表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケチなおっさん、転生して異世界を最弱教団で制覇しに行く。  作者: むちゃうまご飯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/44

戦争後

覚醒のノクス教団、そして金貨百両の皮算用

夕暮れが迫り、ノクス教団本部の作戦会議室には、少しずつ平穏な空気が戻りつつあった。

窓から差し込む茜色の残照が、年季の入った巨大な木製テーブルを赤く染め上げている。悲惨な死闘と、命を落とした百五十名もの大切な仲間たちを見送った深い哀悼の夜を経て、残された者たちは前を向かなければならなかった。

豪商ガスト教団の壊滅という激震は、このアクセルの街の勢力均衡を激しく揺るがす大事件だ。長年、巨額の資金力と暴力で裏社会まで牛耳っていた巨頭が潰れたのだから、その余波は計り知れない。この戦後処理の舵取りこそが、これからのノクス教団の未来を決定づけると言っても過言ではなかった。

「アステル、ギルドおよび現場の接収部隊からの詳細な報告がまとまった。現状を幹部全員で共有するぞ」

レオンが疲労の色を濃く滲ませた手で、分厚い羊皮紙の束を作戦卓の上に広げた。睡眠不足で目元には濃い隈が落ちているが、その瞳には理知的な光が宿っている。その横では巨漢のゴルドが太い腕を組み、重々しく頷く。フィーナとノクスも静かに身を乗り出して卓上を凝視した。

「まず、旧ガスト教団の残党についての報告だ」

レオンは眼鏡の位置を指先でクイと直しながら、冷静な声音で切り出した。

「教団長ゼルヴァを始めとする主要な幹部陣が悉く討ち取られ、さらに彼らが絶対の拠り所として信奉していた神ガストが消滅した。これにより、残された下級兵士や一般信者たちは完全に行き場を失い、路頭に迷っていた。通常であれば、彼らの多くは他勢力に奴隷同然に買い叩かれるか、あるいは食い詰めて凶暴な野盗化を辿るかの二択に追い込まれていたのだが……ノクス様のお慈悲と、武器を収めた者への助命宣告を受け、なんと約六百名もの元ガスト教団員が『ノクス教団への帰順』を強く望んできたのだ」

「ろ、六百人も……!?」

フィーナが驚きのあまり目を丸くして声を上げる。あまりの人数に、耳を疑った様子だ。

「ああ。我が教団の元の信者数は、昨日の壮絶な戦いを経て現在約四百五十名。そこへ帰順を誓った六百名が新たに加わるとなると……」

レオンは一呼吸置き、ハッキリとした声で宣言した。

「我がノクス教団の総信者数は、ついに一千名を突破した」

一千名――。

かつては路地裏の小さな新興教団に過ぎず、明日の糧食にも事欠いていたノクス教団が、名実ともにこのアクセルの街を代表する大教団の仲間入りを果たした瞬間だった。

「そして……皆が最も気になっているであろう、ガスト教団の資産状況についてだが」

レオンは羊皮紙に記された提示額を指先でなぞる。その指がわずかに震えていた。

「ガスト教団は街の商業流通や闇市場を深く牛耳っていただけあり、途方もない財を溜め込んでいた。本拠地の地下金庫に眠っていた現金の山、押収した大量の貴金属、高級不動産の所有権や商業権利書……それらをすべてギルドの厳正な鑑定士立ち会いのもとで計算した結果だ」

レオンは生唾を飲み込み、その衝撃的な数値を口にした。

「総資産……金貨八十万枚」

「は、八十万枚ぇぇぇ!?」

ゴルドがドスンと椅子を鳴らして立ち上がり、その巨体を揺らして目を見開く。

「おいおいおい! 金貨八十万枚だぞ!? ちょっとした地方の男爵家が全財産叩き売ってようやく届くかどうか、一族の栄華を何世代も支えるレベルの途方もねぇ大金じゃねぇか!」

