退職記念パーティ
⋇温度差による風邪注意
「それじゃあ<救世の剣>からの引退を記念して、かんぱーい!」
「かんぱーいっ!」
茶番の決闘を終え遂に大組織の運営から解放された僕は、それを記念して屋敷でパーティを開催してた。絶対<救世の剣>の方はお通夜みたいなムードになってそうだけど、まあ今までニア頼りだったし仕方ないよね! もうちょっと自分で頑張ろうな!
「いやぁ、ベルの最期のシーンは正に熱演だったね? 最期の瞬間まで醜く悲願に縋りつこうとするマッドサイエンティストみたいで、実に味があったよ」
「いや~、あれは真に迫っていたね~? よっ、演技派メイド長~!」
「ベルちゃんの演技凄かった! 百点満点っ!」
「褒めて貰えて光栄だ。慣れない演技をした甲斐があるというものだぞ」
僕を始めとして、皆口々にベルの熱演を賞賛する。
せっかくだし、あの場にいなかった奴らにもあの決闘と顛末は鑑賞させてたんだよね。どうやら皆面白い映画として随分楽しんでくれたみたいだ。何か途中でお茶の間が微妙な雰囲気になりそうなお色気シーンがあった気がするけど。
「ハニエルとバールもお疲れー。予想外の事もあったけど、何とかあの犬猿の仲の大天使魔将コンビを倒せたね?」
「はい、頑張りました! でも、私は筋書き通りの戦いをしただけなので、あまり褒められる事はしていないような……」
「そんな事ないない! 痛みに耐えて見事全部演じきったんだから表彰物だよ!」
「然り然り! 与えられた役割を忠実にこなす事ことこそ、最も重要な事柄なり! その豊満なる胸を張るが良い!」
「セレスさん、トオルさん……ありがとうございますっ!」
ベルと甲乙つけ難いくらい頑張ってたハニエルもたっぷり褒めてあげる。今まで役立たずの頭お花畑だったとは思えないくらい頑張ってたし、凄い役立ってたよね? ちょっとイカれちゃったのはアレだけど、もうこのままで良いんじゃないかな?
「……あれ? そういえば片割れの吸血鬼はどこいった?」
「アイツなら廊下でズタボロになって天井にめり込んでたぞ。誰かさんに仕置きでもされたんじゃないか?」
「あぁ……」
リュウの言葉に納得して、思わずトゥーラやリアに囲まれ上機嫌でお喋りしてるベル(アルカの姿)に視線を向ける。
頑張ってたのにちょっと酷くない? とは一瞬思ったけど、冷静に考えるとお仕置きも仕方ない程度にはクッソ情けない負け方してたもんね。大天使のおっぱいに顔挟まれて抱かれて場外とかいうアホの極みのやつ。
当初の予定では余裕でアルカ側が勝利する展開だったのに、そのせいでだいぶ辛勝になっちゃったし。こりゃあベルがキレて折檻するのもしゃあなしだ。
「幾ら生の女性が苦手と言えど、あれは酷かったからね。魔将があんな敗北の仕方をするとは、正直なところ幻滅だよ」
「だらしねぇ奴だな。死体とばっかヤってるせいで頭も腐っちまったんじゃねぇの?」
「君らもだいぶキツイ事言うね……」
これにはレーンもキラも呆れ顔。顔はイケメンなのに、着実に他者からの好感度や信頼が地の底に落ちて行ってる件。ざまあと思う反面ちょっと可哀そうに思う僕もいるな? まあ死体好きには地の底がお似合いって事で良いかな。今めり込んでるのは天井らしいが。
そんなこんなで一人足りないものの、皆でワイワイと賑やかなパーティを楽しむ。飲んで食べて、あるいはバカ騒ぎとか変な遊びとかしながら。ツイスターゲーム的なもので遊んでたらトゥーラとセレスに痴漢されまくったのは参りましたね。黄色の円じゃなくて金の玉に触って来た時はコイツら正気かって思ったよ。
とにもかくにも、僕もテンションは絶好調。世界の平和を勝ち取るために戦う世界的な組織の運営とかいう、クソ面倒なお仕事から解放されたからね。もう酒池肉林の宴を繰り広げたい感じだよ。人数多いのとヤバいのが何名かいるから、女たち全員と大乱交とかやったら確実に搾り取られてミイラになるからやらんが。
だから羽目を外さない程度に楽しんでたんだけど、パーティの場には何やら浮かない顔をしてる奴が一人だけいた。ハニエルやベル以上の功労者がそんな顔をしてるのはさすがに放っておけないから、さしもの僕も声をかけたよ。えっ、バールは放置すんのにって? 良いじゃん、野郎は別に。
「どうしたミニスちゃん。浮かない顔してるな? これでようやく英雄っていう堅苦しい役目を終えられたんだぞ? 嬉しくないのか?」
「え? ああ、うん……嬉しくないわけじゃないわよ。ただずっと賑やかな日々を過ごしてたから、正直ちょっと寂しくて……」
寝取られ写真撮るみたいに肩を組んで話しかけても、何かミニスの反応は心ここにあらずって感じだ。こんな真似したらいつもならまず不快感とか侮蔑の反応を見せるのに、特にそういう反応しない時点で相当おかしい。あれだけ英雄役任せた時に不満たらたらで激おこだったのにこれとか、やっぱりわりとエンジョイしてたんだな。
でもニアの役目はあくまでも旗印となり、人々を導く事。だから全部ニアに任せたままじゃ真の世界平和には至れない。そういうわけでここらで退場っていうことにしたんだよ。
「へえ? 寂しいならこの後僕が慰めてあげるよ。たっぷりとね?」
「………………」
肩を組んだままミニスの頬をベロリと舐め上げ、服の上からその胸元を指でくりくりと撫でる。イェーイ、女神様見てるー? これからミニスちゃんとエッチしちゃいまーす。
などと寝取り役ムーブをかましてみるが、ここまでやってもミニスちゃんは正直微妙な表情。むしろ寂しさを埋められるならそれでも良いかって感じの表情してらっしゃる。これは重傷だなぁ……。
「仕方ないだろぉ? このままニアにおんぶに抱っこじゃアイツらが成長できないもん。それにニアの役目はあくまでも旗印となる事であって、世界を救う事じゃないって最初から言ってたでしょ?」
「分かってるわよ、そんな事……でも寂しいのは仕方ないじゃない。あと<救世の剣>をあの二人に任せられるのか正直疑問だし……」
「お前も信じてないんかい……」
最後の別れを告げてる時は心配しながらも信頼を感じてる風だったのに、実際はかなり不安だった模様。嘘も演技も上手くなったねぇ、この子?
