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ケチなおっさん、転生して異世界を最弱教団で制覇しに行く。  作者: むちゃうまご飯


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教団戦5

白翼教団の敗北が正式に宣言された瞬間、広大な闘技場を包み込んでいた熱狂は、冷や水を入れたかのように一瞬で静まり返り、次いで勝者と敗者を極端に引き裂く巨大な空気の渦へと変化した。

ノクス教団の団員たちは、信じられないという表情で自分たちの手を見つめた後、一気に歓声を爆発させた。互いに抱き合い、肩を叩き合い、感極まって大粒の涙を流して喜んでいる。泥水をすするような極貧と侮蔑の日々を耐え抜いてきた彼らにとって、この勝利は単なる試合の結果ではなく、自分たちの存在と歩んできた道のり全てが認められた瞬間だった。

一方で、白翼教団の団員たちは対照的だった。誰一人として言葉を発する者はいない。先ほどまでの誇り高き表情は完全に消え去り、力なく膝をつき、ただ砂で汚れた地面を虚ろな目で見つめて俯いていた。敗北というあまりにも現実味のない結果に、頭の理解が追いついていない者さえいる。かつて命を賭して戦い、そして散っていったはずの復活した白翼教団の教団長も、惨めな結果にただ目を見張り、現実から逃避するように固く目を背けていた。

そして、その絶望の中心にポツリと立ち尽くしていたのが、白翼教団の神――オパールであった。

ほんの数刻前まで、彼女の顔には絶対的な余裕と、下位教団をあざ笑う高慢な笑みが浮かんでいた。しかし今、その表情は見る影もなく崩れ去っていた。

「そんな……」

かすれた、震える声が彼女の唇から漏れる。

「負けた……? 私が……? この白翼教団が……?」

自誇の象徴であった長い白銀の髪が、敗北の風に力なく揺れていた。普段は美しく引き結ばれていた口元はだらしなく垂れ下がり、かつて周囲を威圧していた神としての威厳は微塵も残っていない。今そこにいるのは、積み上げてきた全て、大切なものを一瞬で奪われ、途方に暮れる一人の哀れな少女に過ぎなかった。

「嘘よ……嘘よこんなの……! 認めない……認められるわけがないわ……!」

取り乱し、現実を拒絶しようと首を振るオパール。しかし、突きつけられた現実は何一つ変わらない。

教団戦は終わったのだ。

勝者は、新興かつ最下位であったノクス教団。

敗者は、伝統と権勢を誇った第五位、白翼教団。

その圧倒的な事実だけが、重く冷たい静寂となって闘技場の空間に澱んでいた。

静まり返っていた観客席からも、徐々に波紋のように動揺と驚愕の声が広がり始める。

「本当に……本当に負けたのか……?」

「あの白翼教団が……嘘だろ……」

「何年も、何十年も第五位の座を揺るぎなく守り続けてきた大教団だぞ? それが……あんな立ち上げたばかりの新興教団に?」

「時代が変わる……! 間違いなく、この街の歴史が変わるぞ!」

「大変なことになった……歴史的瞬間を目撃してしまったんだ……!」

高台の特別席に陣取っていた貴族たちも、手にしていたワイングラスを固く握りしめたまま、互いに顔を見合わせ、隠しきれない動揺を露わにしていた。彼らにとっても、この結果は今後の勢力図を根底から覆す大事件だった。

しかし――そんな騒然とする会場の中で、ただ一人、弾けんばかりの満面の笑みを浮かべている神がいた。

「やったぁぁぁーーー!!!」

ノクスだった。

彼女は幼子のようにぴょんぴょんとその場で飛び跳ねると、両手をぐるぐんと振り回し、顔いっぱいの笑顔を咲かせて仲間たちの元へと駆け寄っていく。

「勝った! 勝ったよみんな!! 私たち、勝ったんだよーー!!」

普段彼女が纏っているどこか背伸びしたパンクな雰囲気や強がりは綺麗さっぱり消え失せ、今や年相応の、純粋で元気な少女そのものだった。真っ先に駆け寄ってきたフィーナやリリィ、そして集まってきた団員たちと次々に抱き合い、子供のように声を上げてはしゃぎ回る。

