13.守秘の誓約
「面白い。それなら先ずはベーテスが領主、このパウロルを跪かせてみ……」
『飛竜』ヴィーヴルの竜骸を埋めた左足に魔力を通わせ、一瞬にして青年との距離を詰める。素手でその腕から杖を叩き落とし奪い取り、ついで魔術道具や竜骸を発動させようとする周りの領主数人を長杖で地面に叩き伏した。
こちらに放たれる火弾の気配に、地を蹴り宙を舞う。同胞の魔術の流れ弾を受け、悲鳴を上げ燃え盛る領主の一人を横目に、左手の『甲亜竜』タラスクの竜骸を媒介とした防護魔術を発動。撃ち込まれた魔術や毒矢を盾状の魔壁で弾き、ついで腰のベルトに仕込んだ細長い木の杭を数本引き抜き、攻撃の飛んできた方向に投擲する。
「ぐあっ……!」
肩や腕に杭を食らった領主らが、傷口を押さえ倒れ込んだ。
「っ、このぉ! ……がっ、あァ!」
懐から牙製の短剣を取り出し、こちらへと飛び込んできたパウロルの利き手を捻り上げ、みぞおちに加減をした膝蹴りを入れる。その場に倒れ伏す青年の姿を見届けた後、次に向かう輩を制圧すべく奪った杖を構えた所で、オルフィスの声が辺りにとどろき渡る。
「両者静まれ! ノルドよ、至急怪我人の手当てを」
ロミリスの名代オルフィスの呼びかけに、周りの領主らが武器を収める。自身もまた杖を地面に転がし、トエル家の家臣らは、火こそ消し止めたものの火傷を負い死に体の男や、木の杭が刺さったままの男らの元へと赴いた。
「ガハッ……うぅ」
「立てるか?」
地面にうずくまる男、パウロルに向け手を伸ばす。彼は一瞬それを払い除けようとするも、少し間を置いてこちらの手を握り返した。
「げほ……貴殿は強いな。この俺が手も足も出ぬとは。どうやら神の使者というのも口先だけではないらしい」
彼はそう何処か悔しそうに呟く。起き上がった後はこちらに敵意を向ける様子もなく、俺は今一度自身が居た場所、オルフィスの隣へと戻る。
「……全く派手にやってくれたな、フィリスよ」
そう小声で、叔父オルフィスがこちらへと語りかけた。
「彼らは古くより、この地で魔物と戦い続けてきた猛者。無為に言葉を連ねるより、こちらの方が手っ取り早いと思ったのだ」
「相もかわらず、その血の気の多さは我が妹譲りといった所か。まあ良い……ノースフィールの同胞らよ! 男神アストゥラルが遣わせた神使ウォルフの力は、今汝らが目にした通り。かの神と彼の悲願、そうして我らの未来の為、ウォルフの求む守秘の誓約をここに交わしてもらおう!」
オルフィスの言葉に、今度は領主らも戸惑いどよめくことは無く、ただ沈黙が場を支配する。その静寂を破るよう、集団から進み出てこちらに片膝をつき跪く青年の姿があった。
「私、ワーテルの領主ペトロスは、今ここにウォルフ殿と男神アストラル様の秘密を守ると誓おう」
ペトロス・ワーテル。暗褐色の髪と瞳を持つ彼はノースフィール領主の一人ワーテルの若き当主にして、かつて勇者と呼ばれた自身の信奉者だ。
以前よりこちらとは面識があり、彼にはオルフィス経由で自らの素性を先んじて明かしていた。その甲斐があってか、コボルト達を兵に仕立て上げる為の指導も熱心にしてくれており、何かと助けられている。
ノースフィールの領主らの中には、ペトロスの他にも数人こちらの事情を知っているものがいる。次は彼らが進み出るかと思いきや、ペトロスに続いたのは意外な人物の姿であった。
「……ベーテスの領主パウロル。私もウォルフ殿とその神の求めに従い、守秘の誓約をここに交わそう」
赤褐色の髪を持つ青年は、そう言って膝をつきこちらにこうべを垂れる。
若き同胞らの行動に、周りの領主らも心を動かされたのだろう。パウロルに続く形で彼らは次々と前に出て、誓約の言葉を口にした。
そうしてその場に居る全ての領主が、自身らに対する守秘の誓約を交わした所で。俺の頭の中にかの神の声が響いた。
「フィリス。これは知の神アストゥラルからのありがたき神託だ。先ほどこのノースフィール一帯の知性体の思考をさらった所、どうやらその中に三人。お前をラミシス王国の騎士団に売ろうとしている裏切り者がいるようだ」
「……三人ですか、思っていたよりは少ない」
「下調べは済ませていたようだな。さあどうする? このままでは国王ジニアスの耳に知らせが届き、このノースフィールの地に君を討伐するための軍が送られてしまうぞ」
「ええ。こちらは未だ軍備が整っていない状況、そうなった場合、我らの敗北は免れないでしょう。故に手は打ってあります」
彼ら領主達をこのノーラント山の麓に集め、こうして誓約を交わさせたのには理由がある。
……裏切りに対する制裁。密告者の存在を公に処分する正当性を得る為だ。
ノースフィール各地に散る配下のコボルト達の中には、普段の労働に加え不穏な動きを見せる領地や人々の監視を命じている者どもがいる。それを統括するのは、かつて第二遠征部隊の長を任じたコボルトの一体「ニクス」だ。
ニクスの報告によると、ほぼ確実に騎士団と繋がっているであろう人物が二名。そうして疑いのかかっている人物が三名。少なくとこの五名について、早急な対処……場合によってはその命をもって償わせる必要があった。




