第9話:懐かれすぎて大ピンチ
この作品は毎週月曜日の20時10分に投稿しています!
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裏庭から戻る途中、私を探していた律さんの姿を見つけ、「少し迷子になっていました」と嘘をついてなんとか誤魔化した私は、命からがら自室へと戻り、ピシャリと襖を閉めた。
(……はあ~、疲れたわ。律さんに琥珀が見つからないか心配で、生きた心地がしなかったんだから!)
私が胸を押さえて激しく乱れた呼吸を整えていると、待ってましたとばかりに、懐から琥珀が「きゅう〜!」と元気よく飛び出してきた。
(……それにしても、懐にいた間、琥珀の体がまるで上質な湯たんぽみたいに温かかったけれど、一体なぜかしら?)
私は、琥珀が私の放つ霊力を吸っていたことに気づかぬまま、その小さな体の尋常ではない生命力に、素朴な戸惑いを隠せずにいた。
そんな私の困惑などどこ吹く風で、琥珀は部屋の畳の上をトコトコと楽しそうに駆け回り、嬉しそうに私の膝へと飛び乗ってきた。
私が思わず頬を緩ませながら、指先で小さな顎の下を優しく撫でてやる。すると琥珀は、これ以上ないほど喉を鳴らしながら、無防備に手足や尻尾をだら~んと垂れ下げた。
「……きゅるるる……」
(……か、可愛い!! やっぱり反則級に可愛いわ、この子!!)
その凶悪なもふもふの破壊力に理性が一瞬で吹き飛んだ私は、我慢できずに琥珀をギュッと抱きしめて頬ずりをした。
――しかしその時、至福に染まる私の脳裏に、ある恐ろしい事実がよぎった。
(……ちょっと待って。精霊にここまで懐かれてる現場を、律さんや旦那様に見られたら……一発で『霊力持ち』なのがバレて、私の無能のフリが完全崩壊するじゃない!!)
私はようやく、自分が致命的な大ピンチのど真ん中に立たされていることに気づき、一気に血の気が引いた。
焦った私は、すぐに琥珀を膝から床へと下ろし、真面目な顔で説得を試みる。
「いい、琥珀? 私は精霊の声も姿も認識できない「無能令嬢」ということになってるの。だから人が来たら、私から離れて完全に知らん顔をするのよ、わかった?」
しかし、琥珀にとって私の霊力は、渇いた喉を潤す「極上のオアシス」になっている。離れる理由などあるはずがない。
案の定、琥珀は床に下ろされた瞬間、まるで磁石のように私の体に吸い付き、小さな手足で衣服を力強くよじ登って、定位置である私の首元へと戻ってきてしまった。
「……ちょっと、琥珀~! お願いだから離れてー! この現場を見られたら私の隠居スローライフ計画は完全終了よ! ……って、琥珀、ちっちゃいくせに意外と力が強いわね!?」
「……きゅ~~!!」
私と琥珀が声なき激しい攻防戦を繰り広げている、まさにその最中。廊下の向こうから、コツン、コツンと足音が近づいてくるのが聞こえた。
「……紗夜様、明日の予定についてなのですが――」
(……嘘でしょ!? なんで今来るのよ!?)
私は脳内でプチパニックを起こしながらも、どうしても体から剥がれない琥珀を、部屋に用意されていたふかふかの布団の中へと咄嗟に押し込んだ。そして、上からお布団をふんわりと被せて完全に視界から隠す。
何事もなかったかのようにその布団の前にちょこんと正座し、一瞬で完璧な「大人しい無能令嬢」の顔面を接着して、律さんを部屋へと迎え入れた。
「……は、はい! ど、どうぞ……っ」
その後、私は律さんと事務的な会話を交わしている間も、背後の布団がモゾモゾと不自然に動かないか、心臓をバックバクに波立たせながら座っていた。
(……琥珀~! お願いだから、今だけはじっとしていて!!)
「それでは、私はこれで失礼いたします」
律さんがそう言って静かに去り、完全に気配が消えた後。お布団の隙間から「ぷはっ!」と息を吐き出すような声を上げて、琥珀が勢いよく飛び出してきた。
私はそんな琥珀を愛おしく抱きしめ直しながらも、はぁ、と大きく肩を落として部屋の四方を見渡した。
(……本当に心臓に悪すぎるわ!こんなその場しのぎの布団隠しじゃ、バレるのも時間の問題ね……。もっと安全で、誰の目にも触れない、この子だけの完璧な隠し場所はどこかしら……)
その時、私の視界に、壁際に備え付けられた大きな押し入れが飛び込んできた。
(――そうだわ! あの広くて、普段は誰も開けることのない『押し入れ』を琥珀の隠れ家にしましょう!!)
ここを最高の秘密基地にしてやるわ!と心に決めた私は、愛するもふもふとの共同生活を死守するため、さっそく押し入れの快適化計画(準備)に取りかかるのだった。
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