
レギーナが魔術を放つ。
緑色の閃光。だが、それはシュテュンプケに届く前に、空中の塵となって霧散した。
結界ですらない。魔術の構成式そのものを、外部から強制的に解体されたのだ。
「な……?」
「お前らの魔術は、所詮は『借り物』だ。神の膿を利用しているに過ぎない」
シュテュンプケが一歩踏み出す。
それだけで、レギーナの周囲の空間がねじれ、無数の蔦が彼女を拘束した。
「だが、私らの魔術は対話だ。この森と、歴史と、因果とのな」
「う、うごけな……ッ!?」
レギーナが宙吊りにされる。
勝負あり。
圧倒的なまでの、格の違い。
ラインツファルトは、霞む視界でその背中を見つめた。
意識が途切れる寸前、レギーナの絞り出すような声が聞こえた。
「その力……古代の再現体……。まさか、伝説の大魔道士……シュテュンプケ……!?」
「へえ。まだ覚えられてたとは光栄だねえ」
それが、ラインツファルトが聞いた最後の言葉だった。