だが、その驚愕の数字を聞いた瞬間、幹部陣の最前線に立っていた俺――アステルの目が、キランと怪しく光った。

「……待て、レオン」

俺は卓上に乗り出すように身を乗り出し、食い入るように報告書を覗き込んだ。

「八十万枚……? おかしいだろ。ガスト教団のあの巨大な規模と、これまでの悪どい搾取の仕方を考えたら、もっと隠し財産があるはずだ。裏の隠し金庫とか、海外の銀行への投資口座とか、戦死した幹部連中が個人的に溜め込んでいた裏金とか、全部隅々まで洗い出したのか!?」

「あ、アステル……? 急に目が金貨の形になっていないか……?」

レオンがドン引きした様子でわずかに後ずさる。

そう、俺は根っからの守銭奴だ。平時であっても一銅貨の無駄遣いすら絶対に許さない俺にとって、お金の話となると全身の血が激しく滾って抑えが効かないのだ。

「いいかレオン! 激戦で半壊した本部の修繕費、新しく加わった仲間六百人分の毎日の給食費と新品の制服代、命を落とした大切な仲間たちの遺族への手厚い補償金、怪我人たちの治療費……金なんていくらあっても足りないんだ! たった八十万枚程度で満足してどうする!」

俺は荒い息を吐きながらレオンの手から報告書を奪い取り、目にも止まらぬ速さで指を動かして算盤代わりのメモにペンを走らせた。

「ガストの個人部屋に隠されていた高級ヴィンテージワインの在庫、本殿の奥に飾られていた純金製の巨大な燭台、教団幹部どもが身につけていたド派手な宝石指輪や高価な魔導具……これら全部を闇市やオークションで一番高く競り売れば、さらに金貨二十万枚分にはなるはずだ! つまり、我がノクス教団が勝ち取った真の総資産は――」

俺は卓上をバシッと力強く叩いた。

「金貨一〇〇万枚だ!!」

「自分で試算を積み増したぞこの男……!」

レオンが呆れ果てたように額を押さえ、ゴルドは「ガハハハ! 相変わらず金のことになると手がつけられねぇ恐ろしいヤツだな!」と大爆笑している。

金貨一〇〇万枚。貴族の男爵家どころか、ヘタな子爵や伯爵の財力すら遥かに凌駕する圧倒的な資産。守銭奴の俺としては、これでようやく「まあ、当面の運営費としては最低限のやりくりができるか」と胸を撫で下ろせるラインだった。

そして、奇跡はそれだけにとどまらなかった。

信者数が一千名を突破したまさにその瞬間、部屋の中央に座っていたノクスの華奢な身体が、突如として眩い黄金の光に包まれたのだ。

「……っ!? ノクス様!?」

あまりの光量に、アステルは咄嗟に腕で顔を覆い、レオンは眼鏡を抑えながら目を細めた。ゴルドも思わず巨体を硬直させ、息を呑む。

ノクスを中心に、温かく神聖な神威の波動が波紋のように部屋全体へ広がっていく。それは肌を刺すような冷たい魔力ではなく、まるで陽だまりの中に包み込まれるような、圧倒的な慈愛と生命力に満ちた波動だった。

信者たちからの深く強い信仰と絆が一千人という大きな節目を迎えたことで、人々の想いの結晶が天に届き、神ノクスの神格が明確に一段上の領域へと進化を果たしたのだ。

シュアァァァァッ……!

眩しい光の粒子が静かに収束していく中、ノクスの背中に劇的な変化が現れる。

これまで彼女の背中に生えていた二枚の純白の羽。そのしなやかな根元のすぐ下から、新たな光の旋風が巻き起こり、さらにもう二枚の綺麗な翼が花が開くようにしなやかに展開された。

合計、四枚の純白の翼。

羽の一本一本が真珠のような美しい光沢を放ち、室内を黄金色の微光で柔らかく照らしている。

それと同時に、作戦会議室にいる俺たち全員の体内に脈打つ「神の加護」の力が、ドクンと音を立てて跳ね上がった。

「加護の力が……一段と進化している……!?」

俺は己の拳を力強く握り締めた。

体内の血流が急激に活性化し、五感が研ぎ澄まされていくのが分かった。視界が格段に明瞭になり、遠くの瓦版売りの声までハッキリと耳に届く。全身に湧き上がる魔力と体力が、これまでとは次元の違うレベルにまで底上げされていた。

