第22話 婚約発表と「前・最強夫婦」の襲来
夜会の後日、長老会との劇的な和解を経て、ついにこの日が訪れた。
ヴァルハイト公爵家が誇る広大な敷地の中でも、一際まばゆい輝きを放つ「大晩餐会殿」。
そこが、今回の「トア・レンバートとアルテリゼ・ド・ヴァルハイトの婚約発表会」の舞台であった。
普段の皇宮主催の夜会であれば、出席者は帝国内の高位貴族や有力者に限られる。
しかし、今日の顔ぶれは明らかに異質だった。
会場を埋め尽くしていたのは、きらびやかなドレスや夜会服に身を包んだ人間の貴族たちだけではない。
帝国の国境を接する他国から派遣された、物々しい正装をまとった使節団。
そして何よりも、このヴァルハイト公爵家の若き女主人であり、帝国最強の竜騎士でもあるアルテリゼを心から慕い、戦場を共にしてきた竜族の将兵たちであった。
「おい、本当にやるのか……。あのアルテリゼ様が、人間の、それも平民出身の書記官を伴侶に迎えるなどという話が」
「信じられん。我ら竜族の猛者たちがどれほど求婚しても、ただの一瞥で凍りつかせてきたあの御方がだぞ?」
「しかも噂によれば、あの頑固極まる長老会の重鎮どもを、自らの手料理だけで完全に手懐けたというではないか。」
「馬鹿な、長老会といえば人間の文化を最も嫌い、特に食事などただの栄養摂取としか見なしていない偏屈の集まりだぞ。料理ごときで懐くはずがない。きっと何か強力な精神魔術か、あるいは古代の呪具でも使ったに違いない……!」
会場のあちこちで、竜族の巨漢たちが酒杯を片手に、低く地響きのような声でヒソヒソと噂を交わしている。
彼らの視線は一様に、中央にそびえ立つ大理石の美しい大階段へと注がれていた。
人間の貴族たちは、そんな竜族たちの放つ特有の威圧感――「龍気」の余波に当てられ、扇子で顔を仰ぎながらも、好奇の目を隠そうとはしない。
身分制度の厳しいこの帝国において、公爵家の令嬢と平民の書記官という組み合わせは、本来であればスキャンダル以外の何物でもない。
しかし、当事者であるトア・レンバートという青年は、この短期間の間に長老会を黙らせ、公爵家の中での地位を確固たるものにしていた。
その「謎の平民」の正体を、誰もが見極めようと目を血走らせていた。
会場の壁際では、公爵家の副官を務めるバルトが、高級な仕立ての衣服を着ているにもかかわらず、見るからに青ざめた顔で自分の胃のあたりをぎゅっと押さえていた。
「……ああ、神よ。どうか今日一日、何事もなく終わらせてください。長老会との一件で私の寿命は確実に縮まったのです。これ以上の波乱が起きれば、私の胃は本当に破裂してしまいます……」
彼の祈りは、切実極まるものであった。
長老会がトアの料理によって「おいちい……」と涙を流して陥落したあの夜、その裏で書類仕事と各所への根回しに奔走したのが、このバルトだったのである。
彼の心労はすでに限界に達していた。
だが、会場を包む異様な熱気と緊張感は、ある合図とともに一瞬で静まり返ることとなる。
大晩餐会殿の天井に吊るされた何百もの魔力水晶のシャンデリアが、その光のトーンをわずかに落とした。同時に、オーケストラによる厳かなファンファーレが鳴り響く。
大階段の最上部、重厚な装飾が施された両開きの扉が、ゆっくりと左右に開かれた。
そこから姿を現した二人の主役に、会場のすべての視線が、まるで磁石に吸い寄せられるかのように釘付けとなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこに立っていたのは、見事に正装を着こなしたトアと、まばゆいばかりのドレスに身を包んだアルテリゼであった。
