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【Ch.3開始】この電脳都市に錆びついたキスを  作者: 愛上おかき


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Ch.2-2-4 求めていたピース

  ◇2327年10月17日(日) 9:46


「ってことで、俺を助けてくれ!!」


「どうでもいいけど、ここ、私のクリニックなんだからね⋯⋯」


 クリニックの主であるはずのナオミが半ば諦めの声で呟いた。

 無理もない。


 ほんの数日前までは優雅なクリニックが朝の訪れを告げ、心穏やかに一日の活力を養っていた空間は見る影もなくなっている。


 診察用ホログラムに映し出され、助けを懇願する黒人の大男。

 幾分かマシになったとはいえ、それでもなお気が狂いそうになる、意味不明なアニメBGMとそれを囃し立てるチャンヒナ。


 この混沌のきっかけとなったアリスはチャンヒナとそのダディであるギーを油断なく見据え、一人思考の海に沈んでいる。

 恐らく会話の中で得られた彼らの置かれている状況と能力から、どうすれば自分が優位に立てるのか、引き込めるのか、悪巧みでもしているのだろう。


 短い付き合いだが、こいつの思考回路はわりかし分かってきた——打算的だが、身内にはさらけ出すタイプ。その分、身内とみなされるまでのハードルは、バチクソに高いが。


 エントロピーは増大する。つまりカオスは収まらない。この場をなんとかできるのは、俺ぐらいだ。

 ため息をつき、とりあえず足元の配線を一本引き抜いた。


「Whats!?」

『ぶー!』


 ブツン、とスピーカーの音が止まる。ようやく耳が馬鹿になる音楽が消えた。

 音に乗っていたチャンヒナが抗議の声を上げ、大男は自分が消されるかと思ったのか少し慌てる。


 ナオミも何か言いたそうに俺の顔を見たが、何も言わない。

 分かってるって。大事な機材のコードは抜かないから安心しろ。


 俺はコメディチックな二人組を見据えて言った。


「おい、ファンキーアニメ野郎。いきなり人ん家ハックして助けてくれも何もねぇだろうが。まずきちんと名乗ってから状況を説明しろ」


 俺が懇切丁寧にお願いするとホログラムの巨漢——ギーは、星型サングラスの奥で目を丸くし、それからニヤリと笑った。


「オーケーオーケー、CoolにいこうぜBro。俺様はギギギ・ジグザグ。超ウルトラスペシャルなハッカーさ。気軽にギーと読んでくれ」


『ギー様はこの街、いや電脳世界一のハッカーなのだ!』


 画面の中のチャンヒナが、イエーと褒めそやす。デフォルメされながらも明確にわかる感情の機微と、反応速度。最新のAIでも舌を巻く”自然さ”だ。

 アリスも同じことを思ったのか、ギーに尋ねた。


「ねえ。さっきから気になってたんだけど。そのアバター、あなたが作ったって本当?」


 ギーがホログラムの中で、大げさに肩をすくめた。背中のサーバーラック・ウィングが誇らしげに揺れる。


「オーイエア? 俺が心血注いで作り上げた、世界にたった一つの最高傑作——完全自律型汎用AIだ!」


 自律型AI。それ自体は、この時代において決して珍しいものではない。企業の受付嬢から、家庭用のアンドロイド、果ては軍事用ドローンの制御まで、AIは社会のインフラとして深く根付いている。

 自我を持ち、人に代わって判断を下すAIならジャンク屋でも型落ちモデルがワゴンセールで売られている。


 俺のスマートレンズも自律型AI搭載モデルだ。レーザーサイトで照準を合わせられた時など、危険予測をして俺に教えてくれる。

 チャンヒナのように自己主張してこないところが、何よりもありがたい。


 俺はテッキーじゃないからギーのすごさがよくわからないが、ある程度その道に精通しているアリスとナオミはそうではなかったようだ。


「へぇ⋯⋯。”スクラッチ”(自己開発)でそこまで仕上げたの? やるじゃない」


 アリスが感心したように呟いた。

 流石の俺でもアリスの言葉は分かる。要はギーは一からチャンヒナを作り上げたってこと。その分、企業による機能制限やバックドアの心配はないから安心ってわけだ。

  

『えっへん! すごいでしょ! チャンヒナはチミたちと同じ、唯一無二の存在なのだ! そこらへんの量産型ポンコツAIと一緒にしないでよねっ!』


 生意気な口調、豊かな表情、そして場の空気を読んで、あるいは読まずに、人間を挑発する悪知恵。

 なぜこのような人格にしたのかは理解に苦しむが、逆にここまで”人間臭い”AIを組み上げるには、狂気的な執着と技術が必要なことぐらいは理解できる。


「⋯⋯信じられないわね」


 ナオミが眼鏡の位置を直しながら、ギートチャンヒナを交互に見つめた。彼女の目が、理性を取り戻し、マッドサイエンティストの色を帯びる⋯⋯すごいな、AIですら怯えさせるナオミの眼力。