「えへへ……夢じゃないよね? 本当に私たちが勝ったんだよね……?」

そう言って、ノクスは自分の頬を両手でギュッと強くつねってみせた。痛みに少し顔をしかめつつも、なおも溢れ出す笑みを抑えきれないその愛らしい姿に、緊張の糸が切れた団員たちは思わず爆笑し、温かな温もりがその場を包み込んだ。

だが――。

ノクスの表情から、ふっと無邪気な笑顔が消えた。

彼女は視線を少し落とし、静かに、ゆっくりと歩みを進める。その先にあるのは、未だ絶望の底で動けずにいるオパールの姿だった。

ノクスが動いたことで、騒ぎ立てていた観客たちも察したように一斉に口を閉じ、息を呑んでその光景を見守る。闘技場は再び、ピンと張り詰めた静寂に包まれた。

オパールは俯いたまま、足音に気づいても動こうとしない。ノクスはその目の前でぴたりと立ち止まると、一度小さく深呼吸をし、胸を整えてから声をかけた。

「オパール。」

静かだが、しっかりと通る声で名前を呼ばれ、オパールはピクリと肩を揺らした。そして、絶望と怒り、屈辱が入り混じった涙を瞳に溜めながら、ゆっくりと顔を上げた。

「……何よ。勝者気取りで、私を笑いに来たの……?」

「勝者には、教団戦の規定に基づいた権利がある。」

ノクスは逸らすことなく、真っ直ぐにオパールの瞳を見つめ返した。

「私は、その権利を使うよ。」

ノクスの宣言に、会場の空気がさらに一層緊張感を増した。

教団戦における勝者の権利。それは敗北した教団の教団員を、自らの教団へと引き入れることができるというものだ。通常であれば、敗者側の優秀な人材を数名、あるいは上限とされる「五人まで」を引き抜き、自教団の戦力を補強するのが通例であり、それだけでも敗北側にとっては致命的な打撃となる。教団戦における最大の報酬であり、最大の惨劇でもあった。

ノクスは少しだけ口角を上げ、意志の籠もった強い眼差しで白翼教団の面々を見渡した。

「白翼教団の教団員……」

彼女は一息置き、はっきりとその望みを口にした。

「全員、没収します。」

その一言が放たれた瞬間、闘技場全体が爆発したかのような大どよめきに包まれた。

「なっ……!?」

「全員だと!?」

「バカな! 白翼教団には三百人近くの団員がいるんだぞ!?」

「正気か!? 三百人を一気に引き取るなんて、維持費だけでもどうするつもりだ! 本気なのか!?」

観客席の混乱は留まることを知らない。白翼教団の団員たちも一斉に顔色を変え、信じられないものを見る目でノクスを見つめた。

「そんな……私たちまで……?」

「ノクス教団に移籍……!? 冗談じゃない!」

オパールは驚愕のあまり目を見開き、金縛りにでも遭ったかのように動けなくなっていた。

「あなた……狂っているの……? 全員を……全員を連れて行く気なの……!?」

ノクスは動じることなく、静かに頷いた。

「うん。全員だよ。」

彼女は少し目を伏せ、遠い目をした。

「今まで、私の教団を散々馬鹿にしてきた人たちがいたよね。『弱い神』『最下位の神』『すぐに潰れる哀れな教団』……何度も、何度も笑われた。悔しくて、悲しくて、誰も祈ってくれない祭壇の前で、一人で泣いた夜もたくさんあった。」

ノクスは少しだけ、寂しそうに儚く笑ってみせた。

「だから今度は、私が証明する番なんだ。私を信じてついてきてくれたみんなと一緒に、私たちを笑った人たちを見返したい。そして……居場所をなくしたみんなにも、新しい場所を見せてあげたい。」

その言葉には、相手を威圧するような怒鳴り声や威厳はなかった。しかし、だからこそ、彼女が長い年月をかけて一人でじっと耐え抜き、積み重ねてきた本物の悔しさと、神としての強い覚悟が静かに、そして深く込められていた。

