第14話「目的と欲望」
「ああ……なんて美しい」
レギーナが、ゆっくりと彼の上に馬乗りになる。
ドレスの重みと、彼女の体温。そして、濃厚な血の匂い。
彼女は恍惚とした表情で、ラインツファルトの頬に触れた。
「私、ずっと憧れていたんです。強い方が、無様に這いつくばる姿に」
彼女の指が、ラインツファルトの傷口を愛撫する。
激痛に顔を歪める彼を見て、彼女の呼吸が荒くなる。
「でも……まだ……全然足りない……」
呟きと共に、彼女はドレスの胸元を引き裂いた。
露わになる白い肌。だが、そこにあるのは扇情ではなく、暴力的なまでの衝動だ。
「こんなんじゃ……私の渇きは癒やせないでしょう!?」
ドガァッ!!
拳が、振り下ろされた。
魔術などない。ただの、強化された肉体による質量攻撃。
ラインツファルトの鼻骨が砕ける音が、森に響く。
「戦場でも、美しさが大切なんじゃなかったのか……ッ」
血泡を吐きながら、ラインツファルトが皮肉を漏らす。
レギーナは、血に濡れた拳を舐めながら笑った。
「私は常に美しさを心掛けているつもりですが。さあ、もっと私に見せて、貴方の生を!」
ドスッ。グシャッ。バキッ。
「がんばれ! がんばれ! がんばれ!」
殴打の雨。
抵抗できないラインツファルトの顔面が、原形を留めぬほどに腫れ上がっていく。
意識が飛び、闇に沈みかける。
その時。ラインツファルトの脳裏に、既視感がよぎった。
圧倒的な暴力。
抵抗できない弱者。
(ああ……そうか)
彼は気づく。
自分が抵抗できないのは、怪我のせいだけではない。
目の前の女の狂気が、自分の中にある共和国への罪悪感と共鳴してしまったからだ。
これは罰だ。
友を救えず、国を滅ぼした自分への、相応しい末路だ。
――諦めかけた、その時。
ヒュンッ!
鋭い風切り音と共に、銀色の光弾がレギーナの首筋を掠めた。
「きゃっ!?」
レギーナが悲鳴を上げ、飛び退く。
彼女の白い首筋から、一筋の血が流れる。
「……まったく。見てらんねえよ」