これまで全能力を「一・五倍」引き上げていたノクスの加護が、全能力「二倍」へと劇的な強化を果たしたのだ。

一・五倍から二倍への強化――それは単なる数値上の増量ではない。戦場においては「圧倒的な格上」とも対等以上に渡り合えるほどの絶対的な領域へと足を踏み入れたことを意味していた。

一千名の信者、二倍となった強力な加護、四枚の翼を神々しく輝かせる神ノクス、そして俺が力技で一〇〇万枚の大台に届かせた莫大な財力。

ノクス教団は、ただの新興勢力から脱却し、ここに完全なる覚醒を遂げたのだ。

神聖な光が収まると、ノクスは背中の四枚の羽をパタパタと愛らしくはためかせ、パッと大きな目を輝かせた。

「わぁぁ……! 翼が四枚になってるよ……! パタパタすると、前より風がいっぱい起きるの!」

「ノクス様ーっ! すごいです、羽が増えてます! 加護もすっごく強くなりましたぁ! 体の中から力が湧き出てきますっ!」

フィーナが真っ先に駆け寄り、ノクスの両手を握りしめてぴょんぴょん跳ね回る。

「えへへ、フィーナが無事に戻ってきてくれたおかげだよ! 本当によかった……!」

「はいっ! ノクス様、大好きですー!」

二人でぎゅっと抱き合い、弾んだ明るい声で喜びを分かち合う姿に、戦いの疲労と犠牲者への深い哀悼で暗く沈んでいた作戦会議室の空気が、一気に華やかで温かいものへと変わっていった。

「やれやれ……神格の上昇、か」

レオンが眼鏡をかけ直し、フッと息を漏らした。その表情には、呆れと同時に誇らしさが混ざり合っている。

「伝承には聞いていたが、信者数の増加によって神の権能がここまで露骨に強化されるとはな。これならば、新たな六百名の信者を受け入れる体制の構築も、以前より遥かにスムーズに進むだろう」

「ガハハハ! 見ろよレオン、俺の腕の筋肉までいっそうキレが増した気がするぞ! 今ならガストの生き残りどもが全員束になってかかってきても、一人で叩き潰せるぜ!」

ゴルドが力こぶを作り、その丸太のような腕をパンパンと叩いて高らかに笑う。

そして、その傍らで俺――アステルは、腕を組んで深く頷きながら、怪しい笑みを浮かべていた。

(加護が二倍……! つまり、教団の警備コストを大幅に削減できるということか!? 少人数の精鋭で本部の護衛が完結すれば、人件費をさらに浮かせられる! 浮いた金でさらに投資を回し、金貨一〇〇万枚を数年で二百万枚に……!)

「アステル……お前、こんな神聖で感動的な場面でまで金のことばかり考えていないだろうな?」

レオンが冷ややかな視線を送ってくる。

「何を言うかレオン! 神様が強くなった今こそ、俺たち人間側がしっかりお金を管理して、ノクス様に美味しい食べ物と安全な環境を提供し続けるべきだろう! これぞ真の信仰心だ!」

「相変わらず都合のいい理屈だな……」

俺たちがそんな軽口を叩き合っていると、ノクスがフィーナと抱き合ったまま、パタパタと四枚の翼を揺らしてこちらを振り向いた。

「アステル、レオン、ゴルド! みんな、ありがとうね! 私、もっともっとみんなのことを守れるように頑張るから!」

その無垢で温かい笑顔を見た瞬間、作戦会議室にいた全員の胸に、言葉にできないほど強い絆と温かい決意が込み上げた。


そんな和やかな空気の中、突然、部屋の扉がドンドンドンと荒々しくノックされ、街の瓦版(新聞)の記者が息を荒らして汗だくで飛び込んできた。

「ハァ……ハァ……! ノクス教団の皆さん! 大変だ……いや、凄まじいことになっていますよ! 街の瓦版の号外が出ました!!」

記者が震える手で掲げた刷りたてのインクの匂いが漂う紙面には、目を疑うような巨大な太字が紙面いっぱいに踊っていた。

『衝撃! 新興ノクス教団が豪商ガスト教団を完全撃破!』

『凄惨を極めた激闘の末――ノクス教団、アクセルの街・第三位の勢力へ大躍進!!』

新聞には、今回の抗争がいかに過酷で凄惨な戦いだったか、そして圧倒的な不利を下して巨大勢力を打ち破ったノクス教団の強い絆と不屈の勝利が、臨場感あふれる文面で克明に記されていた。