トアは、普段の地味な書記官のローブとは打って変わり、ヴァルハイト公爵家の家紋である「夜竜」が精緻な刺繍で施された、深紺色の最高級礼服を纏っていた。
仕立ての良さもさることながら、彼の持つ独特のおっとりとした、しかしどこか芯のある佇まいが、気品ある衣服と見事に調和している。
いつも通りのんきに、しかしどこか誇らしげに微笑む彼の姿は、決して高貴な血筋の者たちに見劣りするものではなかった。
しかし、それ以上に会場の息を呑ませたのは、その隣に立つアルテリゼの姿だった。
彼女が身に纏っていたのは、この日のために一流の職人たちが総力を挙げて仕立てた、純白と銀糸を基調としたスレイダーラインのドレス。
彼女の鍛え上げられたしなやかな肢体を完璧に引き立てるそのデザインは、背中が大胆に開いたバックスリット仕様となっていた。
そこから覗く、健康的で美しい背中のラインと、光の加減でかすかにきらめく竜の鱗が、見る者を圧倒する神秘的な美しさを放っている。
プラチナブロンドの美しい髪は緩やかに編み込まれ、一房だけ肩に垂らされていた。
「――綺麗だ、リゼさん。本当に、世界一格好良くて、綺麗です。」
階段を降り始める直前、トアが隣の彼女にだけ聞こえるような優しい声で、心からの賛辞を囁いた。
「ト、トア……。あまり見るな、落ち着かない……」
いつもは戦場で数千の敵を前にしても眉一つ動かさない彼女が、今はその頬を林檎のように真っ赤に染め上げ、視線を泳がせている。
トアの手を握る彼女の指先は、わずかに震えていた。
トアに真っ直ぐな瞳で褒められたせいで、アルテリゼの脳内はすでにキャパシティを超えていた。
緊張と、それ以上の恥ずかしさ、そして湧き上がる幸福感。
それらが彼女の体内で暴走した結果、無意識のうちに、彼女が持つ強大な『龍圧』が周囲へと漏れ出し始めてしまった。
ゴゴゴゴ……と、目に見えない大気の震えが、大階段を中心に広がっていく。
「な、なんだこのプレッシャーは……!?」
「アルテリゼ様の龍圧だ! しかし、これは怒りではない、何だこの、甘ったるくて、それでいて押し潰されそうなエネルギーは!?」
周囲の竜族たちが慌てて身構える中、彼女の魔力の乱れに呼応するように、天井のシャンデリアがチカチカと不規則に点滅を始めた。
人間の貴族たちは、その圧倒的な威圧感の前に呼吸することすら忘れ、ただただ圧倒されるばかりだった。
トアはそんな彼女の様子に気づくと、苦笑しながらも、繋いだ手に少しだけ力を込めた。
「大丈夫ですよ、リゼさん。僕がずっと隣にいますから。」
「……う、うむ。すまない、トア。だが、お前が格好良すぎるのが悪いのだぞ……」
小さく拗ねるように呟くアルテリゼ。
そんな二人の微笑ましい、しかし周囲にとっては命がけの空間に、突如として別の「絶対的な波動」が割り込んできた。
大晩餐会殿の重厚な正面扉が、ドォン! と大きな音を立てて開け放たれた。
押し寄せる人の波が、まるでモーセの十戒のごとく、左右へと綺麗に割れていく。
人々が恐怖と驚愕に目を見開き、道を開けたその先から、圧倒的な存在感を放つ「二人の男女」が、大理石の床を踏み鳴らしながら歩み寄ってきた。
「――ほう、あれがアルテリゼの選んだ男か?」
会場全体を物理的に震わせるような、凄まじい重低音の声が響き渡った。
現れた男は、岩山のような体躯を持つ、文字通りの超巨漢であった。
リゼと同じ美しいプラチナブロンドの髪を、豪快に後ろへと流している。
その顔面には、過去の激戦を物語る深い傷跡が刻まれ、右目には漆黒の眼帯――隻眼の戦神。
彼が歩を進めるたびに、大晩餐会殿の頑丈な床が微かに揺れているようにさえ錯覚させられた。
そしてその隣を歩くのは、妖艶な微笑みを浮かべる絶世の美女。
夜の闇をそのまま紡いだかのような漆黒の髪。
