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47.要塞



 チェティリ要塞。聖都ラミシスを後方に、北方の敵や魔物から王都を守護すべく建てられた大規模な軍事拠点である。


 ここにはリラミス、ルミネス、レミアスのいずれかの隊が半年に一度の交代制で人員を割き、王都周辺の警備と魔物の討伐を務める。


 北のチェティリの他、南東、南西にそれぞれ同等の要塞があり、これらは騎士団の目が光ると同時、ラミシス王家の聖痕を所持する王族の監視下にあった。……文字通りの監視である。


「聖ラミシスの国王夫妻は従兄弟の関係にあった。同じ魔術師を祖とする『目』を介した魔術によって国を治め、その力は女神の右目、左目を食らい、聖痕を作り出すことでより決定的なものとなった。もし俺の父と弟が存命であったなら、俺たちはノースフィールの山奥にいようが瞬く間に見つけ出され、こうして此処に来ることもなかっただろう」


 そう語るフィリス様の目は魔術の強化により瞳の縁が赤黒く光り、前方のはるか先を見つめていた。

 俺もまたフィリス様より教わった魔術により目を凝らし、敵方のおおまかな人数や配置を確認する。


「フィリスさま」

「どうした?」

「カラダ まだ万全ジャナイ 俺がヤルから フィリスさま休んデ」


 俺は用意された大きな地図に情報を書き込みながら、そう隣の彼に語りかける。


 ……フィリス様は三日前、『呪痕』の魔術による攻撃を受け、その肉体に相応のダメージを受けた。

 呪詛返しをしても、それ以前に受けた肉体の損傷が無くなるわけではない。ゴロスの隊員による見立てでは、最低でも一週間フィリス様は床で安静にし、回復に努めなければいけないと言われている。治癒魔術をかけてなおこれである……呪痕の威力は恐ろしい。


「とは言ってもな……ロクスよ」

「ハイ」

「そこの数字は二十でなく五十だ。それとあそこに居るのはただの兵ではなく……弓兵だな。ハーピーの脅威を認識し、何処かから掻き集めてきたか。彼女達の出動は遅らせ、また優先してこれらを撃破するよう各部隊に伝達する必要がある。ハーピー達は身軽ゆえに、防御力は脆い。熟練した弓兵の一斉掃射を喰らえば一溜りもないだろう」

「……ア、ァ」


 俺が間違ってた。

 フィリス様すごい。そうして俺はポンコツだ。しょんぼりと肩を落とす俺に対し、彼は軽く背を叩き慰めの言葉を紡ぐ。


「……俺も病み上がりだ。必ずしも全ての情報をつぶさに拾える訳じゃない。ロクスが二重で確認をしてくれることで、初めて正確な情報を得ることが出来るんだ。だからあともう少し、二人で頑張ろう」

「ハイ……」


 そうかえってフィリス様に労られながら、俺は偵察を終え自陣に戻る。

 敵もこちらの存在を把握はしている筈。しかし彼らは砦での籠城戦を決め込むようで、周辺に兵は展開されていない。……フィリス様がトゥーリの街で自らの身分を明かし、各地の領主軍を牽制したのが効いたのだろう。


「ドルガノはまだ此方に来ていない。お前も確認したな、ロクス」

「ハイ セシリアのオド見えたケド それと同じグライ大きいオド無かった」


 フィリス様いわく、聖痕を継いだ所有者はその身に膨大なオドを纏っているのだという。

 元々騎士達は、女神の肉に宿る魔力を代々受け継いできたこともあり、その魔力量は一般的な魔術師より多い。ゆえに『オド』を肉眼で見る魔術と、遠視の魔術を組み合わせれば、騎士達の数や配備は外壁越しにもある程度確認出来るのだ。



 俺は先ほどフィリス様と作成した地図を元に、今後の作戦を皆と話し合う。


「フィリス様、今回ハ先回りシテ 扉開けれナイ 俺タチの力で壁乗り越えル 命懸けの任務ダ」

「へっ壁ヲ登るのハ、俺たち『竜骸部隊』ニ任せトキな」

「ロクス、軽量化の魔術使える兵達ヲ ハーピーに運ばセルのハどう?」

「フィリス様ノ話デハ 弓兵ガいる ハーピー達近付けルノハ ソイツら居なくナッてカラ」

「コノ配置ダト……外カラ排除するノハ無理か」

「アア、ダカラ最初ハ皆 壁越えするサブロの部隊を援護すル そこカラ先は……」


 あらかたの情報を共有した後、俺は皆の顔を見回す。


 ニクス、サブロ、ヨンカ、ゴロス……そうして俺。フィリス様に名を貰った遠征部隊の長として、まずは『聖痕』の所持者の一人、セシリアを俺達の手で捕らえる。


「死ぬなよォ、ロクス」

「それコッチのセリフ サブロが一番危ナっかしい」

「フフ、そうよサブロ 貴方スグ一人で突っ走るンだから」

「皆 ヤクソクしよう」

「オイ ニクスが約束したガッテる 皆手を出してクレ」

「? 手なんか出してドウスルのよ ゴロス」

「パウロル様に教ワッタ 魔術師こうやっテ 誓い立てル」


 言われるまま、俺たちは手のひらを下にして差し出し、俺、ゴロス、ヨンカ、サブロと手を重ねていく。ニクスは自らの手のひらにぷつとナイフの刃先で傷を付けた後、自らの手を重ね口を開く。


「ミンナ 今から俺が言うコト繰り返して 『必ず生きテ戻る』と」


 ニクスの言葉に、サブロは自信満々に返事をした。ヨンカとゴロスは少し苦笑いを浮かべながら返事をし、そうして俺も少しためらった後、その言葉を紡ぐ。


「必ず、生きテ戻る」


 この『聖戦』で、俺は学んだ。


 誰かの命を奪うのは、誰かを生かすことよりとても簡単なのだということを。そうしてそれは俺達の命も同様で、戦いに身を投じる以上、それは果たせるかも分からぬ絵空事に過ぎない。


 

 ……だが約束してしまった以上、それは守られて然るべきなのだろう。聖痕を女神の元に返し、そうして皆で生きて帰ってくる。中々の無茶振りだと思ったが、不思議と自身の胸の内から力が湧いてくるのを感じた。


 

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