新しい装備と神導拳魔将
二週間後――。
ついに、待ちに待った運命の知らせが鍛冶屋から届いた。
俺とフィーナは朝一番、朝日が街の石畳を黄金色に染め上げる時間帯から鍛冶屋へ向かい、功急ぐように店の重厚な扉を押し開けた。
店内に入ると、親方が腕を組み、仁王立ちで待っていた。
「来たか。」
そう短く告げると、親方は作業台の上に置かれた二つの巨大な木箱へ手を伸ばす。
「待たせたな。俺の職人生命を賭けた、正真正銘の超・最高傑作だ。」
木箱の蓋が、重々しい音を立ててゆっくりと開かれる。
まず姿を現したのは、俺の新しい防具だった。
白銀を基調とした胸当て。表面には流れるような神々しい青い装飾が施され、胸の中央にはあの『共鳴工房アルケミア』で手に入れた超・激レアマジックアイテム――『狂戦士の心核』が、寸分の狂いもなく芸術的に埋め込まれている。
深紅と淡い金色の光が鼓動するようにゆっくりと明滅し、まるで防具そのものが生き物のように息づいていた。
「これが……俺の……。」
思わず息を呑む。
以前の防具とは比べ物にならないほどの威圧感と存在感。それと同時に、俺の守銭奴脳内計算機が「推定価値:金貨五千枚以上」という恐ろしい数値を弾き出し、あまりの価値の高さに指先が微かに震えた。
恐る恐る身につけると、胸の『狂戦士の心核』が一瞬だけカッと眩い光を放ち、俺の体と完全に同調した。
ズキュゥゥゥン……ッ!!
体中へ、怒涛の勢いで脈打つ力が駆け巡る。体全体が羽のように軽い。それでいて、底知れない爆発的な破壊力が内側に深く眠っているのを皮膚感覚で理解できた。
「大成功だ。」
親方は満足そうに、ニッと口の端を上げて笑う。
「共鳴も完璧。神力回路のバイパスも破綻なく繋がった。戦えば戦うほど、その防具はお前の体と魂に馴染んでいくぞ。」
「ありがとうございます、親方……! 最高の仕事です!」
俺が深く頭を下げる。これほどの品、手放すことなど天地がひっくり返ってもあり得ない。一生モノ、いや我が家の家宝にして何代先までも引き継がせたいレベルの資産価値だ。
「礼なら、現場で暴れまくって教団の名を上げて返してくれ。」
親方は照れくさそうに鼻を鳴らした。
一方、フィーナも自分の帽子を受け取っていた。
オレンジ色のリボンがついたニット帽の正面には、あの『超運』と共鳴する伝説の素材――『黄金の紙』と『導天の羽』の魔力が完璧に織り込まれ、光を受けるたびに虹色へ幻想的に輝いている。その美しさは、思わず目を見張るほどだった。
「わぁぁ……! かわいいっ!!」
フィーナは鏡の前へ駆け寄り、何度も帽子を被り直して角度を確かめる。
「似合ってるかな、アステルさん!?」
「すごく似合ってる。完璧だ。」
「ほんと!?」
「ああ。前の帽子より、何倍も凄腕の弓職らしくなった。格が違う。」
「えへへ!」
フィーナは嬉しそうにその場でくるりと一回転し、帽子を両手で愛おしそうに押さえながら満面の笑みを浮かべた。
「これで超運も、もっともっと強くなるんだよね!」
「ああ。ドロップ率の跳ね上がり方に、大いに期待させてもらうぞ。」
親方も腕を組みながら、満足そうに大きく頷く。
「その帽子なら、お前さんの固有スキル《超運》との相性も抜群だ。射た矢が未来を自分で選んで当たりにいくような、狂った性能を発揮するはずだぜ。」
俺たちは改めて親方と職人たちに心からの礼を言い、鍛冶屋を後にした。
ホームへ戻ると、扉が開いた瞬間、ノクスたちが一斉にバタバタと駆け寄ってきた。
「おかえりなさい、アステル! フィーナ!」
「帰ってきたー!」
「完成したんですか、例の特注防具!」
団員たちが次々と集まってきて、あっという間に人山ができる。
フィーナは待ってましたと言わんばかりに、自慢の新しい帽子を高く掲げてみせた。
「見て見てー! 新しい帽子だよ!」
「「「うわぁぁぁぁ!!」」」
ワーッと歓声が上がる。
「かわいい!」
「すごく似合ってるよ、フィーナさん!」
