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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第21章:英雄の意志

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異常な大天使

⋇戦闘開始……の前に何度目かの箸休め。

「それにしても、バールさんはやっぱり威厳がありますよね。正に吸血鬼の真祖に相応しい威風堂々とした立ち振る舞いと気品が感じられます」

「む。そ、そうか?」

「はい! 私、大天使なのに全然威厳が無いって昔からいっぱい言われてきたので、ちょっと羨ましいです……」


 ハニエルのイカれ具合をどう説明したものか迷ってると、何やら大天使によるヨイショが始まってた。

 まるでキャバクラみたいな露骨な持ち上げ方だけど、言ってる本人はたぶん本心から言ってるから怪しさが全く無い。おかげで女に散々騙されてきたはずのバールの心にもするりと入り込み、満更でも無さそうな表情を引き出してたよ。やっぱチョロいから諸々のターゲットにされてたんじゃねぇかなぁ?


「ふっ、気にするな。確かにお前には威厳は無いかもしれないが、それは恥じる事ではない。威厳とはすなわち、他者を跪かせ頭を垂れさせるカリスマの発露。慈悲と慈愛に満ちたお前とは正反対の要素であり、お前には不必要なものなのだ」

「なるほど! 確かに私、親しみやすい人だって良く言われます!」

「そうだろう? 故にお前はそのままで良いのだ。穢れ無き一輪の白百合のまま、生のままに咲き誇るが良い」

「はいっ! ありがとうございます!」


 そして何か口説いてるようにも取れる発言してる。学習能力無いのかな?

 もう穢れてるとか、白百合じゃなくて鮮やかな毒花だとか、口説き文句が臭すぎるとか、色々ツッコミたい所が多い件。でもツッコミどころが多すぎて一つに絞れないや。

 あと真実を知った後にダメージが増加しそうな事、自分でどんどん増やしてくのは止めて貰える? 自殺志願か?


「うん、見てて面白いけどそろそろ訂正しないとヤバそうなんで教えとこうか」

「後で本人が頭抱えて苦しみそうだしな」

「でもあのナチュラルに女の子を口説くみたいな口調、由緒ある高い身分の吸血鬼っぽくて良いよね? ちょっと憧れちゃうかも……」


 このまま放っておくと再起不可能なレベルになるかもなんで、気は進まないけどネタ晴らししてあげる事にしました。

 決して自分の女を口説かれた事に対しての報復じゃないよ? いや、普段ならそういう気持ちだっただろうけど、今はただただ見る目がなく騙されやすいバールへの哀れみしか無かったし。


「よおブラザー、ちょっと良いかな? 実は君に伝えておきたい事があるんだ」

「うん? どうした、クルスよ」

「何か満足気な顔してる所申し訳ないんだけど、残酷な現実を思い知って貰うね。実はハニエルはこの屋敷の連中の中でもトップクラスにイカれてるんだ」

「……何だと?」


 回りくどく言っても通じそうにないから、直球で真実を伝える。

 これには上機嫌だったバールの笑みも凍り付き、警戒するようにハニエルに視線を向けた。


「どうしました? 私の顔に何かついて――あっ!? も、もしかして、こっそりお夜食に食べたケーキが……!?」


 ただし相手は基本的には元のままのハニエル。顔を真っ赤にして自分の口元を触り、クリームとかついてないか慌てて確かめてたよ。こんな反応する奴が頭イカれてるとか言われても信じられないだろうなぁ。

 ていうか夜食にケーキって重すぎだろ。痩せたからって調子に乗って食ってると太るぞ?


「……何を馬鹿な事を。我をからかうのもいい加減にしろ。こんなおめでたい頭の天使が、あの狂人共よりもおかしいはずがないだろう?」

「いやぁ、信じられないかもだけどマジなんだ。まともな女に飢えてる所悪いけどさ」

「くどいぞ。さすがの我も騙されん。見ろ、この清純極まる立ち居振る舞いを。この世の穢れなど知らぬとばかりの輝きでは無いか」

「あー、駄目だこりゃ。厄介オタクみたいになってやがる」


 案の定、騙されやすいバールはハニエルをまともな女と信じて疑わない。こんな奴なら騙すのも実に簡単だったろうなぁ? どうして散々騙された癖に自分の判断を信じるのか。


「しゃあない、荒療治といくか。ハニエル、ちょっと良い?」

「はい? 何ですか、勇者様?」


 これ以上バールが自爆のための燃料を追加する前に、もう手荒でも良いから真実を教えてあげる事にしました。

 そのためにハニエルを手招きして、のこのこやって来た所にとある命令を耳打ちする。まともな人なら当然こんな命令受け入れはしないが、相手は僕を神と同等以上に崇め、正義の化身として崇めてる感じの狂信者。命令とさえ言っておけば拒否するわけも無かった。


「分かりました! お任せください!」

「やっぱ分かっちゃうんだ……」


 僅かばかりの逡巡も見せず、実に良い笑顔で頷くハニエル。イカれちゃった大天使に若干ドン引きしつもも、僕はその手にこっそりととある物を握らせて送り出しました。


「バールさん、ちょっとよろしいですか?」

「うん? どうした、ハニエ――ルっ!?」

「うわぁ……」

「さ、殺人事件だ……!」


 そしてトコトコとバールに歩み寄ったハニエルは、イケメンのムカつく微笑みを完全スルー。あまつさえその手に僕が握らせたもの――ナイフをイケメンの心臓に突き刺しました。

 これには刺された当人も、そして成り行きを見守ってた元勇者二人も目を丸くしてたよ。笑顔で近寄ってった女が突然『こんにちは、死ね!』ってやってきたんだから無理も無いが。


