第4話:紗夜の完璧な逃亡・隠居計画
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私は篝家を後にし、蒼月家へと向かう馬車の中で揺られていた。
(……あ~! やっと、あの一ミリの未練もないクソ実家を離れられるわ~!!)
窓の外の景色が、徐々に慣れ親しんだ実家の領地から外れていく。その様子を、私はこの上なく清々しい気持ちで眺めていた。
しかし、実家から同行しているお目付け役の使用人の目がある。小さく身を縮め、まるで売られていく悲劇のヒロインの如く、うつむいたまま沈痛な面持ちを保つことも怠らない。
(……あ~あ、早く寝てくれないかしら、この人。私は今すぐにでも、今後の隠居スローライフに向けた極秘脳内作戦会議を始めたいのよ!)
願いが通じたのか、やがてお目付け役が居眠りを始めた。
私は「今だ!」とばかりに、静かに思考の海へと深く潜っていく。
(……嫁ぐ相手は30代のサボり魔で、女好きのチャラ男当主。そんな男なら、実家から無理やり押し付けられた地味で暗くて無能な身代わり嫁なんて、一秒で興味を失うはずよね。うん、完璧だわ!!)
相手に絶対に関心を持たせないよう、蒼月家に到着してからも、とことん気弱で空気のような「無能令嬢」を演じ続けよう。私は心の中で固く決意した。
(軍資金に関しては、実家からふんだくる結納金の一部に加えて、蒼月家で妻として支給されるお小遣いや生活費の余りをコツコツと貯めていけばいいわ。サボり魔の当主なら、細かい家計のチェックなんて律儀にするはずがないもの。離縁される頃には、へそくりがたんまり貯まっているはずね!)
数年後、契約結婚が終わった瞬間に手元にあるだろう、多額のスローライフ資金を想像する。顔を覆った手の隙間で、私はニヤニヤと締まりのない笑みをこぼしていた。
(そして私は、篝家とも蒼月家とも一切関係のない、遠く離れた一般人の町で小さくて可愛い家を借りるの! 精霊だの、権力争いだの、そんな面倒くさいこととは一切無縁の――完全なる自由がそこにあるわ!!)
脳内でお祭り騒ぎの勢いのまま、私は心の中で天高く拳を突き上げ、輝かしい未来に向けて気合いを入れ直した。
馬車の小刻みな振動が、徐々に小さくなり、ついに、目的地である蒼月家の広大な屋敷の門をくぐった。
私は一瞬で妄想から現実へと引き戻され、再び完璧な「怯える無能令嬢」の仮面を顔面にがっちりと接着する。
馬車の扉が開き、目の前に広がっていたのは、実家である篝家とはまた毛色の違う、どこか重厚で歴史を感じさせる蒼月家の邸宅だった。
(……さあ、ここが私の次の戦場ね! 誰にも邪魔されずに、きっちりスローライフの軍資金を貯め込んでみせるわ!!)
私は心の中で不敵にガッツポーズを決めつつ、表面上は借りてきた猫のようにおどおどとした足取りで、蒼月家の玄関へと向かった。
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