次々に褒めちぎられ、フィーナは頬を真っ赤に染めながらも、心底嬉しそうにえへへ……と笑う。
「えへへ……そうかな? 似合ってる?」
「本当に可愛いですよ!」
ノクスまで背中の純白の二枚の翼をパタパタと揺らし、笑顔で拍手を送る。
「その帽子、すごく素敵! 神様の見立てとしても百点満点だよ!」
「ノクス様までー!」
フィーナは照れくさそうに帽子をぎゅっと抱き締め、その場で何度もくるくる回って終始ご機嫌だった。
ホームの中は、暖かな笑い声と熱気でいっぱいになる。
そんな賑やかで平和な光景を温かい目で見つめつつ、俺は一人、静かに自室へと戻った。
部屋の鍵をかけると、俺は新しい極上防具を身につけたまま、ソファーに腰掛けて静かにステータス画面を開いた。
視界の端に、青白く光るステータスウィンドウが浮かび上がる。
────────────────
名前:アステル
レベル:40
職業:神導拳魔師
加護:ノクスの加護(全属性1.5倍)
────────────────
「レベル40……。」
白翼教団との激闘、そして数々の高難度依頼とレアモンスター討伐を経て、いつの間にかここまで到達していた。
(ふむ……レベル40か。これでさらに基礎ステータスが上がったわけだ。依頼の達成効率も上がるし、ソロでの稼ぎも以前の比ではないな……)
守銭奴的な取らぬ狸の皮算用を頭の中で始めようとした、まさにその時だった。
『ポン♪』と、脳内で普段とは違う重厚な機械音声が鳴り響いた。
『条件を達成しました。』
『プレイヤーレベル40到達を確認。』
『第四職業枠を解放します。』
「……なに? 第四職業……!?」
俺が驚いて眉をひそめた瞬間、部屋の扉がバタンと勢いよく開いた。ノクスが目を目を輝かせながら部屋へ飛び込んでくる。
「アステル! 聞こえた!?」
「ノクス……第四職業ってなんだ? 職業は三つまでじゃなかったのか?」
「ふふん! レベル40以上になった本当の実力者だけが、四つ目の職業を選択できるようになるの!」
「四つ目……!」
「うん!」
ノクスは部屋の隅にある小さな祭壇へ駆け寄り、誇らしげに振り向いた。
「そしてね! 四つ目の職業を修得した人だけが、本当の、本格的な『上位職』へ進化した融合ができるんだよ!」
俺は息を呑み、言われるがまま祭壇の前へと歩み進めた。
祭壇から溢れ出した淡い光が視界を埋め尽くし、目の前にズラリと無数の職業名がホログラムのように表示される。以前の転職時よりも圧倒的に選択肢が多く、希少そうな職業が並んでいた。
その中で、一つだけ黄金色の眩い光を放つ職業が存在した。
《聖騎将》
「レア職業か……。」
画面には、神聖な白銀の鎧を纏い、巨大な聖剣と大盾を携えた厳かな騎士の姿が映し出されている。
説明文をサッとスクロールして読む。
『高い物理防御力、神術耐性、パーティー全体の耐久力を引き上げる陣形スキルを多数所持。さらに専用聖剣技を習得可能。』
見ただけで理解できた。間違いなく、前衛としてのスペックを極限まで引き上げるぶっ壊れ職業だ。
(防具の『狂戦士の心核』との相性も抜群……! これを修得すれば、防具の損耗率も下がり、ポーションの消費量も激減する=支出が減る=実質的な大儲けだ!!)
「これにする!」
俺が躊躇なく選択ボタンを押した瞬間。
『第四職業《聖騎将》を取得しました。』
ピコーンという音とともに、祭壇全体が今まで見たこともないような白金色の強烈な光を放ち始めた。
『条件を達成しました。』
『第四職業の取得を確認。』
『これより、本格的上位職への【系統融合・進化】を開始します。』
「来た来た来たーーっ!」
ノクスが跳ね上がるように歓声をあげる。
祭壇の頭上に、俺がこれまで歩んできた四つの職業名が、光の文字となって浮かび上がった。
《魔術師》
《聖職者》
《武術家》
《聖騎将》
さらにその中央へ、現在俺が就いている《神導拳魔師》の複雑な紋章が現れる。
『融合開始。』
ブォォォォォォォォン―――……ッ!!