「ば、馬鹿な……貴様、何故こんな事を……!?」

「勇者様のご命令だからですよ? 勇者様のお言葉と考えは絶対なんです。なので勇者様が刺せと言えば、私は千回でも一万回でも刺します。だってそれが正しい事なんですから」


 がくりと膝を付き、愕然とした表情でハニエルを見上げるバール。そしてニッコリと返されるのは誰でもイカれた狂信者と分かる謎の理論。

 ただまあ、信じてたバールは即座に理解する事が出来なかったっぽい。驚愕を越えてぽかんとした表情で固まってたよ。胸からどくどくと流れる赤い血が悲しみの涙みたいに見えてくるね。何か詩的。


「……く、クルス! コイツは、コイツはイカれている!」

「だからそう言ってんじゃん。勝手に女に幻想抱いてたのはお前だぞ」


 たっぷり数秒かかって、ようやくバールは真実を理解したらしい。イケメンフェイスを悲しみと恐怖に歪め、腰を抜かして後退りしながら分かり切った事を抜かしてたよ。どう足掻いてもがっかりイケメンだな、お前……。


「あっ、傷が勝手に治ってますね。そういえばバールさんは高い癒能力を持つ吸血鬼でしたね。あれ? この場合、私は勇者様のご命令を果たせていない事になるんでしょうか? それはいけません! しっかり果たさなければ!」

「ひ、ひいっ!? やめろ、こっちへ来るな!」

「待って下さい、バールさん! ナイフを、どうかナイフを刺させてください!」


 なお胸の傷が勝手に塞がったせいか、ハニエルはもう一度ナイフを刺さないといけないと独自解釈をしたっぽい。真剣な眼差しでバールを見据えつつ、ナイフ片手にバールへ小走りで近寄ってったよ。

 そして腰を抜かしてるバールは無様に地面をカサカサ這い回って逃げる。真祖の吸血鬼がゴキブリみたいな姿晒しててだいぶ笑えますね。


「あっと言う間に吸血鬼の威厳が地に落ちたな」

「がっかり吸血鬼……何かイメージ壊れちゃった……」


 せっかくトオルからの株が上がってたのに、速攻で地に落ちた模様。

 これ年齢を考えるにがっかりイケメンは一生治りそうにないな? 何なら吸血鬼という種族が本当に相応しいかどうかも怪しいまである。あまりにも哀れで言葉も無いぜ。


「おい、見ていないでコイツを止めろっ!」

「おっと、忘れてた。ハニエル、もういいよ。ありがとう」

「あ、はい。分かりました。じゃあこれをお返ししますね?」


 尊厳と威厳をかなぐり捨てたバールが僕の足に縋りついてきたので、やむなく中止の指示を出す。すると丸めた雑誌片手にゴキブリ追い回す感じだったハニエルは刃を収め、ナイフを僕に返してきたよ。使用済みだからちょっと血塗られてるけど……。


「はあっ、はあっ……! やはり女など、信用ならん……!」

「ああ、トラウマがより深くなっちゃった……」


 異常性を鎮めたハニエルの姿に、やっぱりバールは女嫌いを深めてしまう。発言からするとだいぶホモっぽいが、死体に興奮する方向に向かう辺りまだノンケだよね。

 というか死体とはいえ何度手酷く騙されても性欲が向くのは女な辺り、実は生粋の女好きなんじゃなかろうか。まあ某クソ犬バカ猫に初めてを乱暴に奪われておきながら、女好きである種のハーレム築いてる僕は人の事言えんか……。


「あっ、そうだ。実はバールさんにお願いしたい事があったんです。私たちが戦う時の作戦についてなんですが」

「ち、近寄るな! もう少し離れろ!」


 命令の遂行が終わったせいか、ハニエルはさっきバールを刺した事なんて全く気にしてないっぽい。日常会話でもするかのような気安さで歩み寄り声をかけてたよ。当のバールは僕の後ろに回って人を盾のように使ってビビリ散らかしてたけど。これが魔獣族を守護する魔将の姿か……?


「そんな……酷いです。私、嫌われちゃいましたか……?」

「逆に何故嫌われないと思った!? お前は頭がおかしいのか!?」

「何か気の毒になって来たな。さすがに俺もハニエルがおかしいと思うしよ……」

「可哀そう……」


 そしてあまりにも哀れなバールの姿が、元勇者二人の同情を誘う。

 実際おかしいのはハニエルの方だもんね。人を刺しておきながらそれを忘れたようにフレンドリーに話しかける奴なんて――あれ、この屋敷には結構いそうだな? 実は結構多数派なのでは?


「まあまあ、落ち着けやブラザー。それで? ハニエルはバールに何をお願いしたいの?」

「はい。実は戦いの開始と同時に、バールさんにちょっと死んで頂きたいんです」

「……は?」


 間をとりなしてやろうと思ったら、ハニエルが僕でも理解できない事を口走った件。これには僕も宇宙を背景にした猫みたいな顔しちゃったと思う。むしろこれ理解出来た奴いる?


「あっ、すみません。言い方が悪かったですね。死なななくても構いませんので、粉微塵になって頂けますか?」

「……すまない。我は何かお前の気に障る事をしただろうか……?」


 当然バールも理解できないみたいで、ちょっと泣きそうな顔してたよ。イケメンがガキみたいにべそかいてても気持ち悪いだけなんだよなぁ……。

 あと僕は言い直した方で何となくハニエルの意図が理解出来ちゃいました。確かに言い方が悪いな、これは……。

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