その肌の一部には、美しくも禍々しい夜色の鱗が、まるで最高の宝石のように纏わされている。
彼女の瞳は深紫に輝き、ただそこに立っているだけで、周囲の空間の魔力をすべて吸い尽くしてしまいそうなほどの吸引力を持っていた。
その二人を見た瞬間、壁際で胃を押さえていたバルト副官の顔から、完全に血の気が引いた。
「げっ……大公殿下と、大公夫人……!? な、なぜ、ここに……う、嘘だろ……」
バルトは今度こそ完全に白目を剥き、言葉を失ってその場に卒倒しかけた。近くの衛兵が慌てて彼を支える。
現れたのは、アルテリゼの実の親。
先代のヴァルハイト公爵にして、かつて帝国を襲った数々の神話級魔獣を単騎で討伐してきた、歴史に名を残す伝説の聖騎士『ガルヴァード・ド・ヴァルハイト』。
そしてその隣にいるのは、人間の世界の政治や権力争いに完全に飽き果て、遥か彼方の秘境に引き籠もっていたはずの、本物の古代竜の王女にしてアルテリゼの母、『エルシィ・ヴァルハイト』。
かつて帝国全土、否、大陸中をその圧倒的な武力と魔力で震撼させた、伝説の「最強夫婦」が、事前の連絡もなくこの婚約発表会に直々に殴り込んできたのだ。
会場の空気は、一瞬でマイナス数十度まで冷え切ったかのように凍りついた。
他国の使節団は、本能的な恐怖から腰の剣の柄に手をかけようとしたが、ガルヴァードの一瞥を受けただけで、その場に縫い付けられたように動けなくなった。
「アルテリゼ! 貴様、私に黙って結婚など、一体どういうつもりだ!」
ガルヴァードが吠えた。
その声は、ただの発生ではない。
純粋な闘気と魔力が乗った、一撃の咆哮。
パリリン! ピキピキピキ……!
その一喝だけで、大晩餐会殿に張られていた、魔法防護が施された強化ガラスの窓が一斉に悲鳴を上げ、無数のヒビが入っていく。
人間の貴族たちは、その覇気に耐えきれず、何人かが恐怖のあまり泡を吹いてその場に倒れかけ、周囲の竜族たちも冷や汗を流して直立不動の姿勢をとった。
「父上、母上……! なぜ王都へ……!」
アルテリゼの表情が、一瞬で戦鬼のそれへと変わった。
彼女は瞬時にトアの前に立ち、彼を背中に庇うようにして身構える。
彼女の口元から鋭い牙が覗き、鱗が逆立った。
「トアは私の唯一無二の伴侶だ! 例え父親であっても、彼を傷つけることは絶対に許さん!」
アルテリゼからも、先ほどまでの恥じらいは消え失せ、本気の『龍圧』が解き放たれる。
ガルヴァードの放つ地響きのような威圧感と、アルテリゼの放つ烈風のような龍圧が、会場の中央で激しくぶつかり合い、バチバチと火花のような魔力が散った。
緊迫する会場。
誰もが息を呑み、世界の終わりを予感した。
伝説の親子による、下手をすればこの王都、いや世界を滅ぼしかねない壮絶な身内喧嘩が勃発するかと思われた、その時――。
張り詰めた空気の中、アルテリゼの背後から、すっと前に出る影があった。
トアだった。
彼は、世界最高峰の強者たちが放つ、常人なら精神が崩壊しかねないほどのプレッシャーの中を、まるで春の陽だまりを散歩でもするかのような足取りで歩いた。
そして、いつも通りのおっとりとした、のんきな笑顔を浮かべたまま、伝説の二人に対して綺麗に一礼した。
「初めまして、お義父さん、お義母さん。トア・レンバートです。リゼさんからお二人のお話はよく伺っていました。お会いできて光栄です。」
「ト、トア!? 下がれ! 危ない!」
アルテリゼが慌ててトアを引っ込めようとしたが、トアはそれを優しく手で制した。
ガルヴァードの隻眼が、目の前の平民の青年に向けられる。
その視線は、ただ見つめるだけで肉体を切り裂くような鋭さを持っていた。
「……貴様がトアか。度胸だけはあるようだな。だが、我が娘の伴侶となるには、それだけでは足りんぞ!」
