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一般人になりたい隠し事令嬢と、暴きたい旦那様 〜チャラ男な最強当主の執着から逃げられない〜  作者: 天野 はるか
第3章:床下の秘密と、不穏な足音

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第28話:最強の横顔

第一部の作成が終わりましたので、投稿を毎週月曜日・金曜日・土曜日の週3回に変更いたします!


30話まではこの頻度で投稿していきますので、是非読んでいただけると嬉しいです!!

 あの禍々しい悪霊が去り、この場所はさっきまでの緊迫感が嘘のように、元の穏やかな空間へと戻っていた。


(……はあ。早く部屋で待っている琥珀こはくのところに戻らないと……っ)


 私はまだ微かに震えている膝を必死に抑えながら呼吸を整え、どうにか立ち上がろうとした――その時だった。


 背後から、大気が震えるほどの圧倒的な精霊力の気配が近づいてきた。


(……っ!? な、何この気配……!? 今まで感じたこともないくらい強大な精霊力を感じる……っ!)


 突然の事態に私の心臓は跳ね上がり、咄嗟にバッと後ろを振り返り、そして固まった。


 なんと、振り返った視線の先にいたのは――いつもの羽織を大きく翻しながら、まっすぐにこちらへ歩いてくる旦那様だった。


 けれどその佇まいは、私がこれまで一度も見たことがないほどに冷徹で、真剣そのものだった。


 いつもは眠たげに垂れ下がっている目元は刃のように鋭く、ただそこにいるだけで辺りを凍りつかせるほどの、凄まじい覇気と威圧感を全身から放っている。


「あ……」


 私はその圧倒的な当主の威厳に気圧され、小さな声を漏らしたまま、旦那様から目を逸らすことができなかった。


 旦那様は私に目もくれず、ただまっすぐに結界の基点であるあの宝剣へと向かっていく。


 旦那様が一歩、また一歩と大地を踏みしめるごとに、池の水面が彼の精霊力に共鳴するように激しい波紋を広げ、淡く清らかな光を放ち始めた。


 そのまま旦那様は衣服が水に濡れるのも構わず、池の中に入り、中心の宝剣へと静かに手をかざした。


 すると、宝剣が視界を染め上げるほどの青く気高い光を放ち、さっきまでわずかに歪んでいたはずの結界の術式が、一瞬にして完璧に修復、再構築された。


(……嘘でしょ!?こんな、一瞬で……っ!?)


 その光景を目にした瞬間、私は旦那様の精霊力の「質」と「量」は、通常の精霊術士の域を遥かに超越していると本能的に理解した。


(……これが、この国の歪みを背負ってきた、旦那様の本当の力なのね……)


 息を呑む私をよそに、結界の修復を終わらせた旦那様は池の中からゆっくりと出てきた。


 その時、ある違和感に気がついた。


(……あれ?旦那様の服、まったく濡れてない……!? ……あ、そうか!優秀な水の精霊術士ともなれば、水そのものがあるじに従うから、水の影響を受けないのね……!)


 私が内心で感心している間も、旦那様は、先ほどまであの禍々しい大悪霊がいた森の奥を、冷ややかに見つめ続けていた。


 旦那様はなにも言わなかったが、その切れ長の瞳の奥には底の知れない冷徹な光が宿っており、その横顔は、触れれば一瞬で魂ごと切り裂かれそうなほどに鋭く、そして恐ろしいほどに美しかった。


(……これが、チャラ男の仮面を脱ぎ捨てた、旦那様の本当の素顔……っ!)


 間近で放たれる圧倒的な迫力を前に、私は完全に言葉を失い、ただただ立ち尽くすしかなかった。


 やがて、静寂の中に旦那様の「ふう……」という、小さく息を吐き出す音が微かに響いた。


 その微かな音に私がハッと我に返った瞬間、旦那様は私の方をくるりと振り返った。


「おや、紗夜ちゃん! こんなところでどうしたんだい?」


 そう言って小首を傾げた旦那様の顔には、すでにいつものヘラヘラとした締まりのない笑みが浮かんでいた。


「……は、はいっ……!お庭がとても綺麗でしたので、少しお散歩を……っ!」


 私は旦那様の切り替えの早さに激しく動揺しながらも、なんとかそう言葉を返した。


(……旦那様は、この圧倒的な実力を隠すために、あえてあのヘラヘラとした笑顔の壁を作っているのね……)


 さっきまでの世界を平伏させるような冷徹な横顔と、目の前で軽薄に笑う旦那様。


 そのあまりの変わりように、私は内心で頭を抱えながらも、旦那様が背負う世界の重さを改めて痛感した。

読んでいただき、ありがとうございます!

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