邪神オッパイ
⋇酷いタイトルですが気にしない方向でお願いします
「見てください、勇者様。ここがこの村唯一の診療所ですよ」
ハニエルとの初夜を終えた僕は、日が高くなった頃に別大陸の村を訪れた。ぶっちゃけしばらく放置してたし、村の様子見も兼ねてね。
そしたらハニエルが村の診療所を示しながらドヤ顔してるんだわ。何その自分もちゃんと働いてるんですよ、みたいな顔……。
「へえ、ここが。お前が働いてるとかいう眉唾物の施設ね」
「眉唾物って何ですか!? 私はちゃんとここでお仕事をしてるんです! もうニートや引きこもりなんて言わせませんよ!」
「寿命が存在するかも定かじゃない超長命種の癖に、良くそんな昔の発言を覚えてるなぁ……」
どうやら初対面の頃にネタにした話題をまだ覚えてたらしい。いや、どっちかというと根に持ってる感じだな? 基本は慈悲と慈愛に満ちた存在なのに、変な所で心狭いな?
「診療所かぁ。でもこれってさ、クルスくんの庇護を受けてるこの村だとあんまり必要無くない? クルスくんなら万病に効く特効薬とか大量に作れるんじゃないの?」
そんな感想を零すのは、僕の右腕を抱きべったりくっついてるセレス。
ハニエルと二人で村に行こうとしたら『二人きりのハネムーンとかズルい!』的な事を言って押しかけて来たんだわ。だから一緒に連れて来たってわけ。ただ普段よりも妙にくっついてきてる辺り、これたぶんハニエルとヤった事バレてますね……。
「やれやれ、小娘は何も分かっていないな~? 何もかも主に与えられてばかりでは、彼らもそれを当然と受け入れ傲慢になってしまうだろ~? 最低限の施し以外は与えるべきではないんだよ~」
なんてセレスに返すのは、僕の左腕を抱くトゥーラ。
コイツがついてきてる理由も右に同じって感じだね。あとコイツの場合は犬並みの嗅覚で確実に察してそう。やっぱお風呂程度じゃ匂いを落とせないか? いや、お風呂でもヤったのが駄目だったかもしれんな……。
「なるほどぉ? それじゃあトゥーラは、クルスくんからの愛は最低限で良いって事だね! その分の愛はあたしが頂きっ!」
「いいや、良くな~いっ! 私が無限大の愛を注ぐから、主も私に愛を与えてくれ~!」
「えぇい! やかましい奴らだなぁ!?」
なお二人は特に嫉妬や憤怒を示したりはしないものの、いつにもまして触れ合いがだいぶ濃い目だ。二人揃って腕から僕本体に抱き着いてきて、頬擦りまでしてくるんだからね。
しかしやたらに胸を押し当ててくる辺り、ハニエルの巨乳に危機感でも抱いてるんですかね……?
「それで? お前はここでの暮らしも気に入ってるから、屋敷と村を行き来したいって?」
二人に揉みくちゃにされながらも、ハニエルとの話を続ける。
どうもコイツはここでの生活が気に入ってるみたいで、こっちでの暮らしも続けつつ屋敷でも暮らしたいらしいんだよ。職場が五千キロ先っていうのは交通費支給されても辟易する距離だけど、まあ僕の手にかかれば距離なんてあってないようなものだ。
「はい。ここは私が長い間思い描いていた楽園そのものですから。それに私がいないと心配な人たちもいますし、子供たちとも一緒に遊んだり魔法を教える約束もしているんです。なので出来れば自由に行き来できると嬉しいのですが……駄目、ですか?」
「いや、好きにすればいいんじゃない? 別に私生活を縛ろうとは思わんし。ただしもう二度と勝手にテロみたいな事起こすんじゃねぇぞコラ」
「は、はい……その節は、本当にご迷惑をおかけしました……」
わりとマジに脅し気味に指示すると、途端に深々と頭を下げてくる。
実際コイツのやらかしに対処するため、だいぶ面倒な感じにしちゃったからね。大天使ハニエルご乱心のインパクトを薄れさせ、更に本人は悪くないって事にするために、役者云々の前に登場の予定すら無かったアルカを登場させる事になったし。挙句の果てにニアの出生の秘密や寿命問題を明かす事にもなった。おかげで<救世の剣>での活動期間は急激に短くなっちゃったよ。
しかしこうでもしないと聖人族の頂点の一人が裏切ったとか、戦争を仕掛けたとかで魔獣族との関係にヒビが入りそうだからね。問題を覆い隠すにはより大きな問題を作り出して覆い隠すのが一番だ。世界で最も強い英雄の秘密、これ以上にデカいスキャンダルは無いだろう。
「なら良し。ほら、移動用の魔道具だ」
「わっ!? とっ、と……あ、ありがとうございます……」
とりあえず転移を可能とする腕輪型の魔道具を投げ渡してやると、何度かお手玉しつつ受け取った。
やっちゃった事はしょうがないし、今更気にするだけ時間の無駄ってやつだよね。それにハニエルの凶行の根底にあるのは僕への忠誠心と平和への渇望だし、責めるに責められないもんなぁ?