「はい、そうですね。……あ、それよりもお義父さん。」
トアはガルヴァードの威圧を完全に受け流しながら、彼の巨大な身体を観察し、小首を傾げた。
「そのお身体、数年前の古傷――確か、かつて討伐された神話級魔獣『オブリビオン・ハイドラ』の呪毒によるものが、最近少し疼きませんでしたか?」
「……ぬ!?」
ガルヴァードの動きが、ピタリと止まった。
隻眼が驚愕に細められる。
「なぜそれを知っている。この古傷の疼きは、私とエルシィ、そしてお抱えの最高位治癒術師しか知らぬはず……」
「リゼさんから聞いていたんです。お義父さんが雨の日や、湿気の多い日に、無意識に右の腰のあたりを気にする仕草をされる、と。」
トアは穏やかに微笑みながら語を継いだ。
「気になったので、先日、王宮の古文書館にある古代の医学書や、竜族の生理生態に関する古い文献をいくつか調べさせていただきました。その結果、そのハイドラの呪毒は、通常の治癒魔法では根絶できず、体内の奥深くの魔力の流れ(澱み)に巣食う性質があると分かりました。そして、それを中和し、完全に消し去るには――『薬草を練り込んだ特製の蜂蜜ハーブタルト』が特効薬になる、と」
「タルトだと……?」
ガルヴァードが呆然とする中、トアは自身の左手の指に嵌められた、かつて長老会から贈られた「空間収納の指輪」に意識を向けた。
「今日、お二人が王都に向かっているという情報をバルトさんから小耳に挟みまして。お口に合うか分かりませんでしたが、お疲れの身体に効けばと思い、さきほど大晩餐会殿の厨房を少しお借りして、作っておいたんです。」
トアが空間の隙間からおもむろに取り出したのは、一つの美しい菓子箱。
それを開けると、中から現れたのは、完璧な黄金色に焼き上げられた、甘く香ばしい極上のタルトであった。
表面には、厳選された数種のハーブが美しい紋様を描くように配置され、その上から、最高級の竜蜜がとろりと惜しみなくかけられている。
タルトがこの空間に現れた瞬間、大晩餐会殿を支配していた重苦しい緊張感は、一瞬にして、脳を蕩けさせるような甘美で、どこか清涼感のある香りで満たされた。
その瞬間、ガルヴァードの隣にいた母・エルシィの鼻がピクン、と敏感に動いた。
「……あら? この匂い、ただのタルトじゃないわね?」
エルシィの深紫の瞳に、妖しい光が灯る。
彼女は本物の古代竜の王女。
万物の魔力の流れを視覚的、かつ嗅覚的に捉えることができる存在だ。
「信じられない……。失われたはずの古代竜の魔力活性薬の成分が……それも、人間の好む極上の甘みと食感と共に、一分の狂いもなく完璧に調合されているわ……!」
古代竜としての本能が、そのタルトの『異常なまでの美味さと、自分たち竜族に対する計り知れない効能』を察知した。
エルシィは、夫であるガルヴァードが手を伸ばすよりも早く、目にも留まらぬ速さで菓子箱からタルトを奪い取った。
「あ、これ、エルシィ!?」
「いただくわ!」
エレガントでありながらも、肉食獣のような容赦のなさで、エルシィはその特製タルトを一口、大きくかじった。
「――っ!!!???」
その瞬間、エルシィの美しい瞳が、限界まで見開かれた。
彼女の全身が、まるで見えない衝撃に打たれたかのように、ビクンと硬直する。
「美味い……! 美味すぎるわ!ガルヴァード!!」
エルシィは頬を紅潮させ、信じられないといった様子で叫んだ。
「何これ!? サクサクとした生地の香ばしさと、ハーブの爽やかな風味が、濃厚な蜂蜜の甘みを極限まで引き立てている……! それだけじゃないわ、身体の中の、何百年も蓄積していた古い魔力の澱みが、一瞬で、まるで綺麗な湧き水で洗い流されるように消えていくようだわ……!」
