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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第21章:英雄の意志

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高ランク冒険者たちVSエヴォルヴ

「……マズいな」


 エヴォルヴの岩のような身体に戦斧の一撃を叩き込みながら、カレンは状況の悪さに毒づいた。

 近接戦闘を得意とする高ランク冒険者たちと連携を重ねている事で、こちらに被害や負傷はほとんど無い。稀に負傷者が出ても他の者がすぐにカバーし、その間に下がってラッセルたちから治療を受ける事が出来る。敵は一体で仲間がいるわけではないので、一見すると持久戦はこちらが有利だ。

 しかしカレンは戦況が傾きつつある事を、戦斧に伝わってくる手応えから明確に感じ取っていた。


「どうかしたか、ボインのねーちゃん」

「お前それセクハラだぞ。女との距離計れねぇとかマジ親父だな?」

「さすがに俺も今のはどうかと思うぞ。最低だろ」

「う、うるせぇ! つい口走っちまったんだよ! だってマジでデカいだろ!?」


 フェイブルの言葉に、エレフセリアとコルウスが軽蔑の眼差しを向ける。

 腐ってもサキュバスなのでカレン自身は全く気にしていない呼称だったが、一般的には今の呼び方は相当マズいものだったらしい。とはいえ今の状況ほどマズいものだとは思えなかったが。


「まあこのセクハラハゲ親父は置いといて、どうかしたのか?」

「俺はまだハゲてねぇ!」

「後々ハゲるのは確定みたいな言い方だな……」


 三人は防御を固めているエヴォルヴに対し、別々の咆哮から鋭い一刀を叩き込みつつ軽口を交わす。

 すでに相手は四人を同時に相手取る状況への進化を遂げており、岩のような肉体には腕と眼球が新たに生じていた。ブレードを備えた腕は計六本となり、眼球は身体の前面や背面、側面で合計十二個。辛うじて人型を保っているが完全に化物の様相だ。

 しかし変化は見た目だけではない。徐々に、しかし確実に無視できない進化が発生していた。


「手応えが徐々に薄くなってきている。どうやら斬撃にも耐性を身に着けつつあるようだ」


 そう口にしつつ、カレンは戦斧の一撃を見舞う。身体強化の魔法によって底上げされた一撃の威力は、少し前まではエヴォルヴの岩肌に食い込むほどの威力であった。

 だが今は刃が食い込む事は無く、若干の傷を刻むに留まる。外見上の変化は無いものの、外殻の強度が増しつつあるのだ。遠からず斬撃に完全な耐性を身に着け、カレンの一撃ですら掠り傷一つ負わせられなくなる未来が見えていた。


「マジか。そいつはマズいな。あたしら全員刃物が得物だからなぁ」

「おいおい、冗談じゃねぇぞ! 腕と目玉を増やしても、まだ進化し足りないってのかよ!?」

「妙に守りを固めてると思ったら、コイツそれを狙ってたのかもしれないな。もしかすると知能も進化してるんじゃないか?」


 この情報には皆攻撃の手を止め、様子を窺う他に無かった。

 四人で連携する事で今はエヴォルヴの行動を抑え込む事が出来ていたが、斬撃に完全な耐性を獲得されれば優位は逆転してしまう。すでに向こうは一対多数の状況に対応し、腕と目を増やしているのだ。

 恐らくコルウスの予想通り、まだかろうじて負傷を受ける状況なので防御に徹しているだけであり、完全な耐性を獲得すれば一気に攻めに転じる事だろう。そうなれば止める術などどこにもなかった。


「どうする? 殺すのは諦めて何とか場外狙うか?」

「………………」


 首を傾げ尋ねてくるエレフセリアに対し、カレンは答えに窮する。

 相手は魔法に対してはほぼ即座に耐性を獲得し、それ以外の攻撃にも緩やかに耐性を獲得する化物。そしてカレンたちの武器は斧や剣といった斬撃による攻撃に分類されるもの。斬撃への耐性を獲得しつつある以上、正攻法で打倒しようとするのは愚策である。そもそもオリハルコンの肉体を持つ以上、素の防御力も並大抵ではない。

 しかしオリハルコンの肉体を持り、更に外皮が岩のように硬質化している事から、その重量もかなりのもの。完全な耐性を身に着けた相手を打倒するほどではないが、場外に押し出すのもあまり現実的ではなかった。

 果たしてどうすべきか。カレンが必死に考えを巡らせていると――

 

『――さあ、皆で一緒に踊りましょう♪ 楽しい楽しいパーティの始まりよ♪』

「……うん?」


 唐突に歌が聞こえてきた。酷く明るく朗らかな、明らかに場違いな歌が。

 この決戦の場で歌唱を披露する者などいるわけがないので、一瞬空耳かと疑ってしまった。しかし場外でカレンたちの戦いを見守っていた仲間たちの視線も、そして眼前のエヴォルヴの十二に及ぶ眼球も全て一点の方向に向けられていたため、カレンもついついそちらに視線を向けてしまう。


『最高のコンサートは終わり、でも本番はここから♪ 舞台の上で皆と一緒にダンシング~♪』

『観客たちも皆舞台に上がれ! 全員強制参加のパーティだ~!』


 するとそこには喜色満面で踊りながら歌を披露するノイジィと、その後ろで顔を真っ赤にして続けるコーラス隊三人の姿があった。驚くべき事に真面目で堅物気味なラッセルも加わっているのだから、さしものカレンも面食らってしまった。