場内がその言葉の重みに静まり返る中、公式の審判員が前に進み出で、ノクスに確認を求めた。

「……引き抜きに関する権利の申請、確認いたしました。では、敗北した神、オパール殿についてはどうされますか。大会規定に基づき、敗北した神をこの街から『追放』することを申請することも可能ですが。」

審判の問いかけに、観客たちはゴクリと生唾を飲み込んだ。

神が街を追放される。それは信仰の基盤を奪われ、他国や荒野を彷徨うことを意味し、神という高貴な存在にとって最大級の屈辱であり、事実上の死刑宣告に等しい罰だった。誰もが、これまで白翼教団から見下され、虐げられてきたノクスであれば、容赦なく追放を選ぶだろうと確信していた。

しかし――。

ノクスは、小さく首を横に振った。

「ううん。追放はしないよ。」

オパールが目を見開いた。

「……え……?」

「あなたは、この街に残って。」

ノクスは、どこまでも澄んだ、優しい笑みを浮かべた。

「自分の教団がなくなって、誰からも信仰されなくなった景色を、これからずっと見続けて。……そして、私が昔ずっと味わっていたあの深い寂しさを、少しだけ知ってほしいの。」

その一言を聞いた瞬間、オパールはすべての言葉を失った。

街から追い出されるのではない。この街に残され、かつて自分が頂点に君臨していた場所で、自分の教団が、自分が下に見続けたノクス教団へと姿を変え、溶け込んでいく様をただ指を咥えて見つめ続ける。信仰を失い、誰からも顧みられなくなる恐怖を、毎日毎日噛み締め続けるのだ。

それは神であるオパールにとって、一瞬の追放などよりも遥かに残酷で、あまりにも重い現実だった。

観客席から、再び怒涛のようなざわめきが巻き起こる。

「追放しない……だと!?」

「おいおい、そんな選択肢があるのかよ……」

「見せしめとして街に放置するのか……精神的には、追放されるより何倍もきついぞ……」

「ノクス様……優しいのか、それともとんでもなく恐ろしい神様なのか分からないな……」

闘技場の片隅に陣取っていた新聞記者たちは、目を見開きながら猛烈な勢いで羽ペンを走らせていた。

「おい、書け! 急いで書き留めろ!」

「特大記事だ! 歴史的な大スクープだぞ!」

「王都版の一面はこれで決まりだ! タイトルを考えろ!」

「『最下位教団、第五位白翼教団を完全撃破! 全教団員三百名を一挙吸収!』」

「『敗北した神を追放せず! 街へ残留させる異例中の異例の裁定!』」

記者たちの羽ペンが紙を滑る音があちこちで響く。

この日闘技場で起きた前代未聞のドラマは、その日の夕方にはアクセルの街全体へと瞬く間に広がり、翌朝には速報として王都をはじめとする王国全土へと新聞を通じて届けられることとなった。

かつて誰も見向きもしなかった最下位の弱小教団「ノクス教団」。その名は、この歴史的な一日を境界線として、一地方都市の片隅に存在するだけのちっぽけな存在から、王国全体にその名を轟かせる注目の大教団へと一気に駆け上がっていくことになったのである。


あの衝撃的な教団戦から、数日が経過した。

王国の地方都市アクセルの街は、未だにあの日起こった奇跡のような逆転劇の話題で持ちきりだった。

朝の賑やかな市場でも、陽気な歌が飛び交う酒場でも、凄腕の猛者たちが集う冒険者ギルドの片隅でも、人々の口から上るのは決まって同じ名前――ノクス教団であった。

「あの最下位だった教団が、あの白翼教団を飲み込んだんだぜ?」

「噂じゃ、ノクス様って神様はとんでもない慈愛と恐ろしさを併せ持ってるらしい……」

新聞を読んだ遠方の冒険者や、評判を聞きつけた流浪の旅人たちが、連日のように教団の門を叩いていた。かつての貧相な小さな館は、今や面会や入信を希望する人々で溢れ返っていた。