だから許してやってるわけなんだが……何かハニエル、ちょっと不満そうな顔してるな? いや、これはどちらかというと切ない表情?
「何だその顔? もしかして他にも何か要求があるのか?」
「あ、いえ、そういうわけではないです。ただ、その……腕輪よりは、指輪の方が良かったかな、と思いまして……」
どうやらもっとロマンチックなものを期待してたらしい。頬を赤らめ、指をいじいじ擦り合わせながら呟いてたよ。
まあ結婚初夜プレイもやったし、指輪を求めるのもある意味では当然かもしれんな? 誓いの言葉だけで指輪の交換は無かったし。交換したのは精々体液くらいだ。
別に労力なんてかからないから指輪型にしてやってもいいんだが、ちょっと今は状況が悪いな?
「むっ、これは!?」
「抜け駆けの気配~っ!!」
そう、僕の左右には妙に愛が重い奴が二人もいる。そんなコンビの前で指輪を求めるとか、宣戦布告みたいなもんじゃん? 案の定ばっちり反応してるよ……。
「姐さん、姐さん! 生意気な新参者に思い知らせてやりましょうよ!」
「よ~し、任せておけ~! って誰が姐さんだ~!?」
「えっ、な、何ですか!? どこに連れて行くんですかぁ!?」
そしてセレスとトゥーラは僕の腕を解放したかと思えば、流れるようにハニエルの両腕をホールドしていずこかへと連れ去って行く。これは話し合い(肉体言語)かな?
まあハニエルもただではやられないだろうし、放っておいても大丈夫だろう。涙目で引きずられていく姿を見てると、大天使と魔将相手に渡り合った怪物には思えないが。
さて、引っ付き虫がいなくなった事だし村の話でも聞きに行くかなー。次回、ハニエル死す! デュエルスタンバイ!
「――ふむふむ、なるほど。村の暮らしは特に問題無いわけね」
「はい。強いて言うならどの程度村を拡大させるべきか、邪神様のご指示が無いため決めあぐねているというくらいですね」
ハニエルがドナドナされた後、村長ポジションのイケオジ吸血鬼ことロッソとお話をして村の現状を大体聞かせて貰った。しばらく放置してた割には特に問題が無くて良かったよ。元々は未開の島だったし、何かヤベー菌とかウィルスがあってもおかしくなさそうなんだけどね? むしろちょっとがっかりしました。
「そうだねぇ……今の所は人が増える予定はないし、拡大は最小限で良いよ。むしろ生活を豊かにする方向にシフトしたら?」
「了解致しました。では村の中央に巨大な邪神様の石像を立てる計画を最優先で進めます」
「うん、生活を豊かにって言葉は耳を素通りしたか? 邪神様の有難いお言葉を聞きやがれ」
一見するとまともに見えるロッソも、その実体は忠誠心の高い邪教徒。邪神の巨大な石像を村に建てるとかいうアホな計画を考えていらっしゃる。
いや、言い方からすると計画自体はもう出来上がってる感じか? デカい石像がどんな形で生活を豊かにしてくれるんだよ。日時計にでもするのか? これだから狂信者はよぉ……。
「――さてさて、アイツらは何してるのかなー?」
村の現状も聞き終えた僕は、ハニエルたちの姿を探して村を歩く。
道行く人々が即座に頭を下げてくるのはちょっと気持ち良いね? ガキ共はまだいまいち僕の偉大さが分かってないっぽいけど、別に僕を崇め奉れと強制するつもりはないから別に良いや。どうせ邪教徒の親の手で立派な邪教徒になるはずだし……あれ、ここって地獄かな?
まあ何にせよハニエルたちだ。爆発音とか衝撃波とかが無かった辺り、意外な事に戦いには発展してないっぽい。でもセレスたちのあの様子から考えるに、明らかに穏便に済むような状況じゃなかったと思うんだが……。
「あー、分かるー! クルスくんっておっぱい大好きだよねー?」
なんて思ってたら、村の中心辺りから突然僕の性癖を暴露する声が聞こえた。妙に楽しそうな声の主はセレスだな? これにはちょっと思考停止しちゃったよ。
だって僕は邪神で、周囲には僕を邪神として崇め奉る邪教徒がちらほらいるんだよ? それなのに邪神がおっぱい大好きとか言う悪評広められたら、邪神の威厳が地の底に落ちるだろうがよぉ? あー、何か周囲から生暖かい視線を向けられてる気がするぅ……!
「特にハニエルは巨乳だからね~? それはもう、口に出せないような事をいっぱいされたんじゃないか~い?」
「は、はい……いっぱい、されちゃいました……」
ちょっと絶望的な心地で村の中央に向かうと、そこでは大きな木の下で他人の性癖や性事情に花を咲かせる女たちがいた。ニコニコ笑ってるセレスと、嫌らしい笑みを浮かべたトゥーラ、そして顔を真っ赤にしてるハニエルだ。
おかしいな? あんだけ険悪だったはずなのに、何かめっちゃ仲良くなってない?
