第19話:はぐらかすお嬢様
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第一部の作成が終わりましたので、投稿を毎週月曜日・金曜日・土曜日の週3回に変更いたします!
30話まではこの頻度で投稿していきますので、是非読んでいただけると嬉しいです!!
旦那様の鋭い眼光と耳元での囁きに、私は心臓を激しくバクバクさせながらも、ここで折れたら夢の隠居スローライフ生活が始まる前に終わってしまう、と焦りを募らせていた。
背筋にダラダラと冷や汗を流しながらも、私はおどおどした声を限界まで震わせて、必死に旦那様へと言葉を返した。
「……ち、違うのです! 昔、篝家の地方の別邸で、暇つぶしに古い本を読んだことがあって、それで……っ」
私は咄嗟に、地方の寂れた別邸にあった古書という、検証不可能な言い訳をでっち上げたのだ。
(……どうよ! これならボロが出ることもないし、一応の筋は通ってるはずだわ!!)
しかし、私のその必死な反応に対しても、旦那様は至近距離のまま顔を離そうとしない。それどころか、楽しそうに目を細めてさらに強烈な揺さぶりをかけてきた。
「へえ、篝家の別邸にそんな本がねぇ。でも、そんなに熱心に読書をするような子が、どうして篝家では無能なんて噂されていたのかなぁ?」
じりじりと詰め寄られる中、私は今が正念場と言わんばかりにさらに身を縮め、今にも泣き出しそうな涙目でうつむいた。
「……そ、それは……お父様たちに見つかると激しく怒られてしまうので、いつも夜中にこっそり読んでいましたから……っ」
(さあ、もうこれで十分でしょ! さっさと離れなさいよ、このチャラ男ーー!!)
私の内心の必死な叫びが通じたのか、それともこの迫真の涙目演技が功を奏したのか、旦那様は「そっか~」と小さく呟き、ようやくスッと体を離して自分の座布団へと座り直してくれた。
その瞬間、部屋を凍りつかせていた圧倒的な重圧が一気に弛緩していく。
旦那様の瞳も、さっきまでの冷徹さがまるで嘘だったかのように、いつもの締まりのないヘラヘラとした笑みに戻っていた。
(……や、やったわ! なんとか誤魔化しきれたわね……!)
私は心の中で激しくガッツポーズを決め、ホッと肩の力を抜いた。
そんな私の様子を眺めながら、旦那様は座布団からひょいと腰を上げ、いつもの軽い調子で言う。
「いやぁ、怖がらせちゃってごめんねぇ! でも、そんな面白い本があるならさ、今度僕にも読ませてよ。あ、それからさ……」
旦那様は私の部屋の襖にそっと手を掛け、何でもないことのように、私にとって衝撃の言葉をさらりと言い放った。
「……あのキラキラした大きな鈴、ピクシーに気に入ってもらえて本当に良かったね、紗夜ちゃん」
――え?
その言葉を聞いて全身が完全に固まる私をその場に残したまま、「それじゃあね~」と旦那様は軽快な足取りで部屋を出ていってしまった。
(……え、ちょっと待って。何で「鈴」のことまで知って――まさか、昨日の夜の一部始終、全部見られてたの!?)
私は旦那様の気配が完全に遠ざかったのを確認した瞬間、その場にへなへなと崩れ落ちた。
畳に両手をつき絶望していると、押し入れの隙間から、心配そうに琥珀が「きゅ~う?」と鳴きながらトコトコと駆け寄ってきた。
「……こ、琥珀ぅ~~っ!!」
私は琥珀の温かい極上のもふもふに顔を埋め、全力で癒しを求めてしがみついた。
そんな私を労わるように、琥珀はよしよしと慰めるような手つきで、私の頬を小さな前足で優しく撫でてくれる。
(……いや、まだよ。まだ完全には終わってないわ!あの男がいくらカマをかけてこようが、私があの精霊を逃がしたっていう決定的な証拠は何一つないんだから! 私はこれから何があっても、とぼけ続けてやるわよ……!)
(それに、最大の秘密である「精霊王の刻印」の存在はまだバレていないはず。多少怪しまれたところで、無能のフリを押し通せば問題ないわよね!?)
(これからはもっと慎重に無能を装って、隠居スローライフを掴み取ってやるんだから……っ!)
私は琥珀の温もりの中に顔を埋めたまま、決意を固めるのだった。
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