「いくら腕利きのテッキーでも、個人リソースでここまでの感情エンジンを構築するのは不可能なはずよ。演算処理が追いつかないわ。あなた、ベースに何を使ったの?」


 ナオミの問いに、ギーはニヤリと笑い、サングラスを押し上げた。


「さすがドクター、お目が高い。ご明察どおり、ベースエンジンはある企業の極秘エンジンを”拝借”した」


「拝借?」


「インドの巨大ITコングロマリット、”Mandala Systems”(マンダラ・システムズ)を知ってるか?」


 知らない奴はいないだろう。テック企業の超大手。アジアどころか世界のシステムインフラを牛耳るメガコーポ。


「まさか⋯⋯彼らが次世代の軍事シミュレーターとして開発していた、”Akasha-Drive”(アーカーシャ・ドライブ)!?」


「BINGO! そのプロトタイプだ」


 ギーが指を鳴らす。そろそろ俺の知識じゃついていけなくなった。

 暇つぶしに指で画面上のチャンヒナを突こうとすると、触れられるはずもないのに、慌てて俺の指を避けようとする。ノリが良いやつだ。


「倫理コードを実装する前のベータ版をちょっくらハッキングしてお借りした。ま、セキュリティも性能もボロボロだったから、俺様がちょこちょこっといじくって”ソウル”を吹き込んだってわけよ!」


 ナオミとアリスは絶句している。ようはギーは凄腕のハッカーであり開発者ってわけだろ? メガコーポから盗みをするなんて大した玉じゃねーか。

 画面を連打する俺の指をダンスで避けまくるチャンヒナ。意外と楽しいぞこれ。


「⋯⋯色々とツッコミどころ満載だけど。あなたがやり手ってことは分かったわ。それこそ電脳世界一っていうのが眉唾じゃないって信じられるくらいには」


「最高の褒め言葉だぜ、ドクター」


 ホログラムの大男が優雅にお辞儀をした。

 チャンヒナと遊びながら心のノートにメモ。テッキーは褒めるとチョロい。すぐ色々教えてくれる。いつかは役に立つだろう。


「なるほどね。マンダラの軍用エンジンを改造した、違法AI。確かに、これならTiānqǐの予測アルゴリズムすら出し抜けるはずだわ」


 アリスの目が、肉食獣のそれに変わる。タブーを犯した違法AI。開発者は犯罪者。

 そんなリスクよりも、圧倒的な能力に価値を見出した目だ。


「ギー、そしてチャンヒナ。あなたたちの実力は分かった。

 で? そんな天才さんたちが、どうして助けを求めてくるわけ?」


 本題だ。ギーの表情が少しだけこわばった。星型サングラスの奥で、視線が泳ぐ。


「それがよぉ、俺様は今、ケツに火がついちまってるんだ。文字通りな」


「誰に追われてるの? マンダラ・システムズ?」


「ノンノン、あんな奴らはどうってことはねえ。もっとタチが悪い——Helix Corpだ」


 空気が変わる。ナオミとアリスが俺に一瞬視線を向けたのが分かった。

 アリスが何でもないかのように続ける。 


「あんた、まさかHelixに手を出したの?」


「ああ。ちょっとばかし情報系のサーバーにダイブして、裏取引やらなんやらをガサゴソしてたら、どうやらこの街の支配者の”恥部”をさらけ出しちまったらしい」


 ギーは笑っているが、内心は冷や汗モノだろう。

 

 Helix Corp。

 

 俺の全存在を賭けて殺すべきゴライアスを擁す、この街の支配者。

 

 Helix Corpはこの街の通信インフラから民間警護に至るまで、ありとあらゆる生活に根ざしている。

 そんな王者の恥ずかしいところを知ったとなれば、相応の仕返しは当然だろう。いつハックしたかは知らんが、まだ生きているのが不思議なくらい。


「なるほどね。マンダラとHelixを手玉に取るハッカーと、お茶目なAI。求めていたピースとしては申し分ないわ」


『プリティーでセクシーでキューティーも加えろぉ!』


 アリスが俺を見た。「どう?」という目配せ。

 正直、会ったばかりでギーを信用できるはずがない。チャンヒナはうるさいし。


 ただ、あの企業の名をギーが口に出した時から俺の心は傾いていた。


「乗ろう。Helixに楯突くようなバカだ。それぐらいイカれたやつじゃないと一緒にやっていけない」


 私はイカれてないのに、とナオミが溢す。ウソだろ、お前が一番ヤバいまであるのに自覚ないのかよ。


「決まりね。ギー、あんたの身の安全は私たちが保護するわ。隠れ家も提供してあげる」


 ギーとチャンヒナが歓声を上げる。

 おい、また電子機器を暴れさすのは勘弁してくれ。

 その代わり、と言葉が続く。


「あんたたちにはチームに入ってもらうわよ。じゃないと今後の方針も考えられないもの」


「勿論だ! 俺様とチャンヒナの力、好きに使ってくれ⋯⋯だが、チームに入る前に、もう一つだけ頼みがある」


「頼み? 命を助けるだけじゃ不満だって言うの?」


「俺様を守るだけじゃダメだ。どうしても手に入れなきゃいけないモノがある。それを確保してきてほしい。こっちもちゃんとお前たちの力を見極めたいからな」


 ギーが指を鳴らすと、空中に一枚の画像が表示された。

 手のひらサイズのクリスタル製デバイス。内部に複雑な電子回路が封入され、表面にはGALACTICAのロゴが刻印されている。


「こいつぁただのメモリじゃねぇ! これは来月のザ・シティ公演に合わせて製造された、世界にたった五つしかない、GALACTICAの超・超・超・超・限定プレミアム・ファン・グッズ! ”Star Light”(星の涙)だ!」


 俺とアリス、そしてナオミは同時に脱力した。またアイドルの話か。


 再び室内に流れるアニメチックな爆音――ノリノリのギーとチャンヒナからは危機感は一切感じられない。


 本当にこいつら大丈夫か?

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