さらに、教団戦の正式な規約に従い、敗北した白翼教団の元団員およそ三百名もまた、ノクス教団への移籍という現実を受け入れることとなった。

当然のことながら、最初から全員が晴れやかな気持ちで納得していたわけではない。

「まさか、私たちが……あんな弱小だった教団に入るなんて……」

「ノクス教団の制服を着るなんて、まだ心の準備が……」

「信じられない……昨日まで敵だったんだぞ……」

移籍初日からの数日間は、敗北した悔しさや困惑、先行きへの不安を引きずる者が大半を占めており、教団内にはどこかぎこちない、重苦しい雰囲気が漂っていた。

しかし、一週間も経つ頃には、その冷え切った空気は少しずつ、確実に溶け始め、変化を見せ始める。

理由は単純だった。元白翼教団の面々が想像していた以上に、ノクス教団の雰囲気があまりにも明るく、温かかったからだ。

ノクス教団の幹部たちは、新しく入ってきた元敵である新人たちに対しても、何一つ嫌味を言うことなく分け隔てなく接した。毎日の訓練においても、それぞれの実力や適性をしっかりと見極め、信じられないほど丁寧に指導を行った。

「ほら、肩の力を抜け。剣筋が固くなっているぞ。」

かつての白翼教団にはないほどの圧倒的な強さを誇るアステルも、毎日のように広大な鍛錬場に立ち、新しく配属された団員たちへ直々に剣術や魔術の基礎を叩き込んでいた。彼のアドバイスは的確で、教えを受けた者は一日にして自身の成長を実感できた。

「ガハハハ! 気の使い方はな、頭で考えるんじゃなく腹の底から爆発させるんだよ!」

巨漢のレオンは豪快に笑い飛ばしながら彼らの緊張をほぐし、独自の実戦的な気の扱い方を伝授する。

「敵の視線を誘導するのはこうやるの。盗賊職なら、力ずくじゃなくて影を利用しなきゃダメだよ。」

リリィは盗賊職や軽装の団員たちを集め、彼女が得意とする索敵や罠解除、隠密行動の真髄を惜しげもなく教えていく。

「大丈夫ですか? 魔法の構築が少し乱れていましたね。焦らなくていいんですよ、私と一緒にゆっくり練習しましょう。」

フィーナは回復魔法や補助魔法の練習にどこまでも根気強く付き添い、失敗して落ち込む団員がいれば、優しい笑顔で何度も声を掛け続けていた。

そんな温かい指導を受け、共に汗を流す日々を過ごすうちに、新人たちの心にあった「負けたから仕方なく来た」「惨めな移籍だ」という不満や消極的な気持ちは、いつしか綺麗さっぱり消え去っていった。

「……悪くないな、ここ。」

「ああ。正直、実力主義でギスギスしていた前の教団より、ずっと居心地がいいかもしれない……」

「指導も分かりやすいし、何よりみんな楽しそうだ。」

訓練場のあちこちから、そんな前向きな声が漏れ聞こえるようになっていた。

また、元白翼教団で教団長を務めていた者や主要な幹部たちも、単なる下働きとして降格されることはなかった。彼らが長年培ってきた組織運営の経験や統率力は正当に評価され、新たに「ノクス教団幹部補佐」という重要な役職として迎え入れられたのだ。

彼らはそれぞれ十人から二十人ほどのチームを任され、新人たちの取りまとめや教団内の事務、遠征のスケジュール管理など、教団の円滑な運営のためにその手腕を存分に発揮することとなった。

こうして、かつて数えるほどしか団員がいなかった小さなノクス教団は、旧白翼教団の三百名と新規加入者を合わせ、総勢六百名を超える王国屈指の大教団へと驚異的な成長を遂げたのである。

そして、教団の規模が拡大するにつれ、その劇的な変化は教団の主である神、ノクス自身にも訪れることとなった。


ある晴れた日の朝のことである。

静かな大聖堂の祭壇の前で、いつものように静かに祈りを捧げていたノクスの身体が、突如として眩い淡い金色の光に包まれた。

「えっ……? な、なにこれ……!?」

驚いて声を上げるノクス。次の瞬間、彼女の背中のあたりがポカポカと太陽のような陽気に包まれ、温かくなった。集まった光が、彼女の背後でゆっくりと息を吐くように形を作り始めていく。

パァァァッ――――!

