第15話:無邪気な精霊
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第一部の作成が終わりましたので、投稿を毎週月曜日・金曜日・土曜日の週3回に変更いたします!
30話まではこの頻度で投稿していきますので、是非読んでいただけると嬉しいです!!
今朝の屋敷の中は、いつにも増して騒がしかった。
私の部屋の襖越しにまで、旦那様と律さんのコントのような言い争いが筒抜けになって聞こえてくる。
「……ねえ、律。僕のキセル知らない?」
「知りません。そんなことより旦那様、私の万年筆はどこですか。自分が仕事をしたくないからって、隠すのはやめてください」
「僕はそんなことしないよ!? 律は僕がそんなことをすると思っているの?」
「思います」
「即答はひどいよ、律~!!」
漏れ聞こえる話から察するに、律さんの愛用する万年筆や、旦那様のキセルなどが次々と行方不明になっているらしい。
廊下の方からも、「食堂の銀のスプーンがなくなった」と使用人たちがバタバタと騒いでいる気配が伝わってくる。
「……おかしいですね。屋敷の周囲には強固な結界が張り巡らされているので、悪霊などは入れないはずなのですが……」
私はそんな屋敷全体のドタバタ劇を、自室の中でじっと聞いていた。
(……物がなくなる、ねぇ。結界を破って入った悪霊が、わざわざそんな地味ないたずらをするかしら……?)
私が色々と考えていると、押し入れから琥珀が静かに身を乗り出し、部屋の天井近くをじっと見つめ始めた。
「どうしたの? こは、く……」
私も琥珀の視線を追うようにして上を向く。すると――鴨居のあたりに、キラキラと光る美しい鱗粉を散らしながら楽しそうに飛び回る、小さな羽の生えた精霊――ピクシーの姿があった。
私はそれを見た瞬間、驚きのあまり完全に硬直してしまった。
(……嘘でしょ、精霊!? なんでこんな私の部屋に堂々といるのよ! 全然気配に気づかなかった……じゃなくて、あの子の周りにぷかぷか浮いてるの、旦那様のキセルと律さんの万年筆じゃないのよ!!)
屋敷中を大混乱に陥れている張本人が、まさか自分の部屋にいたとは。私はあまりの事態に頭を抱えた。
天井のピクシーは、私たちが自分を見ていることに気づいたのか、一瞬だけビクッと体を震わせ、怯えたようにこちらを見つめてくる。
「大丈夫よ、何もしないから」
私がそっと声をかけると、隣にいた琥珀も静かに畳の上に座り直し、敵意がないことを示すように「きゅ~」と優しく鳴いた。
「……ふぅ~、ふぅ~!」
その温かい雰囲気にすっかり安心したのか、ピクシーは再び律さんの万年筆や旦那様のキセルをくるくると空中へ浮かせて、無邪気に笑い始めた。
(……それにしても、ピクシーが盗んできたものって、どれもキラキラ光る金属製で、こすれ合わせると綺麗な音が鳴るものばかりね……。これ、ただ単に『おもちゃ』にして遊んでいるだけなんじゃ……)
私がそんな風に考えていた、まさにその時。廊下の向こうから、律さんと旦那様がこちらへ歩いてくる声が聞こえた。
「……実害が出ています。明日の朝にでも、私がこの屋敷に潜んでいる「悪霊」を、徹底的にお祓い(消滅)しましょう」
「……そうだねぇ。このまま放置して、紗夜ちゃんに何かあっても大変だからね~」
襖を隔て、外で交わされた二人の会話に、私は今度こそ驚愕で目を見開いた。
(……はぁ!? ちょっと待って! 物がいくつかなくなっただけで、問答無用で存在ごと消滅させる気なの!? っていうか旦那様、私は現在進行形で巻き込まれているから、もう手遅れなんですけど!!)
私が一人で内心大パニックを起こしているというのに、当のピクシーは自分に迫る恐ろしい危機にすら気づかず、呑気に万年筆をくるくる浮かせて遊んでいる。
すると、琥珀が私の着物の袖を小さな前足で優しく引っ張り、不安そうな瞳で私を見上げてきた。
(……律さん、見るからに優秀そうだし、お祓いをやるからには徹底的にやりそうよね……。琥珀も心配そうにしているし、明日の朝までになんとかして逃がしてあげないと……!!)
精霊力による武力行使(お祓い)が始まるまで、残された時間はあと一晩。
私は予想外に短すぎるタイムリミットを突きつけられ、冷や汗を流しながら、精霊力を使わずにこの事態を裏でサクッと解決するための作戦を、必死に立て始めるのだった。
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