号外が配られた直後、アクセルの街は文字通りひっくり返るほどの歓喜と驚愕に包まれた。路地裏の弱小勢力と見なされていたノクス教団の名は、今やこの街で知らぬ者はいないほど急速に轟くこととなったのだ。

「第三位、か……」

レオンが差し出された紙面をじっと見つめ、眼鏡の奥の瞳を微かに揺らしながら静かに呟く。

「名実ともに、我々は街の頂点の一角となったわけだな。ガスト教団が占めていた椅子に、我々が座ることになったというわけだ」

「おうよ! 街の鼻持ちならねえ連中も、これで俺たちを安く見ることはできねぇはずだ! これも全部、ノクス様と俺たちの絆の力だ!」

ゴルドが丸太のような太い腕で豪快に己の胸を叩く。その重厚な音で作戦卓が微かに揺れた。

フィーナとノクスは、号外の騒ぎもどこ吹く風といった様子で、ノクスの背中に新たに生えた二枚の美しい純白の翼に夢中だった。

「わぁ……本当に羽が四枚ある……! ふわふわしてて、すごく綺麗ですノクス様!」

「えへへ、フィーナの手、温かくて気持ちいいよ。ちょっとくすぐったいけど……っ」

二人は楽しそうに羽を触り合いながら声を上げて笑い転げており、その天使のような微笑ましい光景に、暗く沈んでいた作戦会議室の空気が一層華やかで温かいものへと変わっていく。

だが、その感動的な余韻に浸ることもなく、傍らで俺――アステルは、手に入れた「金貨一〇〇万枚」という目もくらむような巨額の資産の使い道について、一人でニヤニヤと怪しい笑みを浮かべながら狂ったようにペンを走らせていた。

「おいアステル……お前、また良からぬ顔をしているぞ」

レオンが引き気味の視線を送ってくるが、俺の耳には届かない。

「フフフ……金貨一〇〇万枚だぞレオン。これだけの巨金があれば、教団の運用能力は十倍以上に跳ね上がる! まず、全財産の三分の一にあたる金貨三十万枚は、絶対に誰も破ることができない三重魔法鍵付きの地下金庫に即座に封印する。鍵の作成は街一番の腕利き鍛治師と魔導技師を雇い、厳重な複成鍵を作る計画だ。俺以外の人間が金庫に近づいたら爆発するトラップも仕掛けなければ……!」

「物騒極まりない罠を仕掛けるな! そもそも会計はお前一人で仕切るつもりか!?」

「当たり前だ! 一銅貨の誤差も許さん! そして残りの金貨七十万枚だが……ただ金庫に眠らせておくのは愚者のやることだ。ガスト教団が所有していた商業権利書と不動産を活用し、街の商業組合や物流ルートに投資する。これにより毎月確実に固定収入が発生し、教団の運営費は永久に自走する仕組みが完成するんだよ!」

「ガハハハ! 相変わらず金のことになると手がつけられねぇ恐ろしいヤツだな!」

ゴルドが大爆笑しながら俺の背中をバシバシと叩く。衝撃でペンが吹き飛びそうになったが、俺の金への情熱は一向に衰えない。

「笑い事じゃないぞゴルド! 新たに加わった六百人の元ガスト教団員の毎日の食費、新品の制服や武器の調達費、命を落とした百五十名の遺族への手厚い終身手当……! 守銭奴の俺が本気で金転がしをやらなきゃ、いくら金貨一〇〇万枚あっても数年で底を突くんだからな!」

俺の熱弁に対し、レオンは呆れ果てたように額を押さえつつも、どこか嬉しそうに口元を緩めた。

「やれやれ……相変わらず口は悪いが、結局は仲間や遺族のことを一番に考えて計算しているのだな、お前は」

「ふん、当然だ。仲間を路頭に迷わせるくらいなら、俺は悪魔にだって魂を売るさ。それに……これだけの資金があれば、ノクス様にもっと豪華で美味しい食べ物を毎日用意して差し上げられるからな!」

