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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第21章:英雄の意志

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ハニエルとバール

「ばたんきゅー……」

「いや無理だろこれ、勝てねぇよ……」


 魔法に適応して進化し耐性を獲得する力を持つ生物兵器――エヴォルヴ。とりあえず性能テストとして元勇者二人に戦って貰った結果、まあ順当に二人は地面に伸びてたよ。トオルなんか目を回してるし、リュウはかなり荒い息で毒づいてます。

 多少は良い感じの戦いになるかと思ったけど、トオルが初手で雷ぶっ放しちゃったからぐだぐだでした。どうやらこれは魔法じゃないから大丈夫と思ってたらしいが、それも一応魔法なんだわ。魔法じゃないのは僕が女神様から直々に授かった時間を操る能力くらいっすね。

 なのでエヴォルヴは初手で電気に完全な耐性を身に着けてしまい、決定打をロスト。ガバガバな戦いが進行して、二人は最終的に舞台を象ったリングから叩き落されました。もうちょい頑張って欲しかったね?


「コンセプト的に真っ当に倒すのはほぼ不可能だからなぁ。本番では十数人かそこらで戦うことになるだろうし、場外に落として倒すものと割り切ればいけそうな感じ?」

「それならいけるんじゃないか? 受けた攻撃への耐性を身に着けて進化していくって都合上、どんな攻撃も一発目はまともに喰らうって事だしな。落とすだけなら難しくないだろ」


 などと真っ当な答えをくれるも、それが出来なかった情けない元勇者たちである。いやまあトオルが作戦も無く突っ込んでったのが原因かもしれんけど。

 ちなみに観戦してた僕はちゃんと作戦浮かんでたよ。こう、雷速で動くトオルがリュウをぶん投げてエヴォルヴにブチ当てるって感じのやつ。電気は加速に使うだけだから耐性は無関係だし、リュウの身体は再生するから雷速で衝突して木っ端微塵になっても大丈夫ってわけだ。むしろ何度でも使える人間砲弾だね。

 えっ、人の心が無い? 何を今更分かり切った事を……。


「じゃあ二体目もこんな感じで良いかな。最終調整が残ってるとはいえ、お前たちのおかげで意外と早く生物兵器の作成が済んだよ。ありがとね」

「どういたしまして。満足行く出来になったなら俺達も付き合った甲斐があるぜ、全く……」

「へへん! 私は役に立つ子だもんね!」


 ちょっとお疲れな顔したリュウと、ガバっと立ち上がりドヤ顔で無い胸を張るトオル。まあマジで夜遅くに付き合ってくれた事には感謝しかないね。何て便利――じゃない優しい奴らだ。やはり持つべきは道具――じゃなくて仲間だな!


「じゃあそういう事で、お疲れ様でしたー」

「いや、ちょっと待てよ。どうせなら三戦目の相手を教えてくれよ。もう決まってるんだろ?」

「あっ、それ私も気になる。どういう悍ましい生物兵器なの?」


 用事は終わったので部屋に戻ろうとした僕だけど、さすがに中途半端で終わるのは不完全燃焼らしい。リュウもトオルもどうせなら最後まで教えろって感じで、三戦目の生物が何かを尋ねてきたよ。

 ぶっちゃけ用件終えたから僕もさっさと寝たいんだが、二人だって眠気を我慢して付き合ってくれたしね。ここは寛大な心を以て対応してあげるか。トオルが何故か悍ましい生物兵器って断定してるのが気になるけど。


「知りたいなら本人たちを呼び出してやろうか。片方はともかく、もう片方は普通に起きてるだろうしね」

「本人たち……?」

「片方……?」


 僕の答えに、二人はそれぞれ別の言葉に首を傾げた。

 まあ百聞は一見に如かず。なので僕は三戦目を任せた偉大なる強者二人の頭に、直接かつ容赦なく声を届け呼び出しました。やっぱり片方寝てたけどな!






「何用だ、クルス。闘技場に我を呼び出すなど……」

「何かご用ですか、勇者様? 私がお力になれる事なら、何でも仰ってくださいね」


 しばらくして現れたのは、ちょっと不機嫌な残念イケメン吸血鬼のバール。そしてニコニコと純真な笑みを浮かべる、精神的に壊れておかしくなっちゃった大天使のハニエル。

 ちなみに二人とも戦装束というか、お好みの黒のマントや青い法衣に着替えて身嗜みはしっかりしてました。まあハニエルはちょっと目がぼーっとしてるし、若干寝ぐせが付いてるけど。


「もしかしてコイツらが三戦目の相手なのか? 生物兵器じゃなかったのかよ……」

「その通り。邪神に洗脳されて操り人形と化した魔将と大天使っていう、最終戦に相応しい豪華な面子でしょ?」


 どうやらリュウも生物兵器だと思ってたみたい。予想が外れたせいか、微妙に悔しそうな顔してたよ。

 でも本当は三戦目も生物兵器で行こうと思ってたんだよね。具体的にはニアの贋作みたいな感じのやつで。その方が最終決戦も盛り上がりそうだし。

 ただそんなもの作れるならニアの身体(内臓)を求める理由が若干薄くなりそうだからやめたんだ。あとどっかのイカれちゃった大天使が独断専行の無差別テロ行為をしたから、こっちの方がインパクトと絶望感強いかなって。ぶっちゃけバールは添え物みたいなところある。