彼女の背後から、目に見える形で純粋な、そして圧倒的に幸福なオーラが溢れ出す。
「素晴らしいわ、トア君! 私、一生この子について行く!!」
「な、何だとエルシィ!? 敵(?)の差し出した菓子だぞ、そんなものに……むぐっ!?」
妻の取り乱しように困惑するガルヴァードの口に、エルシィが残りのタルトを無理やり押し込んだ。
ガルヴァードの隻眼が、カッと見開かれる。
ガリ、と一口噛んだ瞬間、彼の脳裏に、かつて戦った神話級魔獣たちの記憶が走馬灯のように駆け巡り――そして、それらがすべて、甘く優しい蜂蜜の海へと沈んで消えていく感覚に襲われた。
「う、美味いぃぃぃッ……!!! なんだこれは、美味すぎる!!」
帝国の誇る最強の聖騎士が、人目をはばからず咆哮した。
「おお、おおお……! 腰の、あのハイドラの呪毒による嫌な痛みが……完全に、消えた……!? 魔法でも、いかなる聖薬でも抑えることしかできなかった痛みが、跡形もなく消え去っていく……!!」
先ほどまで、世界を滅ぼさんばかりの覇気と凶悪な威圧感を放っていた伝説の夫婦が、今やトアの作った一枚のタルトを巡って、まるで子供のように「もっとないのか!」「私が半分もらうわ!」と奪い合いを始めてしまった。
会場を包んでいた緊迫感は、一瞬で雲散霧消し、後に残されたのは、極上のスイーツの甘い香りと、伝説の夫婦の微笑ましい(?)大騒ぎだけであった。
「トア君と言ったかしら? あなた、なんて素晴らしい子なの! 気が利くし、料理の腕は神の領域だし……アルテリゼには勿体ないくらいよ!」
エルシィがトアの両手をがっしりと握り締め、少女のように目を輝かせる。
「は、母上!? 何を言うのだ!」
アルテリゼが抗議の声を上げるが、エルシィは完全にトアに夢中だった。
「うむ……トア殿」
ガルヴァードにいたっては、腰の痛みが完全に消失した喜びと、トアの持つ圧倒的な包容力、そして文字通りの「胃袋掴み」に完全降伏していた。
彼はその巨大な隻眼から、滝のような大粒の涙を流していた。
「娘を……いや、我がヴァルハイト家を、どうかよろしく頼む……! 君のような男こそ、我が家に必要だったのだ……!」
ガシガシと、ガルヴァードの岩のような手がトアの肩を叩く。
その衝撃でトアの身体が揺れるが、トアは変わらず、あはは、と優しく笑っていた。
「お口に合って良かったです、お義父さん、お義母さん。今度、公爵邸の実家の方にも、リゼさんの好きな煮込み料理を作りに行きますので、ぜひ皆さんで一緒に食べましょうね。」
「行くわ! 明日行くわ!」
「うむ、這ってでも行こう!」
トアのその提案に、伝説の夫婦は即座に満面の笑みで同意した。
そんな三人を見つめながら、アルテリゼは呆然としつつも、その頬を緩ませていた。
彼女の背後からは、隠しきれない本物の、立派な竜の尻尾がすっと伸び、トアの腰へとぎゅーっと、愛おしそうに、そして独占欲を示すように巻き付けられた。
「トア……お前は本当に、凄いな……」
「リゼさんが喜んでくれれば、それが一番ですよ?」
トアが彼女の頭を優しく撫でると、アルテリゼは嬉しそうに目を細めた。
その光景を見ていた、会場のすべての人間、竜族、そして他国の使節たちの心の声が、完璧に一致した。
(((((この格差婚……平民の旦那様の方が、圧倒的に『最強』だろ……!!!)))))
長老会に続き、帝国中が恐れる伝説の最強夫婦すらも、わずか数分の間にマスコット化し、完全攻略してしまったトア・レンバート。
こうして、二人の婚約は、帝国の誰もがひれ伏し、認めざるを得ない形で、圧倒的な祝福と共に確定したのだった。
バルト副官がその場で嬉し涙を流しながら気絶したことは、言うまでもない。




