第7話:胃袋を掴まれる出来損ない
この作品は毎週月曜日の20時10分に投稿しています!
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私は律さんに部屋を案内してもらったが、その部屋に一歩踏み入れた瞬間に呆然とした。
日当たりは抜群に良く、ふかふかの布団に清潔な畳、さらには美しい調度品までが綺麗に揃えられている。
「……こんな素晴らしい部屋、恐れ多いです。私にはもったいなさすぎて……っ」
私は、わざとおどおどとうつむき、小さく縮こまってみせた。
しかし脳内では、あまりの驚愕と歓喜が入り交じり、お祭り騒ぎを起こしていた。
(……夏は蒸し風呂、冬は極寒の物置小屋だった篝家とは雲泥の差だわ!? ここ、実家の本邸の一番いい部屋よりも断然豪華じゃない!?)
素晴らしい環境に感動していると、やがて夕食の時間になり、煉十郎の待つ食堂へと呼び出された。
目の前の机に並べられていたのは、つやつやとしたほかほかの炊き立てご飯に、新鮮極まりないお刺身、香ばしく焼かれた最高級の魚、そして季節の美しい小鉢の数々。
(……お、美味しそう……っ! 実家での、あのカピカピに乾いた冷たい残り物とは天と地ほどの違いだわ……!)
漂ってくる極上の出汁の香りに、私はよだれが垂れそうになるのを必死の思いで堪えていた。
「篝家での悪い噂は色々と聞いているよ。でもね、ここではそんなの関係ないから。美味しいものをたくさん食べて、好きなだけ僕に甘えていいんだよ? ……さあ、冷めないうちにお食べ」
着物をだらしなく着崩した煉十郎が、大人の余裕をこれでもかと滲ませながら微笑み、優しく箸を勧めてくる。
(……うわぁ、出たわね、天然タラシ! 美味しいご飯で胃袋を掴んで、その上甘い言葉で落とそうとするなんて、なんて恐ろしい高等テクニックなの!?)
この30代チャラ男当主への警戒レベルを、私は脳内で一段階引き上げた。
「い、いただき、ます……」
私は小さく震える手で箸を取り、まずは一口、料理を口に運ぶ。
その瞬間、口いっぱいに至高の旨味と完璧な味付けが広がり、私は思わず目を見開いた。
(……んんんんんまーーーい!!! 何これ、美味しすぎるわ!!)
脳内では完全に理性が吹き飛び、あまりの至福に頬がとろけそうになる。
しかし表面上はそれを必死に隠し、上品に少しずつ、いかにも「緊張して喉を通りません」という風を装ってちびちびと食べた。
そんな私を、煉十郎が満足そうに優しく見守っている。その視線に気づいた瞬間、私はハッと我に返った。
(……いけないわ、何を和んでるのよ私! ここで胃袋を掴まれて餌付けされたら完全に終わりよ! 気を確かに持つのよ、紗夜!!)
「……とても、美味しいです、旦那様……」
私はそっと箸を置き、おずおずと儚げに微笑んでみせる。
私のその健気な(演技の)表情を見て、煉十郎も安心したように優しく目元を緩ませた。
(……危なかったわ、危うく一瞬で陥落するところだった。このまま私は美味しいご飯をタダでたらふく食べつつ、絶対に目立たない空気として過ごしきってみせるんだから!!)
私はこれからのためにも危機感を忘れないようにと自分に言い聞かせつつ、絶品のご馳走を噛み締めるのだった。
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「虫を出す平民と笑われた私、羽化したら世界唯一の水晶蝶! 表は天使、裏は冷徹な公爵令息に独占されます」→毎週水曜日の20時10分に投稿
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