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一般人になりたい隠し事令嬢と、暴きたい旦那様 〜チャラ男な最強当主の執着から逃げられない〜  作者: 天野 はるか
第3章:床下の秘密と、不穏な足音

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第29話:迫り来る嵐の予感

第一部の作成が終わりましたので、投稿を毎週月曜日・金曜日・土曜日の週3回に変更いたします!


30話まではこの頻度で投稿していきますので、是非読んでいただけると嬉しいです!!

 大悪霊が襲来し、旦那様の手によって結界の再構築がなされた翌朝。


 表面上はいつもと変わらない平穏な朝を迎えていたが、屋敷の空気はどこか張り詰めていた。


 私の部屋では、結界が安定したことによってようやく落ち着いた琥珀こはくが、私の膝の上で「きゅ~……」と気持ちよさそうにすやすやと眠っている。


(……はあ……)


 私は琥珀の柔らかな毛並みをそっと撫でながら、昨日の旦那様のあの冷徹な横顔がどうしても頭から離れず、重いため息を吐き出した。


 そして私は少し気分転換をしようと、琥珀を起こさないようにそっと座布団の上へと寝かせ、部屋を出た。


 邸内をぶらぶらと当てもなく歩き、執務室の前を通りかかった、その時だった。


 固く閉ざされた扉の向こう側から、旦那様とりつさんが、いつもより一段と低い声で話し合っているのが聞こえてきた。


「……やはり、今回の『濁り』は尋常ではありません。何者かが意図的に強大な陰魔をこちらへ誘導した形跡があります」


「……そうだね。僕の『水』を無理やり濁らせるなんて、普通の術士に出来ることじゃない。……とりあえず、今は内密に調査を進めよう」


 いつもとは完全に違う、氷のように冷徹な声色でこれからの対処を話し合っている二人。


 それを聞いてしまった私は、恐怖で背筋をすっと凍らせた。


(……やっぱり、今この屋敷の裏で、とんでもなく恐ろしいことが起ころうとしているんだわ……)


 私はこれ以上聞いてはいけないと、足早に自分の部屋へと引き返した。


 そして部屋に戻った私は、しばらくの間、さっきの深刻な会話を頭の中で反芻しながら、落ち着かない心をどうにか宥めていた。


 すると突然、そんな緊張感を吹き飛ばすような声が廊下から響き渡った。


「紗夜ちゃ~ん!」


(……えっ!? さ、さっきまでのあの深刻な雰囲気は一体どこへ…!?)


 私は旦那様の変わり身の早さに内心で激しく狼狽うろたえながらも、「は、はいっ……!」と声を張り上げ、旦那様を部屋へと迎え入れた。


「……だ、旦那様。突然どうなさったのですか……っ?」


「ん? ちょっと書類仕事にくたびれちゃってね~、少しだけ休憩! ……いやぁ、律の目を盗んで逃げ出すのはいつも骨が折れるよ~」


 旦那様はそう言いながら、いつものようにヘラヘラとだらしなく笑っていた。


 けれど昨日の旦那様の姿を見てしまった私には、その軽薄な笑みの奥に隠された、調査による微かな疲労と、鋭い警戒の光がはっきりと見えていた。


(……わざわざ私の部屋にまでサボりに来るくらいなら、自分の部屋でちゃんと横になって休めばいいのに……)


 頭の中では少し呆れながらもそんなことを考えているのに、不思議と私の口角が少しだけ嬉しそうに上がってしまっていることに、自分自身で気づいてハッとした。


 そして気を取り直して、私はどうにか旦那様を休ませようと、おどおどした不安な態度を取り繕いながら、そっと心配の言葉を口にした。


「……あ、あの……旦那様。どこかお疲れのようにお見受けしますが……お体は、大丈夫ですか……っ?」


 私が紡いだその言葉に、旦那様は一瞬だけ驚いて目を見張った。


 けれど次の瞬間、酷く愛おしそうに目を細めると、私の頭を大きな手でぽんぽんと、包み込むように優しく撫でた。


「あはは、心配してくれたのかい? ありがとうね~。でも、大丈夫だよ。……何があっても、君のことは僕が絶対に守るから。だから紗夜ちゃんは何も心配せず、ここで笑っていておくれ」


 ――君のことは僕が絶対に守るから。


 私はそのあまりにも真っ直ぐで温かい言葉に驚き、一瞬固まってしまった。


 私のそんな動揺を目を細めて静かに見つめていた旦那様は、「さて」と呟きながらゆっくりと立ち上がった。


「じゃあ僕は、ちょっとお仕事に戻るとするよ」


 そう言って旦那様が部屋を出ていくと、再び静寂が部屋を支配した。


 一人残された私は、旦那様の大きな手の温もりがまだ残る頭の場所にそっと手を当てたまま、しばらく呆然としていた。


 やがて、廊下から旦那様の足音が完全に聞こえなくなったその時。


 私の視線は吸い寄せられるように、自然と自室の隅――あの大量の金貨や町娘の服が眠る床下の畳へと向いていた。


(……絶対に守る、だなんて……あんなに真っ直ぐな瞳で言わないでよ……っ)


 私は旦那様が背負っている当主としての重圧、そして何より、私への愛情の深さに、息が詰まりそうなほどの愛おしさと切なさを感じるのだった。

読んでいただき、ありがとうございます!

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