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18.楽しい買い物



 商都ウェスティン。レミアス家が代々治めるウェスタールの地にある商業都市で、聖ラミシス王国内でも屈指の賑わいを見せる場所だ。

 レミアス家、特に現当主ドルガノ・レミアスは質実剛健な性質で、各領地や都市に課している税率も他地域に比べて低い。ゆえに民は活気づき、景気の良いこの地には国中から多くの富が集まる。


「ナフィア アマリ オレから ハナレルな」

「見てくださいロクスさん! あそこに美味しそうな食べ物が」


 そういうやナフィアは道沿いに立つ露店に駆け寄り、そこで売られている焼き菓子をうっとりとした目で見つめていた。ダメだ、こちらの話など聞いちゃいない。


 ハーピーのナフィアは俺よりも一つ年上だ。今年で十三になるのだったか。

 しかしそれでも、精神年齢は俺の方が上になるのだろう。長くて三十歳程度の寿命しかないコボルトに対し、ハーピーの寿命は五十年ほど。生物としての生きる年数が違う分、身体や精神が成熟する速度も変わる。自然の理だ。

 

「……ナフィア」

「ロクスさん。これをウォルフさまとニクスさまのお土産にするのは、どうでしょう?」


 彼女の言葉に、俺は軽く自身の目を見開いた。土産か、確かにそれは名案かもしれない。


「お二人はまだお仕事があると言ってました。もしかしたら、お買い物をする時間もないかもしれませんし」

「アア ナフィア 言うトオリ 買ってイコウ」


 ナフィアの見つめている菓子を確認する。匂いからするに小麦と牛乳と蜂蜜、果実を練り込んだ生地を焼いたものだろう。値札に書かれた数字を確認し、ナフィアとニクス、ウォルフ様の分の貨幣を渡して商品を受け取る。


「ホラ ナフィア 食エ」

「ありがとうございます! あれ? ロクスさんの分は……」

「オレ イイ ホカニ買ウモノ アルカラ」


 今自身の懐には、先ほどウォルフ様から頂いた分と道中稼いだニンゲンの貨幣が収まっている。

 ニンゲンは買い物をする時、金属で出来た丸い物質を介して物のやり取りをするらしい。途中寄った町でも何度か目にした光景だ。


 ……先ほど購入した菓子が一つで銅貨三枚。高すぎるものでもないが、貨幣はとっておくにこしたことはないだろう。フィリス様からもそう教わった。


 ナフィアはハーピーのため、人間の町では自らの手を出すことが出来ない。そのため今、俺は焼き菓子の一つをナフィアの口元にかざしている形になるのだが、おもむろに彼女は自らの首を横にふった。


「ロクスさん、半分こしましょう」

「ハンブン アア…… イラナイ ゼンブ食エ」

「私、この旅で一緒になった仲間の皆さんと、同じものを食べたいんです。だからロクスさんも一緒に食べましょう」


 中々に強情だ。彼女なりの思いやりなのだろうが、子供の食べ物を取るほど自身も堕ちぶれてはいない。どう断ったものかと考えている時だった。


「ハハ! 優しいお嬢ちゃんだ。しょうがねえ……坊主、これはオマケだ。もっていきな」


 店先でこちらのやり取りを見ていた店主が、そう笑いながら焼き菓子を一つこちらに差し出す。

 

「イイノカ?」

「ああ、アンタら旅芸人か何かだろう? ウェスティンの俺ん店の『焼き甘パン』はラミシス王国一だと、お仲間にもそう宣伝してくれ。頼んだぞぉ」


 そう気の良い笑顔を浮かべる店主に、俺とナフィアは頭を下げて礼を述べ、店を後にする。


 ……ハーピーの連中は騒がしくて嫌いだが、ナフィアは良いやつだと思う。それと同じよう、先ほどのニンゲンも良いやつだった。

 

 フィリス様はニンゲンを『生かさず殺さずの範囲で奪って良い』存在だと俺たちに教えているが、少なくとも先ほどの店主のようなニンゲンからは奪いたくないなと。そう漠然と考えながらちぎった菓子をナフィアの口元に運ぶ。


「んん! 甘くてモチモチして、おいしいです! ロクスさんは食べないんですか?」

「ココジャ 仮面 ハズセナイ」

「あっ、そっか……じゃあ私も、残りは後で食べようかな」


 そんなやり取りをする道中、ふとナフィアの肩がニンゲンにぶつかり、その体が横に倒れる。

 ……服の裾が捲れれば、人ならざるナフィアの体が人前に晒されてしまう。それは不味いと、咄嗟に俺は駆け寄って彼女の体を支え、手に持った甘パンの袋が地面に転がった。


「ダイジョウブカ ナフィア」

「あっ、ありがとう、ロクスさん」


「お、おいアレ……」

「やべえぞ嬢ちゃん、坊主。早く逃げた方がいい」


 ふと、周囲から人気が引く。その最中こちらに耳打ちをしたニンゲンらが二、三人いたが、彼らに問い返す間もなく、自身らの前に屈強な男が立ち塞がる。


 彼らは全身に金属の鎧を身にまとい、肩から背にかけて白色の外套を纏っていた。この特徴は確かウォルフ様に聞いた……。


 

「そこの女、ここにおわす方を誰だと心得る」

「見ろ。お前がぶつかったせいで、主君の服が汚れてしまった。その狼藉、見逃す訳にはいかぬ」


 そう言って男らは街中にも関わらず、腰に付けた鞘から剣を引き抜く。

 俺は咄嗟にナフィアを自身の背に庇い、自らも腰に差した短剣を引き抜く。しかしその戦力差は火を見るより明らかだ。どうする。


「やめよ、お前達」


 二人の男の間から、妙齢の女の声が響く。咄嗟に彼らは横へと退き、その間から淡い金髪に緑の目を持つニンゲンの女が現れ、こちらへと歩み出た。



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