「わあっ! 本当!? アステル、私、あのお肉がいっぱい乗ったパイが食べたい!」

翼をパタパタと動かしていたノクスが、目を輝かせてこちらに身を乗り出してきた。

「お任せくださいノクス様。金貨一〇〇万枚の力で、アクセル最高峰の料理人を教団専属シェフとして雇ってみせます!」

「やったぁー!」

ノクスとフィーナが歓声を上げ、部屋の中に再び明るい笑い声が弾けた。

号外が駆け巡ったその日の夜、ノクス教団本部の境内には、どこからともなく多くの人々が集まり始めていた。

帰順を誓った六百名の新たな仲間たち、前から教団を支えてきた四百五十名の信者たち、そしてノクス教団の奇跡的な勝利をその目で一目見ようとやってきた街の住人たちだ。

本部のバルコニーに、四枚の輝く翼を広げたノクス様が姿を現すと、境内を埋め尽くした一千人を超える群衆から、雷鳴のような歓声と拍手が巻き起こった。

「ノクス様ーっ!」

「ノクス教団万歳!」

「俺たちを救ってくれてありがとうー!」

地鳴りのような歓声の中、ノクス様は少し照れくさそうに微笑み、静かに両手を広げた。

その瞬間、彼女の背中の四枚の翼から、黄金色に輝く聖なる光の粒子が粉雪のように舞い散り、境内に集まった人々を優しく包み込んでいく。

「加護の光……」

誰かが息を呑んだ。

信者数が一千人を突破したことで一段上の神格へと覚醒したノクスの神威――全能力を二倍へと引き上げる強大な「神の加護」が、今や教団の全員に等しく行き渡っていた。怪我を負っていた者たちの傷がみるみる塞がり、心に疲弊や恐怖を抱えていた者たちの胸に、温かな勇気と希望が満ちていく。

元ガスト教団の兵士たちの中には、自分たちのような敗北者を温かく迎え入れ、慈悲の光を与えてくれたノクス様の神聖さに、ボロボロと涙を流して膝をつく者も大勢いた。

「悲しみや苦しみは、消えることはありません……。奪われた命も、戻っては来ません……」

ノクス様は、小さな胸に手を当て、透き通った声で言葉を紡いだ。

「でも……今ここにいるみんなで手をつなぎ、支え合っていくなら、どんな暗闇だって乗り越えていけます。私はみんなの神様として、ずっとみんなのそばにいます!」

「「「おおおおおーっ!!」」」

地を揺るがすような大歓声が夜空へと響き渡る。

その光景を、バルコニーの影から見守っていた俺たちは、静かに笑みを交わし合った。

「見ろよアステル……一千人の信者と、四枚羽のノクス様だ。俺たちの教団も、遠くまで来たもんだな」

ゴルドが感慨深そうに呟く。

「ああ。だが、ここがゴールじゃない。第三位ということは、上にはまだ二つの巨大勢力が存在しているということだ。そして街の勢力図が変わったことで、利権を狙う他の連中も動き出すだろう」

レオンが冷静に分析し、眼鏡のふちを上げる。

「フッ、望むところだ」

俺は胸ポケットに入った金貨一〇〇万枚の資産目録をポンと叩いた。

「莫大な資金、二倍になった強力な加護、一千人の固い絆で結ばれた仲間たち、そして何より最高に神々しい俺たちの神様がいる。どんな障害が立ちふさがろうと、我がノクス教団の進撃を止めることなんてできやしないさ」

悲惨な死闘の傷痕や、失った仲間たちへの哀悼の念が消えることは決してない。その痛みは永遠に俺たちの胸に刻まれ、戦い続ける理由となり続けるだろう。

だが、一千人の仲間とともに、強くなった神様、そして俺が意地でも守り抜き、さらに増やしてみせる潤沢な資産とともに――。

ノクス教団の新たな歴史と伝説が、今、ここアクセルの街から確実に始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