「でも、赤ちゃんみたいに吸い付く勇者様はとっても可愛かったです。何だか胸が暖かくなりました……」
「分かるー! 何かこう、母性みたいなものが沸き上がって来るよね!」
「獰猛なオスを感じると共に、庇護欲をそそる子のようにも思えてくる……アレは堪らない感覚だよね~!」
「おーぅ……」
うん、分かった。僕が悪かったからもうやめてくれ。邪神のイメージが粉々に砕け散ってしまう。あと子供たちの教育に悪いからさ?
あーあ、周囲の邪教徒の僕を見る目が失望に染まって……あれ? 意外とそうでもないぞ? 女たちは何か妙に好意的に感じるし、男たちは同士を見るような目になってる。邪神も自分たちと同じだって事で親近感を抱いたのかな? あー良かった、チクショウ。
まあアレだ。コイツらの前では邪神らしい演技はもうしてなかったから、むしろプラスに働いたって所だな。ただ絶対に世界の敵としての邪神のイメージは崩さないように行こう。おっぱい邪神とか呼ばれ始めたら目も当てられない……いや、邪神オッパイの方が語感は良いか……?
「あっ! おっきな子供発見!」
やむなく三人に歩み寄って行くと、セレスが僕を指差し失礼な言葉を口走った。そんなに子供扱いしたいならこの場でお前の胸をしゃぶってやろうか? おぉん?
「誰がこどおじだ。というかお前ら妙に仲良くなってるな?」
「はい! お二人共とても話しやすくて、素敵な方々でした!」
「まあ最初はちょっと面白くなかったが、話してみれば自然と気があったのさ~。私たちは純粋に主を愛している乙女たちだからね~?」
「純粋……乙女……?」
何だろう、今トゥーラから一番縁遠い言葉が聞こえたな?
まあ戯言は置いておくとして、確かにこの三人に共通してるのは『愛』だ。セレスは熱烈に僕を愛していて、あんまり認めたくはないがトゥーラも同じだ。
ハニエルに関しては若干微妙にニュアンスが違う気もするけど、深い愛情を持っているのは確かだね。少なくともどっかのイカれ猫とか魔術狂いに比べれば、僕を愛してくれてるはずだ。
えっ、比較対象が悪い? そりゃあそうだ。反論は出来ないねぇ……。
「お前らが純粋な乙女かどうかはさておき――セレス、お前の故郷の村の名前って何だっけ?」
「えっ? テュエラだけど、突然どうしたの?」
「いや、この村に名前が無くて割と不便だって聞いたから、お前の故郷の名前を付けようかなって思ってね」
脈絡のない問いに目をぱちくりさせるセレスに対し、その理由を説明する。
以前ハニエルが言ってたのを正直ちょっと忘れかけてたけど、さっきロッソにも同じ事を言われて思い出したんだよね。名無しの村だから名前が欲しいって。
ただ滅んだとはいえ存在してた村の名前を使うわけだから、その村の唯一の生き残りであるセレスに許可は取っておこうかなって。著作権とかってだいぶうるさいもんね。まあ時にはだんまりなのが解せないが……。
「……おん? どうした?」
そしたらセレスは何故か瞳を潤ませ、どこか夢心地な表情で僕に熱い視線を向けてきた。認めるのは癪だが、確かに乙女っぽい顔してんな?
「く、クルスくん……それって、プロポーズ? 故郷を俺達で復興させよう、みたいな?」
「いや、違うが? 何故そうなる?」
「分かった! あたし、頑張るね! 村を復興させられるくらいの人数、子供を作ろう!」
ぶっ飛んだ思考で辿り着いた結論をしっかり否定したのに、セレスは全く意に介さない。むしろ獲物を見つけた獣の如く瞳をギラつかせ、ル●ンダイブをかましてきたよ。つい数秒前まで恋する乙女みたいに見えてたのは幻覚だったのかなぁ? ていうかこの場で子作り始めるつもりぃ……?
「え~いっ、させるかっ! そいや~っ!」
「きゃーっ!? 邪魔するなー! あたしはクルスくんと幸せな村を作るんだー!」
僕はドン引きして動けなかったけど、横合いから飛び出したトゥーラがセレスをタックルで迎撃したので事なきを得た。よくやった、クソ犬。
なお二人は取っ組み合いながら地面をゴロゴロ転がり、お互いに頬を引っ張りあって醜い争いを繰り広げてました。争いは同じレベルの者同士でしか発生しないっていうよね。つまりトゥーラもセレスと似たようなもんだ。
「ふふっ。とっても賑やかですね、勇者様?」
「これは喧しいって言うんじゃないかなぁ……?」
なお、ハニエルはそんな二人の様子を眺めてクスクス笑ってました。めっちゃ醜い争いしてるけど止めなくて良いんですかね……?