四つの巨大な光の柱が一つへと重なり合い、教団の敷地全体を優しく包み込むほどの、神聖な白金色の光へと変化していく。
部屋の中が光で満たされ、やがてゆっくりと光が収まっていくと、俺の眼前に新たな文字が静かに、だが圧倒的な威厳をもって刻み込まれた。
《神拳聖魔将》
神導拳魔師からさらに進化した、本格的超上位職。
魔法・聖法・武法、そして聖騎将の重装戦闘技術を完全に高次元で融合させた、前代未聞の万能職。
さらに詳細を開くと、守銭奴の俺が狂喜乱舞するようなイカれた特殊効果がズラリと並んでいた。
『魔力・神力・気力の消費量が全般的に【二割(20%)減少】。さらに、三種類のエネルギーを同時に連続行使しても、威力の減衰および身体負荷が発生しない。』
「に、二割カット……っ!??!」
俺は血眼になってそのテキストを二度見した。
二割カットだぞ!? ポーション代も、魔力回復薬の経費も、神力の消耗による戦闘不能リスクも、すべてが20%オフ!! 燃費が爆発的に向上したということだ! これほど経済的でエコな超絶強化がこの世にあるだろうか!?
「うおおおおお!! 燃費最強!! コスパ最高ぉぉぉぉ!!」
俺が自室で叫んでいると、祭壇からあふれ出ていた白金色の光は消えるどころか、まるで意思を持っているかのように俺の全身を優しく包み込み始めた。
その光は単に眩しいだけではない。肌に触れるたび、俺の体内で独立していた魔力、神力、気力の三つのエネルギーが、互いに一切反発することなく自然に溶け合い、まるで一本の太い大河となって全身を駆け巡っていく。
「……なんだ、これは……!?」
自分の両手を見つめる。握り締めるだけで周囲の空気がビリビリと震え、何気なく指先へ魔力を意識しただけで、音もなく小さな火球がフッと生み出された。
試しに、その火球へ神力をほんの少しだけ重ねてみる。
すると、本来なら互いに打ち消し合うはずの二つの力が、すんなりと融合した。赤かった炎は神々しい黄金色へと変化し、聖なる光を纏いながら、手の上で静かに燃え続けた。
「完全に……融合している……!」
以前の《神導拳魔師》でも、魔法、聖法、気功を瞬時に切り替えて戦うことはできた。だが、あれはあくまで『高速切り替え』に過ぎなかったのだ。
今は違う。
三つの力が最初から一つのエネルギーとして俺の中に存在している。意識して混ぜ合わせているのではない。息を吸って吐くように、当たり前に融合しているのだ。
部屋の扉の隙間から覗いていたフィーナが、目を見開いて息を呑んだ。
「すごい……! 炎なのに……すごく神聖で暖かくて……綺麗な光……!」
ノクスは満足そうに、何度も深く頷いていた。
「うんうん! これが『本格的な上位職』の本当の姿なんだよ!」
その表情は、まるで自分の教え子が満点を取った時のように誇らしげだった。
「普通の上位職はね、一つの力をどこまでも極めるだけなの。でも、アステルは違うよ。」
「どう違うんだ?」
「神拳聖魔将はね……【全部を極める】ための、神様にとっても特別な職業なの!」
そう言って、ノクスは祭壇の横に表示された詳細画面を小さな指で指し示した。
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『神拳聖魔将』
・全ステータス極大上昇
・三種エネルギー適応率:100%
・複合技使用可能
・全属性・全状態異常耐性大幅上昇
・【複合神術】解放
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見たこともない規格外の項目が並んでいる。
「複合神術……?」
「今までは、既存の神術しか使えなかったでしょ?」
「そうだな。教本で覚えたやつか、固有の神威転化くらいだ。」
「でもね! これからは、神術と魔法を組み合わせたり、神術に気功の威力を重ねたり、自分だけの新しい神術をその場で作れるようになるの!」
「自分だけの神術を……作れる……!?」
俺は喉を鳴らした。
(待てよ……? 新しい技を覚えるために、いちいち高価な教本を買い足す必要がなくなるのか……!? 手持ちの基礎技を組み合わせるだけで、無限のバリエーションが生み出せる……!? つまり……教本代が永久に浮く!!!)
