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66.約束



 その後、俺とアストゥラル神で互いの状況を共有する。


 俺たち遠征部隊は、聖都ラミシスの北方チェティリ要塞にてセシリアとドルガノを討ち取った。その中でサブロが討死し、ロクスとヨンカは一命を取り留めたものの療養中。辛うじて動けるのがニクスとメレノア……コボルト兵とハーピーらも度重なる連戦で消耗している。


「聖痕の秘術を扱える騎士も、後はリラミスを残すのみという訳か。それではノーラントの山城に騎士達が攻め入る可能性は……」

「ほぼほぼ潰えたといえるでしょう。現国王ジニアスに連なるリラミス家出身の騎士達は、王都やサウスフィールに集中している。ノースフィールに侵攻した騎士達の殆どは、ドルガノやセシリアの手勢でしょうから」

「……それでも、私はこちらに残ろう。万が一が無いとも言えないし、城にいるナフィアやイチロ達を守ると取り決めたからね」

「それで十分です。改めて、俺の妹や皆を助けて頂きありがとうございます……まさか肉の器を得てまでして、我らに助力してくださるとは」

「ああ、全く何もかも君の杜撰極まる計画のおかげだよ! ……ハァ、もういい。私は城に戻る。君が使える神の力は残り二つだ。引き続きその力が必要となったら、頭の中で私の名を呼ぶといい」


 その言葉を最後に、頭の中へと響いていた男の声が途絶えた。

 ……思っていたより随分としおらしい。女神エーティエルと同じよう、肉体を持ってこの地上に降りたと聞いた時は驚いたが、おそらく本人としても不本意な事態かつ制約もいくつかあるのだろう。久々に聞く彼の声は、あからさまに参った様子だった。


 女神降臨の儀。聖痕の芯材を兼ね儀の生贄に捧げられ、かの神の力により復讐の機会を与えられ、思えば随分と遠いところまで来た。


 コボルト兵達に呼ばれ、俺は天幕を出て要塞付近の平地へと出る。戦後の処理に奔走する中、十数人のコボルト達が集まるその中央には、一つの棺が置かれていた。


「フィリスさま……」

「ここから先、隊を分ける。お前達は元来た経路を辿り、サブロをノースフィールの地に運んでくれ。この時期の気候であれば、簡易な防腐処理で済む……全てが終わった後、改めて皆の英雄を弔おう」


 サブロの棺の周りには、ニクス、ゴロス、そうしてメレノアに支えられるヨンカの姿もあった。彼らコボルトの目元は見るからに赤く腫れ上がり、しかしもうその瞳に涙は浮かんでいなかった。彼らはただ静かな目で、俺を見ている。その視線一つ一つを見回した後、俺は口を開いた。


「サブロは死の間際、俺にこう言った。残された者達を幸福な世界に導いて欲しいと。俺は彼の意志を継ぎ、必ずやその言葉を実現するとお前達に約束しよう」


 俺の言葉に、コボルトの一人……第四遠征部隊長ヨンカが口を開く。


「フィリス様 私たちコボルトは……サブロは貴方の言葉ヲ最後まで信じて 文字通りソノ命を賭けタ」

「……」

「神と貴方がどんな想いデ 私たちニ人間と殺し合いヲさせ そうして私たちの前に居るのカ イクラ考えても分からなかっタ デモそんなコトはもうイイ 貴方を信じル道を歩んだノハ 紛れもない私たち自身の選択と判断ダ そうしてフィリス様ハ 今マデ私たちを信じさせルに足る行いヲしてキタ ……ダカラ 私は貴方を信用スル」

「ああ」

「サブロのコトは私タチに任せて 貴方はメレノアとハーピー達を連れテ……どうか全てヲ終わらせ サブロと今私たちにシタ約束ヲ 必ず果たして欲しイ」

「……その期待に、必ずしや応えよう」


 俺の言葉に、ヨンカは涙の枯れ果てた目を今にも泣き出しそうに歪ませた。ゴロスは目を伏せ、そうしてニクスはおずおずとこちらに歩み寄ると、服の裾を掴んだ。


「どうした? ニクス」

「オレは フィリス様のことズット信じてル だってフィリス様からハ とても優しい匂いガする 俺の親ニもなってくれた ダカラ約束シテ欲しい フィリス様も必ず生きて帰るッテ」


 そう言って、ニクスは自らの手を差し出し、もう片手で短剣を握る。


 ……魔術師の誓い。約束を持ちかける側の血を用いて、互いの手を重ね誓約を交わす。

 正式なやり方ならまだしも、恐らくオルフィスかパウロルがニクスに教えたものは、魔術的な拘束力のないお遊びのようなものだろう。


 だから、敢えてその子供遊びに付き合っても良かったのだが。


「……それは約束できない」

「エッ」


 ニクスは、こんな俺のことを全面的に信じ頼ってくれたのだ。だから俺も、最後くらいは彼に対して誠実であろうと思った。


「お前達は六人で同じ誓いを立てたと、ゴロスから聞いている。だから分かっているだろう。その誓いは絶対のものではないと」

「……デ、デモ」

「それに先約もある。今しがたサブロと皆にした約束だ。二兎を追うもの一兎も得ずという言葉もある……どうか分かってくれ」


 そう言って俺はニクスの身を一度抱きしめ、そうして離れる。もう彼も、これ以上言葉を発することはなかった。不安に揺れる眼差しで、しかしニクスは自分のわがままを優先するより、仲間との先約を守らせる方を選んだのだ。随分成長したと、そう感慨深くなる気持ちと同時。成長せざるを得ない状況に彼を追い込んだのは自身なのだと、改めて罪悪感に駆られる。



 これからロクスを除く遠征部隊長と兵の半数以上は、ノースフィールへの経路を辿り城へと戻っていく。そうして入れ替わりに、オルフィスらを王都に呼び寄せるのだ。そうヨンカ達に伝言を頼んでいる。


 ……国王ジニアスとの決着はそれまでの間に付くだろう。だから自身にとっての試練はむしろその後。彼らとの約束を果たす際に、待ち構えていると言っても過言では無かった。


 

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