ちなみに台本も用意したけど、ニアの細かい台詞に関しては特に指定はしてないよ。実際に部下たちに慕われ、かつ自分は気にかけてたミニスほど上手い台詞を選べるとは思えなかったしね。
「でもまあ、たぶん大丈夫だよ。あれだけ色々発破かけて煽った挙句、罪悪感も無力感もたっぷり刻み付けてやったんだ。幾ら犬猿の仲のあの二人でも、世界平和のために協力して本気で取り組んでくれるさ」
「だと良いんだけど……」
ここまで言ってもミニスは心配性。ニアの時とは違い、いまいちあの二人を信じていない模様。
今回の戦いではニアとトルファトーレを自然に退場させつつ、<救世の剣>のメンバーたちに深い無力感を植え付けるのが目的だった。ただそれだけだと全てが嫌になりどうでも良くなって、自己を高めるっていう発想が出てこない可能性もある。だから自分たちのせいでニアが死んだという事実も一緒に刻み込む必要があったってわけ。
終わり際の様子を見る限り、良い感じに全員の心に深い傷を負わせる事に成功したと思う。後はよっぽどの恩知らずや恥知らずでも無い限り、放っておいてもニアのために邪神を討ち真の世界平和を実現しようと動くはずだ。ちょっとこの世界のクズ共に対して期待しすぎかもだが、<救世の剣>のメンバーは選別に選別を重ねたまともな奴らだからね。これくらいは期待しても良いはずだ。
「尤もしばらくはニアの死を悼んで何も手に付かないかもしれないけど、それくらいは認めてやろう。僕だって血も涙もないクソ野郎じゃないしね」
「血も涙もあるなら<救世の剣>の皆の心を抉るような展開、普通やらないでしょ……」
「いやぁ、僕も心が痛むけど皆の成長のために涙を呑んでやってるわけだよ。心が痛むなぁ?」
「痛む心なんて無い癖に、どの口が言ってんのかしらね……」
ミニスはわりと的確なツッコミをしてくるが、やっぱりどうにも覇気がない。愛らしいウサミミも萎れ気味だ。うーん、これ以上どうやったら元気づけられるだろうか……。
「まあ今は不安なんて忘れてぱーっと楽しもうよ。ようやく責務や重圧から解放されたんだしさ。ほら、このデッカイステーキをお食べ? それとも僕のビッグフランクフルトの方がお好み?」
「あっつ!?」
慰めの言葉はもうかけたし、今度は性欲と食欲に働きかける事にしてみた。そんなわけでジュウジュウと音を立てる分厚いステーキをミニスの口元に近付けつつ、別のお肉が良いかを尋ねてみました。
なお目測誤って頬に押し付けちゃったから、ミニスちゃんはあまりの熱さに飛び上がってたよ。ごめん、押し付けるなら僕のビッグフランクフルトにすべきだったね。
「主のフランクフルトを食べて良いと聞いて~っ!!」
「あー、ズルいっ! あたしも! あたしも食べるぅー!」
「リアもーっ!!」
「うおっ!? ちょっ、やめろコラ!」
何てやってたら、僕の下ネタ発言を聞きつけた奴らが突如殺到してきた。トゥーラが僕の足を払い、セレスが押し倒し、リアがズボンを脱がせるという流れるような連携プレーをかまして。
ていうか酒臭っ!? 酔ってんのかコイツら!?
「はあっ……」
なお隣でそんなバカ騒ぎが繰り広げられてるのに、やっぱりミニスちゃんは心ここにあらず。差し出されたからなのか、あるいは無意識なのか、ステーキをもぐもぐと食らいながらため息を零してたよ。
やっぱりこれは僕のビッグフランクフルトをご馳走しないと駄目か? でも早く馬鹿どもを引き剥がさないとポークビッツにされちゃう! 誰か助けて!