「……何やってんだ、アイツら」

「さあ……」

「何か楽しそうだな。あたしも混ざりたいぜ」


 これには他の三人も戦いの手を止めてしまう。

 エヴォルヴが己の進化を促すために防御一辺倒になっているため攻撃こそされなかったが、真剣な戦いの最中に注意を逸らしてしまうのはかなりの悪手である。しかしそれほどまでにノイジィたちの奇行が理解できなかった。

 確かに彼女たちが手持無沙汰になるのは、敵の性質上仕方のない事だ。とはいえこちらの集中を削ぐような真似をするのは許せない。しかしラッセルまでもがあの一団に加わっている辺り、何か考えがあっての行動に違いなかった。


「む? これは……」


 その証拠に、カレンの身体には明白な変化が生じていた。突如繰り広げられた奇行への衝撃で気付かなかったが、彼女たちの歌からは途方も無い魔力を感じられた。それが歌に乗って波動のように拡散し、カレンたちの肉体に作用していたのだ。

 身体能力強化の魔法をかけているにも拘わらず、身体の奥底から力が沸き上がり全身に迸って行く。下手をすると身体が悲鳴を上げかねないほどの力が、発散の場を求めて内側で荒れ狂うほどに。


『幕は上がった♪ これからが本番♪ さあ、皆で一緒に踊りましょう♪』


 原因は考えるまでも無く、あの合唱団。

 何となくその作用と理由を察したカレンは、あのラッセルが決戦の場で赤面しながら歌う理由を理解するのだった。戦いの一助になるのなら、真面目な彼なら逆にどんな行為でもするはずなのだから。


「どうやらあの歌は俺たちの身体能力を極限まで高めてくれるようだ。ふざけているのかと思ったが、こんな戦い方もあるのだな。参考になった」

「おお、確かにめっちゃ身体が軽いぜ。それに反応速度とかも強化されてるみてぇだ。スゲェ歌だな?」

「こりゃスゲェ。身体の内側から若さが溢れてくる感じがするぜ」

「そんな言い方するからエレフセリアにオッサンって言われるんじゃね?」

「!?」


 歌に乗せた強化魔法という形態のせいか、カレンたち四人全員に効果があるらしい。それでいてエヴォルヴには影響がない辺り指向性が高いのか、あるいはこの歌にも耐性を獲得してしまい逆に効果が無いのか。

 いずれにせよカレンたちの力は急激に底上げされ、先ほどまでとは比べるべくも無い力を手に入れていた。


「……これならいける。先ほどまでの俺では実力が足らず出来なかったが、今の俺なら出来る。奴を場外に叩き落すための技を使う事がな」

「お、本当か? そりゃいいや。あたしには無理そうだからな」

「だが少々問題がある。未だ未熟な俺には軌道のコントロールが利かず直線にしか放てない。確実に当てるには奴を足止めする必要がある。加えて実行した後、俺は使い物にならなくなるだろう」


 あまりにもリスクが高いが、そもそも本来ならこの技を放つ事など出来ない。ノイジィたちの合唱魔法によって力量を二段も三段も引き上げられているからこそ、今のカレンにも行使可能となったのだ。

 実力に見合わない技を放つ以上、ある程度のリスクは覚悟する他に無かった。元よりこの機を逃せば勝利を掴みとる事など出来ないのだから。


「チャンスは一回って事か。良いぜ、あたしらに他に手はねぇんだし乗ってやるよ」

「分かった。俺らが死に物狂いで隙を作り出してやるから、ぶちかましてやれ」

「頼んだぜ、ボインのねーちゃん。あんただけが頼りだ」


 幸いな事にエレフセリアたちはカレンの作戦を受け入れてくれた。彼女たちもこの機を逃せば勝利が無い事は分かっているのだろう。何せ相手はどんな攻撃も無効化すべく進化を続ける化物なのだから。

 そんな怪物を相手に持久戦を続けるなど愚の骨頂。ならば一発逆転の策に賭けた方がよほど確実で有意義である。


「準備が出来たら合図をする。頼むぞ、お前たち」


 カレンは隙を作り出す事をエレフセリアたちに任せ、確実に己の技を成功させるため深い精神集中に入るのだった。


「……で、動きを封じる方法とか考えついてんのか? あたしは特に思いつかないんだけど」

「いや何も。オッサンはどうだ?」

「嘘だろ、お前ら……安請け合いしといてノープランかよ……」


 しかし直後に不安になる話が聞こえてきたため、出鼻を挫かれてしまう。あれだけ良い返事を返してきたにも拘わらず、エレフセリアとコルウスには動きを封じ隙を作り出す方法が思い浮かばないらしい。これにはフェイブルも呆れ顔であった。


「う、うるせぇな、オッサン! じゃああんたは思いついてんのかよ!」

「まあ一応な。これでも小技は得意なんでな」

「大技出せるほどの体力はねぇもんな」

「そういう言い方傷つくからやめてくれ……」


 ただフェイブルには何かしら作戦があるらしい。自信満々に胸を張って答えた後、エレフセリアからの遠回しな中年発言に酷く傷ついた表情を見せるのだった。

 何にせよ作戦があるのなら問題無い。今度こそカレンは深い精神集中を行い、頭の中でイメージを鮮明に組み上げ思い出すのであった。幼い頃に目の当たりにした、決して色褪せる事の無い憧れの姿を。




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