表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この電脳都市に錆びついたキスを  作者: 愛上おかき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/61

Ch.2-2-2 電脳の海からこんにヒナ!

  ◇2327年10月17日(日) 9:02


 翌朝。俺はポッドでの治療が一段落し、ナオミと一緒に朝食を取っていた。

 今日はコーヒーとオレンジジュースとイングリッシュマフィン。例に漏れず原材料は知らんが、美味いもんは美味い。


 俺の怪我はどうやら全治二週間ほどらしい。複雑骨折は普通、数ヶ月ほど完治にかかりそうなものだが、治療ポッド様々だ。いや、ナオミ様々か。


 音楽は相変わらずクラシック。確かこれはモーツァルト。

 穏やかでゆっくりな朝。昨夜が嘘のようだ。


 そんなチルを乱したのは、やはりこいつだった。


「ナオミ、おっはよー! ジーク、生きてるー?」


 クリニックのドアが乱暴に開け放たれる。

 元気いっぱいに現れたのは、昨夜のお仕置きなどなかったかのように復活したアリス。

 後ろには、山のような荷物を抱えたドローンが数機続いている。

 いいか、扉は開けたら閉めるんだ。メガコーポではそんなことも教わらなかったのか?


 カフェインマシマシのコーヒーを流し込み、一息ついてから尋ねる。

「⋯⋯何だその荷物は。夜逃げか?」


「失礼ね。拠点の拡張よ、拡張。ナオミとも話がついたの。このクリニックの地下倉庫を改装して、私たちの”アジト”にするわ。いずれ横の店も買収して、横の面積も広げるから」


 アリスはドローンに荷物の配置を指示すると、コーヒーを一杯注ぎ、俺の目の前に脚を組んで座った。


 ナオミを見ると肩をすくめ、眉を片方上げている。お手上げのサイン。

 猪突猛進で聡く、行動力があるやつほど手に負えないものはない。


「さて、ジーク。怪我も治ったことだし、次の仕事の話をしましょう」


「全治二週間です。少なくとも三日は絶対安静」


「だそうだが?」


「甘えないの。で、これからのことだけど。前も言ったとおり、まずはリクルートよ」


 怒髪天を衝くナオミが現れそうになる。どうどう。それにしても昨日あんなことをされたのに、いい根性してる。


 アリスはナオミを無視してタブレットを操作し、ホログラムウィンドウを空中に展開した。

 表示されたのは、ドット絵の宝箱が表示されたシンプルなホームページ。宝箱上部には”挑戦者モトム”とデカデカと書かれている。

 なんだこれ。


「これは特上の罠。良いハッカーってのはね、電脳の海こそがリアル世界でずっと潜ってるの。だから現実世界で調子に乗ってるメガコーポ嫌いなやつが多い」


 宝箱は時々光ったり、鍵穴から目が覗き見える。一昔前のゲームのよう。


「で、これがなんだってんだ?」


「前も言ったけど、Tiānqǐの顧客リストの一部」


 アリスがウィンドウを指先で弾くと、宝箱が開いた。

 中から溢れ出したのは、無数の企業ロゴと、個人データのサムネイルだ。

 非合法な武器の売買記録、政治家への賄賂送金履歴、そして拐かした”被検体”のリスト。メガコーポにとって、絶対に表沙汰にできない爆弾。


「本当にバラ撒いたのね」


 ナオミが呆れと諦め混じりに呟いた。

 アリスが悪戯っぽくコーヒーを啜る。


「もちろん! 使わない武器はお荷物ですもの。でもただ公開したわけじゃないわ。暗号化コードだけはTiānqǐの軍用レベルのものを流用して、ガチガチにロックを掛けた状態で放流したの」


 電脳の海にはメガコーポ嫌いのハッカーたちが泳ぎ回り、そこに鍵のかかった宝箱。


「甘い蜜でハッカーたちの反骨心を刺激して誘い込んだってわけか」


 俺が言うと、アリスは満足げに頷いた。


「考えて。殺したいほど憎い相手の弱点があったら、あんたたちならどうする?」


「もちろんそこを突く」


「まずは強請って、そこから新薬の実験台にして⋯⋯あ、新しいインプラントを試すのもいいかも」

 

 ナオミの言葉にアリスとともに顔を引き攣らせる。やはりナオミは怒らせてはダメだ。


「そ、そうよね。当たり前だけど弱点を攻めるでしょ? なら腕に覚えがあるハッカーなら、こんな”絶好の餌”を放っておくはずがない」

 アリスは人差し指を立て、話をまとめた。


「Tiānqǐの最高レベルの暗号を解読し、誰よりも早くこのお宝にたどり着く。それは彼らにとって最高の反逆であり、トロフィーなのよ」


「なるほどな。で、一番乗りのロックな野郎をスカウトするって寸法か」


「いえーす。私は複雑な仕掛けはできないけど、一番最初に暗号を突破した奴の”接続ログ”だけを特定するぐらいはプログラムできる。逆にそれしかできないけど、リクルートする分には十分でしょ?」


 つまり、蠱毒だ。

 

 有象無象のハッカーたちを競わせ、その中で最も優秀な——Tiānqǐの軍用暗号すら解き明かすトップクラスの——ハッキング技術を持つ一人だけを選別する。なんか似たようなことを最近経験した気がする。

 いかにも性格の悪い、こいつらしいやり方だ。


「なんというか⋯⋯打算的な女だな」


「褒め言葉として受け取っておくわ。じゃあ、早速アクセスログを見てみましょうか。実は先週時点でもう公開はしてたの」


 アリスが画面を操作し、ページのソースコードをホログラムウィンドウに表示させた。


 二百年前から変わらぬ黒背景に色とりどりのコードが書き並べられた画面。

 その文字列が崩れたかと思うと、DNA配列のようにねじれ、組み合わさり、徐々に何かしらの形へと変わっていく。


「こんな動きするのは普通なのか?」


 尋ねる。明らかに変だ。

 アリスのヘーゼルカラーの目は。子供が新しいおもちゃを見るようにキラキラ輝いていた。


「すごい。セキュリティ突破どころか、このサイト自体が書き換えられてる⋯⋯」


 つまり?


「もうハッキングされて情報抜かれちゃってるし、接続ログを取るつもりが、逆に私たちの居場所が見つかった——逆探知よ」


 ——Access Point Detected!


 派手な電子音と共に、ウィンドウが白く輝く。

 光が収まると、そこには極彩色のネオンカラーで二頭身のデフォルメされた少女のキャラクターが映し出されていた。


 猫耳パーカーに紫の髪、ぐるぐる眼鏡。背景には無数の電子ドラッグとお菓子が舞っている。目がチカチカするようなデザイン。


『電脳の海からこんにヒナ! ウルトラハイパースーパーハッカー・ギー様のアシスタント、そしてみんなのアイドル! チャンヒナだぞっ☆』

 

 アニメ声が、クリニック中に響き渡った。

【読んでいただいた方にお願い】

・ちょっと気になる

・続きを読んでやってもいい

・なかなかやるじゃん

と、少しでも思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします。


また、以下に☆がありますのでこれをタップ、クリックしていただけると評価ポイントが入ります。


評価していただけることはモチベーションに繋がるので、応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