「良い! 良いよ、それっ! 今までの確執を乗り越えて共闘する聖人族と魔獣族、その最後の対戦相手が自分たちを守護する役目を負ってたはずの魔将と大天使! 何かこう、ロマンを感じるよね! 宿命って感じ!?」


 なお中二のトオルはこの人選が琴線に触れたみたいで、目を輝かせて大興奮してました。

 実際ちょっと皮肉を込めた人選なのは否めない。決闘は全部で三回戦あって一度参戦した人は二度参戦出来ないルールにするから、最後は虎の子の魔将と大天使が出てくるだろうしね。意図的に宿命演じてます。


「しかも予想通りなら対戦相手は同じく魔将と大天使だ。これは面白い戦いになりそうじゃない?」

「うわぁ、凄く良い! 過去の自分たちとの決別――いや、過去からは逃れられないっていうある種のメッセージみたいで興奮するよね! 逃れられぬカルマ!」

「趣味がわりぃなぁ……」


 ますます昂るトオルと、ちょっと嫌そうに渋い顔をするリュウ。

 まあ趣味が悪いと言われるのも分かる。だけどこれは決して僕の趣味だけでやってるわけじゃないんだ。必要な事だから断腸の思いでやってるんだ。決して愉悦に浸ってるわけじゃないぞ?


「ふむ。どうやら闘技場での戦いの相手を紹介していたようだな? まさかたったそれだけのために呼び出されるとは思わなかったぞ」

「うん、二戦目までの相手を作るのに協力して貰ったからそれくらいはね? ていうかお前はどうせ暇してただろうし別に良いじゃん?」

「私はもう休んでいたんですよ? それなのに叩き起こすなんて、勇者様ったら酷いです。全くもうっ」


 呆れた様子のバールと、頬を膨らませてぷんぷん怒ってるハニエル。

 それでもしっかり来てくれる辺り、二人はだいぶ人が良いよね。あるいはチョロいと言うべきか。片方は見た目まともに見える狂信者だけど。


「……まあ良い。それより、我も少々尋ねたい事がある。三戦目の相手は我とハニエルに決定しているようだが、コイツは戦えるのか?」


 などと色々考えてると、バールがちょっと心配そうに尋ねてきた。隣のハニエルを指差し、結構失礼な事を。途端にハニエルの表情が曇り、どこか儚く悲し気に歪んでたよ。


「やっぱり、私は頼りないですか? ごめんなさい……」

「い、いや、頼りないというわけでは……」


 そんな今にも泣きそうな感じのハニエルにバールはタジタジ。イケメンの癖して女に不慣れな童貞みたいに頬を染め、挙動不審に陥ってる。一目で反応がおかしいと分かるね?

 でもこれは仕方ない。だってバールはハニエルの事、長い人生で初めて出会ったまともな人間性を持つ女だって思ってるから。


「……なあ、クルス。もしかしてコイツ、知らないのか?」

「ハニエルってだいぶ暴れてたよね? 号外にもなってなかったっけ?」

「コイツ基本的に地下にこもって死体と遊んでるだけだし、情報にはかなり疎いんだよね。街の支配者っていう重責から解放された反動なのか、すっかり引きこもり生活を満喫してるっぽいし」

「じゃあハニエルの異常性にも気付いてないって事か」

「え、それマズくない? 早い所教えてあげた方が良いんじゃ……?」


 そう、バールはハニエルがいかにヤバい女になってしまったかを全く知らないのである。イカれても基本的に外面は元のままだから、一見すると慈悲と慈愛に満ち溢れた頭お花畑天使のままなんだよ。

 そのせいでバールは完全に騙されちゃってて、ハニエルをまともな女と固く信じ込んでる有様。散々女に騙され酷い目に合わされた癖にまだ信じるとか、これはもうバールの方に原因があるのでは?


「ま、まあ、気にするな。お前は他の奴らと異なり、極めてまともな人間性を持った女だ。それだけで十二分に価値がある。胸を張って誇るが良い」

「ありがとうございます。ですが、その言い方はどうかと思いますよ? まるで私以外の全員が、人としておかしいと蔑んでいるようにも聞こえてしまいます。皆さんとても素晴らしい人たちなんですから、そういう風に言ってはいけませんよ?」

「む。しかし、異常者ばかりなのは事実で……」

「めっ、です! 人を異常者なんて言っちゃいけません! 分かりましたか?」

「むぅ……」

「分かりましたか?」

「……うむ」


 そんな真実を知らぬバールは、ハニエルの極めてまともな話に呑まれちゃってる。まるで聞き分けの無い子に念を押すように迫られ、ちょっと頬を染めながら頷いてたよ。

 もしかしてバール君、優しいお姉さんみたいなのが好みなんです……?


「……面白いからもうちょっとこのままにしといちゃ駄目?」

「さすがに知らないまま本番とか可哀そうだろ。もう一思いにバラしてやれよ」

「鬼! 悪魔! 邪神!」


 見てて愉快だから思わずそう提案すると、リュウに窘められた挙句トオルに酷い罵倒を受ける。

 でも面白いじゃん? どうせバラすならこのままじっくりと積み重ねて行って、ここぞっていう場面でバラして突き落としてあげたいよ。さすがにそれやったら女性不信通り越して人間不信になりそうだけど……。

 次回こそはカッコいいバールが見られる……はず。

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