大聖堂全体を照らすほどの眩い光が弾け、そしてゆっくりと収まっていった。

光が完全に消え去った後、ノクスの背中には――光を反射して輝く、息をのむほど美しく純白に染まった二枚の大きな翼が、しっかりと生えていた。

「……え?」

ノクスは固まり、おそるおそる自分の背後へ手を伸ばした。手に触れる、柔らかくもしっかりとした羽毛の感触。

「えええぇぇぇっ!?!?」

驚愕の叫び声を上げたノクスは、背中の翼を羽ばたかせそうになりながら、姿見のある鏡の前まで全力で走っていった。鏡の中に映っていたのは、真っ白な二枚の翼を背中に広げ、目を丸くしている自分自身の姿だった。

「やったぁぁぁーーーー!!!!」

事態を理解したノクスは、大聖堂の天井が揺れるほどの歓声を上げた。

「羽! 羽が生えたよーーーっ!!」

感情を抑えきれなくなった彼女は、そのまま翼をぱたぱたと揺らしながら、教団の廊下や訓練場を猛スピードで駆け回りはじめた。

「みんな見て見て! 私、羽が生えたの!」

「すごいでしょ! もう『自称女神』なんて言わせないよ!? ちゃんとした女神って名乗ってもいいよね!?」

「いや……待って? 羽が生えたってことは、もう天使なのかな!?」

「えへへ! 今日から天使ノクスです! よろしくねー!」

その大騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたフィーナは、目をキラキラと輝かせてノクスを見つめた。

「ノクス様……! すごいです、すっごく可愛いです! 本当に本物の天使様みたいですよ!」

「でしょー! えへへ、見て見て~!」

ノクスはその場でドレスの裾をひるがえしてくるりと一回転してみせ、背中の純白の翼を誇らしげにぱたぱたと動かしてアピールする。

「……まあ、まだ飛べないんだけどね!」

「飛べないんですか!?」

「うん! でも羽がある! これだけでとーっても嬉しいの!」

無邪気に喜ぶノクスの姿に、フィーナは堪えきれずにくすくすと笑い出した。

「ふふっ、ノクス様。それだと神様や天使というより、新しいおもちゃを買ってもらってはしゃいでる子どもみたいですよ?」

「えーっ!? 子どもじゃないもん! 神様だもん!」

ノクスは不満そうに口を尖らせると、気を取り直したように胸をぐっと張った。

「ふんっ、じゃあ今から、もっと威厳のある神様っぽい歩き方を見せてあげる!」

そう言って、ノクスは顎を上げ、偉そうにゆっくりと大股で歩き始めた。――が、神様らしい格好良さを意識しすぎたあまり、わずか三歩目で自分の新しく生えた翼の端に足を引っかけてしまう。

「あっ――!?」

「きゃっ!?」

派手に転びそうになったノクスを、フィーナが慌てて前へ飛び出し、間一髪のところでしっかりと抱きとめた。

バランスを崩してフィーナの腕の中に収まったノクスは、目をパチクリとさせた後、フィーナと顔を見合わせた。

「……えへへ、危なかったぁ。」

「もう、ノクス様ったら……無茶しないでください。」

どちらからともなく、二人はいたずらが成功した子供のように顔を見合わせて笑い始めた。

「あはははは!」

「ふふふっ!」

二人の明るい笑い声は高い天井に反響し、大聖堂から中庭へ、そして広大な訓練場へと爽やかに響き渡っていった。

訓練に励んでいた新しく入った元白翼教団の団員たちも、その楽しげな笑い声と、翼を揺らして失敗している愛らしい神の姿を見上げながら、誰からともなく自然と柔らかい笑顔を浮かべていた。

かつて誰からも顧みられず、街の最下位と蔑まれた小さく貧しかった教団は、数々の試練を乗り越え、いつの間にか六百人もの仲間たちが笑い合い、肩を寄せ合う、世界で一番大きくて温かな居場所へと成長を遂げていたのだった。

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