「なんて経済的な職業なんだ……!! 最高すぎる!!」
「そこ!? 感動する場所そこなの!?」
ノクスがズッコケそうになりながらツッコミを入れたが、俺にとっては死活問題だ。
俺は改めて、ステータス画面の細部を食い入るように見つめた。
『三力同時循環』
魔力・神力・気力を体内で同時に永久循環させることで、それぞれの回復速度および消費効率を大幅に向上させる。長時間にわたる極限戦闘時、この効果はさらに倍増する。
「なるほど……。」
前回の白翼教団戦や天使との戦いでは、神力の枯渇によって薄氷の勝利だった。あの最大の弱点(=補給ポーションの大量消費という金銭的弱点)が完全に克服されたということだ。
さらに『複合神術』の項目を開く。
『二種類以上のエネルギーを触媒として混ぜ合わせることで、固有の新たな神術を構築・発動可能。使用者の発想と知識次第で、その威力と効果は無限に変化する。』
発想次第。
つまり、固定された技ではない。俺の知略と守銭奴的コスパ追求の発想次第で、最小の消費エネルギーで最大の破壊力を生み出す『エコで最強の技』を自作できるのだ。
「すごい職業ですね、アステルさん……!」
フィーナも画面を覗き込みながら、目を輝かせて感嘆の声を漏らしている。
「ああ。……正直、自分でもどこまで強くなれるのか想像がつかない。」
すると、ノクスが少しだけ真面目な、神様らしい思慮深い表情浮かべた。
「……というよりね、アステル。」
「ん?」
「歴史を振り返っても……この《神拳聖魔将》まで辿り着いた人の記録って、ほとんど残ってないの。」
「え?」
「神導拳魔師までは、過去に何人か歴史に名を残した英雄がいるの。でも……その先である四つ目の職業を習得して、完全に融合進化できた人は……ほんの数人しかいないの。」
部屋の空気が、少しだけ重く、静かになった。
希少。
それはつまり、俺が誰も足を踏み入れたことのない、前人未到の領域へ足を踏み入れたということだ。お手本もなければ、攻略法もない。
だが――ノクスはすぐにパッと表情を明るくし、いつもの無邪気な満面の笑みを浮かべた。
「えへへ! でもね、アステルなら絶対になれるって、私最初から思ってたよ!」
そう言って、ノクスは俺の腕に抱きつき、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「やっぱり私のアステルはすごい! 世界一の幹部様だよ!」
フィーナも笑顔でパチパチと拍手を送る。
騒ぎを聞きつけた教団員たちも自室の前に集まり始め、ドアの隙間や廊下から顔を覗かせていた。
「おめでとうございます、アステルさん!」
「また一段と凄まじい気配になってますね……!」
「さすが俺たちの幹部だ!」
口々に歓声と称賛の声が上がる。
俺は少し気恥ずかしくなり、頭を掻きながら言った。
「よしよし、騒ぐな。俺が強くなったからといって、教団の無駄遣いを許すわけじゃないぞ。備品は大切に使えよ。」
「あはは! 相変わらずケチなんだから!」
ノクスが笑いながら、俺の顔を見上げて言った。
「違うよ、アステル。強くなったのはね……みんなを守るための力が、また一つ増えたってことなんだよ。」
ノクスは誇らしげに、心からの笑みを浮かべた。
「私、それが一番嬉しいな。」
その言葉を聞き、集まった教団員たちも温かい笑みを浮かべた。誰一人として嫉妬や恐れを抱く者はいない。俺が強くなることを、まるで自分のことのように喜んでくれる仲間たち。
俺は改めて、胸の奥が熱くなるのを感じた。
(……フン。これだけ大金を投資して、過酷な訓練を重ねてきたんだ。当然の成果だ。)
だが、この力は自分一人で富を独占するためだけのものじゃない。
このノクス教団という、俺が命と金を懸けて守ると決めた『最高の居場所』を永劫に守り抜くための絶対的な盾であり、剣なのだ。
俺は静かに、自分の新しい職業名を胸の中で反芻した。
《神拳聖魔将》
これが、俺の新たな力。
ここから、俺とノクス教団のさらなる大儲け――いや、快進撃が始まるのだ!




