第24話:旦那様への小さな罪悪感
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第一部の作成が終わりましたので、投稿を毎週月曜日・金曜日・土曜日の週3回に変更いたします!
30話まではこの頻度で投稿していきますので、是非読んでいただけると嬉しいです!!
今日も今日とて、旦那様は律さんの目を盗んで私の部屋に転がり込んできていた。
いつものように、どうやってこのサボり魔を煙に巻こうかと内心で作戦を練っていると、旦那様は懐から小さな紙包みを取り出し、私の手のひらの上に優しくのせた。
「……はい、これ。今日の任務の帰りにさ、紗夜ちゃんが好きそうなお菓子を見つけてね。この間のカステラのお礼だよ」
(……え? わざわざ私のために、お土産を買ってきてくれたの……?)
私はおどおどとそれを受け取りつつも、突然の旦那様からの贈り物に驚いていた。
一方その頃、押し入れの中では琥珀もお菓子の甘い匂いに気づいたのだろう、小さなお鼻をピクピクとさせて興味津々の様子だった。
「……わ、私にこのような、高級なお菓子など、勿体なさすぎます……っ!」
私がいつものように、おどおどした態度でさりげなく断ろうとすると、旦那様はいつもの軽薄そうな笑いをふっと消し、とても穏やかな顔つきで私の頭を優しく撫でた。
「……紗夜ちゃん。僕は君を精霊力の有無で見たことなんて、一度もないよ。篝家の人間がなんて言おうと、僕が好きなのは、今ここにいる「君」という一人の人間だからね」
(……っ!?)
私はその言葉をダイレクトに浴びて、ひどく動揺してしまった。
実家では無能として虐げられてきた私を、家柄でも能力でもなく「一人の人間」として正面から認めてくれたのは、旦那様が初めてだった。
旦那様の裏表のない真っ直ぐな言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。私はそれ以上言葉を返せず、無意識のうちに己の手を強く握りしめていた。
「じゃあ、僕は律が怒鳴り込んでくる前に戻るとするよ」
旦那様はいつものチャラ男な雰囲気に戻ると、ひらひらと手を振って部屋から出ていった。
(……もう! あんな風に不意打ちで優しくされると、調子が狂うじゃないの……!!)
私はバクバクと脈打つ胸を片手で押さえながら、旦那様が去った静かな部屋を見渡した。
そして、いつか離縁するための準備品が詰まった床下の畳に視線を落とした瞬間、胸の奥がチクリと痛んだ。
それは小さな、けれど決して無視することのできない「罪悪感」が、私の心に初めて芽生えた証拠だった。
押し入れからおずおずと出てきた琥珀は、私の様子がいつもと違うことに気づくと、お菓子の匂いを無視して、心配そうに私の足元へトコトコと歩み寄ってきた。
「……きゅぃ、きゅ~う……?」
愛らしく鳴きながら、私の膝の上にぽすんと小さなあごを乗せて見上げてくる琥珀の姿に、私の強張っていた顔から自然と小さく笑みが溢れた。
「ありがとね、琥珀。大丈夫よ」
私は琥珀の愛らしい体をぎゅっと抱き締めながら、旦那様がくれたお菓子を一口小さくちぎって口元へ持っていく。
琥珀は嬉しそうに「きゅ~っ!」とそれを美味しそうに食べ始めた。
けれど……今の私にとっては、本当なら絶品であるはずのお菓子の甘さが、どこか少しだけ切なく感じられた。
私は琥珀の暖かくてふかふかな毛並みに顔を埋めながら、荒ぶる心を落ち着かせるように深く息を吐き出した。
(……落ち着くのよ、私! 私が望む自由な隠居スローライフを送るためにも、離縁は絶対に譲れないんだから……!)
私は必死に自分に言い聞かせ、逃亡への決意を奮い立たせようとした。
けれど、さっき頭を撫でられたときの旦那様の手の温もりや、あのどこまでも優しい瞳が、どうしても脳裏から離れてくれない。
時期が来たら絶対に離縁する。そう前もって固く決めてあったはずなのに――心のどこかで「この人の側を離れたくない」という想いが、静かに、けれど確実に芽生えつつあることに、私は気づき始めていた。
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