30.謎肉再び
「ネエ、お兄チャン サブロとヨンカ姐サンは 本当ニ付き合っテ無いの?」
「……」
ノーラント山の古城の一室。俺は妹と二人、フィリス様……もといウォルフ様から貰った設計図に従って魔術道具の試作品を製造していた。黙々と作業する俺に対して、妹はとにかく饒舌だ。
「フタリは同じドラゴンからツクッタ武具ヲ、ウォルフサマから貰ったんデスって コレってお揃イってコトよね? ドウナノお兄ちゃ……」
「ロッカ ウルサイ! ソンナに気にナルなら 自分デ聞けバイイダロ!」
耐えかねて、思わず妹相手に声を荒げてしまう。しかし妹……ロッカは気にした様子もなく、頬を膨らませダッテェと言葉を紡ぐ。
「オ兄ちゃんはよくヨンカ姐さんの側に行っテ 話をシテるじゃナイのよ 二回に一回ハ忙しいッテフラれてるケド」
「グハッ……」
「サブロも口を開けバ訓練ダ、演習ダっテなかなか捕マラないし ハァ……第六部隊はコンナに暇でイイのかしら」
そう愚痴を零しながらも、妹の手はテキパキと動き厚布の裏地に護符を縫い込んでいく。我が肉親ながら、器用なことだ。
『聖戦』に向けての準備期間、イチロとニクスとペトロス様は未だ氷狼の竜骸探し。サブロとヨンカ、ウォルフ様はタイラント山での竜討伐を終え、現在は第一から第四部隊までの戦闘訓練を行っている。
勿論俺の率いる第六部隊も訓練や演習に混ざることはあるが、大半は第五部隊と連携しての裏方作業。戦争で必要となる物資の準備や製作に明け暮れている。決して暇なわけではない……ただただ地味でさえない作業が続いているだけだ。だが。
「ロッカ 俺たちがシテルの ナカマの命をマモル 大事なシゴト 文句言ウナ」
「何よ、文句グライは良いジャない ダレが聞いてる訳デモなし」
「あのぉー……」
突如後ろから掛けられた声に、俺とロッカの体が飛び上がる。驚いて振り返ると、そこにはおずおずと自らの翼を合わせて佇むハーピーの少女の姿があった。
栗色の髪に、黒目がちの大きな瞳。リボンとレースの垂れ下がった赤い帽子に、ニンゲンの女性の様な赤い上衣を纏った彼女は、ウォルフ様の大事にされてる姫君の『侍女』ナフィアだ。種族を超えた俺のトモダチでもある。
「ナ ナフィア イッタイ ドウシタんだ」
「ゴロスさんから伝言を預かってきました。もし手が空いたら裏庭に来て欲しいと」
「裏庭?」
「イッテきたら? お兄ちゃん 残りはアタシがヤってオクわよ どうせサブロが構ってクレナイから暇だし……フン」
ロッカの言葉に、思わず俺は苦笑いを浮かべる。妹はサブロに気があるようなのだが、どうも向こうは煮え切らない態度が続いているようだ。まあロッカは口達者でマセているものの、まだ5歳の子供である。生殖活動が出来る年齢ではなく、サブロが閉口するのも無理はないだろう。
「スマナイが頼む サブロ見かケタラ ロッカのコト 伝えとく」
「ナニをどう伝える気ヨ? モシお情ケで妹ニ会ってクレなんて言っタラ アタシの面目ハ丸潰れヨ ヤルナラ上手くヤッテよね お兄ちゃン」
なんて面倒臭……いや、複雑な乙女心なんだ。俺もあまり人のことは言えないのだろうが。
ナフィアと共に、目的の場所へと進む。なんでも彼女は今日非番なのだそうだが、やることがないので一日ゴロスの手伝いをしていたとのことだ。
「朝カラずっと ソラ飛んデタ? ……ナフィア オレ一人で行くカラ モウ部屋で休メ ゴロスには オレから言ってオク」
「あ、いえロクスさん、お気遣いなく……! 私はまだまだ全然元気ですから。今日は空の上から森を見渡してたのですが、とても良い気分転換になりました。カエルイチゴが沢山生えてる場所も……アッ」
ナフィアはしまったというように口を翼で塞ぎ、しばらく俯いていた。よく分からないが、きっとそれは何らかの秘密ごとだったのだろう。聞かなかったことにしておくか。
「……そ、そういえば。ロッカちゃんはサブロさんのことがお好きなんですね」
「ン? アア、ソウダナ」
「そしてロクスさんはヨンカさんのことがお好きだと」
「ブフッ」
唐突にブチ込まれた爆弾に、思わず噴き出してしまう。何故こっちにまで流れ弾が。
「ナ、ナンデ 急ニソンナ話ヲ」
「今日、森の中で綺麗な花畑を見つけたんです。いつも姫様のための花を摘む場所よりは小さくて、でもそこには見たことのない花が沢山咲いていました」
「フム」
「オルフィス様に教えて貰ったのですが、ヒトは異性に愛を伝える時、綺麗な花をいくつも束ねた贈り物をするのだとか。だから私……」
なるほど、ようやく話が見えてきた。
「ナフィア ソノ花畑のバショ コンド教えてクレルト ウレシイ」
「は、はい……! もちろんです!」
俺の言葉に、ナフィアは嬉しそうな声を発してニコニコと笑った。
……自身の恋路に口出しされるのは良い気分がしないが、そこに一切の邪気が無いのなら話は別だ。ましてやそれが友達の好意から来るものなら尚のこと。
それに俺が摘んできた花をサブロに頼んで渡して貰えば、ひょっとして妹の機嫌も直るかもしれない。
そんなことを考えている内、いつしか俺とナフィアは食堂を抜け、厨房から繋がる裏庭の入り口へと辿り着いていた。
裏庭には食糧庫の一つや備品を入れた物置などが置かれており、第五と第六の部隊が共同で管理を行っている。ドンドンと外に繋がる扉を叩き声をかけると、そこからは意外な人物の声が聞こえた。
「来たか、ロクス」
「……! パウロルさま」
扉を開けると、そこそこに広さのある裏庭の中心には赤褐色の髪を持つ青年の姿、そして我がコボルト第五遠征部隊の隊長ゴロスの姿があった。
足元の地面には魔術用の墨で描かれた陣と、その中心に干からびた物体が置かれている。
「ゴロス コレはイッタイ」
「チョウド良いタイミングだ! そこデ見テイテくれ ロクス」
ゴロスはそう言って陣のそばへと歩みより、懐から取り出した液体を肉に振りかける。ツンと鼻をつく刺激臭にも彼は臆する様子もなく、陣に魔力を込めながら呪文を唱えた。
足元に描かれた文字が赤黒く発光し、中央にある液体をかけられた物体が急速に水分を取り込み膨らむ。光が消えた後、そこには茶色がかった燻製肉のような見た目の物体が佇んでいた。
「コレはイッタイ……」
「美味イゾ ロクス 食べてミロ」
「エッ」
いきなり呼びつけて、この得体の知れないものを食えと……? しかしゴロスは中央の肉をナイフで切り分け、そうして横にいるパウロル様までがそれ口にしているのを見て、覚悟を決める。
「……ワカッタ」
ゴロスから受け取った茶色い肉片を、大きく息を吸って吐いた後。自身は思い切って口の中へと入れた。




