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この電脳都市に錆びついたキスを  作者: 愛上おかき


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Ch.2-2-1 処す

『グッドモーニング、ザ・シティ。メインMCのクソ野郎ことパブロフは、急遽生放送をブッチしやがりましたので、私、カラチェフスカヤがお届けします。


パブロフ不在の理由でもあるのですが、ついに来月、”GALACTICA”がザ・シティにやってきます。私も大好きなのに、あのパブロフの[放送禁止用語]⋯⋯取り乱してしまい、大変失礼いたしました。


ライブ参加者はくれぐれもチケットと命にお気を付けを。

それでは良い一日を、クソ野郎ども』


  ◇2327年10月16日(土) 10:30


 クリニックのホロ・モニターから、脳を溶かすような甘ったるい声と、極彩色のビームライトが激しく踊る映像が垂れ流されている。

 画面の中で踊っているのは、この都市どころか世界で一番有名なアイドル、”GALACTICA”。

 真偽は不明だが、火星出身のメンバー七人で構成され、人間離れした美貌と歌声を持つ天使たち。

 普段なら鼻で笑ってチャンネルを変えるところだが、今の俺には指一本動かす気力もなかった。


 なぜなら、目の前で繰り広げられている光景が、よっぽどスリリングだから。


「⋯⋯で? 言いたいことはそれだけ?」


 ツンドラの永久凍土のほうが温かいと思える氷点下の声。

 声の主は銀髪を逆立たせ、メガネ型デバイスは暗号化モードになっており、その目は伺えない。


 ナオミが腕を組み、仁王立ちしている。その背後には、まるで憤怒を具現化したかのように、手術用のアームドローンが四基、不吉な駆動音を立てながら浮遊していた。

 それぞれの先端には、メス、骨切り用のボーンソー、ハンマー、そして極太の注射器がセットされている。


 その足元。先程までオーディションを特等席で観覧していたアリス・ヘルマン様は汗をダラダラ流しながら正座をしていた。


「い、いやぁ〜、ナオミ? ほら、私だってどうしても外せない用事があったというか⋯⋯」


「黙れ」


「はい」


 子猫のように縮こまるアリス。昨夜の戦場で見せた女王の風格はどこへやらだ。目で俺に助けを求めてきているが、俺は無視した。一回お前は怒られろ。


「あなた、私に言ったわよね? 「ジークが”Tiānqǐ”の追撃部隊と戦うから、私はここで支援と指示をする」って。それなのに、あなたは何をしやがりやがったの?」


「⋯⋯バスルームの窓から抜け出して、現場にいました」


「それだけじゃないわよね?」


 ナオミの眉がピクリと動く。


「ご丁寧にスピーカーまでセットして、私が話しかけたら、事前に録音したあなたの声で返事をするようにプログラムしてたわよね?」


 なるほど、古典的だが悪知恵が働く。俺は治療ポッドの中で、感心半分、呆れ半分で聞いていた。


「しかも、その音声データ⋯⋯!  あんな⋯⋯あんな恥ずかしい音声を編集して流すなんて、どういう神経してるのよ!」


 ナオミが顔を真っ赤にして叫んだ。

 ん? 恥ずかしい音と声?  おい、何だそれは。詳しく聞かせろ。  俺が身を乗り出そうとすると、アリスがニヤリと口角を上げた。


「あ、あれね。実は私じゃなくて、ナオミがシャワー浴びてる時に録音してたやつよ。ねえ、あれ何してた時の声? ねえ、ねえ、教えてミケルセン先生?」


 ブチッ。

 真っ赤になったナオミの顔が一気に真っ青になり、血管が切れる音が聞こえた気がした。


「処す」


 ナオミが指を振るう。背後のドローン達が一斉にアリスに襲いかかった。


「ちょ、タンマ! 冗談! ジーク、助けっ——」

「自業自得だ」


 俺は目を逸らした。次の瞬間、クリニックにアリスの悲鳴が響き渡った。


「ぎゃあああ! そこはやめて! そっちは違うって! 本当にやめてぇぇ!!」


 目の前でアリスのあられもない姿が晒される。ほう、今日はピンクか。

 ナオミ、俺は見てないぞ。ほら、目を瞑ってるし。だからそんな目で見るな。


 治療ポッドの冷却液に浸かりながら、目を閉じる。

 ひとまず分かったことは二つ。

 ナオミを怒らすとTiānqǐより怖い。


 それにナオミもそういうこと、ちゃんとしてるんだな。

 

  ◇


「次はあなたよ、ジーク」


 アリスへの処刑、という名の精密検査を終えたナオミが、俺の方を向く。

 アリスはドローンに処され、うつ伏せでケツだけ高く上がった状態で床に伸びている。キレたナオミをいなすのは、メガコーポを手玉に取ったアリスでも難しいらしい。

 ちなみに俺はクリニックに足を踏み入れた瞬間、滅菌室から治療ポッドへ直行させられた。


 彼女はため息をつきながら、治療ポッドのモニターを操作する。

 アリスへのお仕置きも済んで一息ついたのか、少しは落ち着いた様子だった。それでも表情は硬い。


「左鎖骨の粉砕骨折、右耳の裂傷⋯⋯命に別状はないとはいえ、あなたは痛いのが好きなの? 毎回毎回治療するこっちの身にもなりなさい」


「仕事熱心で何よりだろ? それに今回は結構ヤバい奴がでてきたんだ」


 そーだそーだ! と床からささやかな反抗の声は、ナオミの一睨みで黙った。


「バカ言わないで。治療ポッドだって万能じゃないのよ。細胞再生のリミットを超えたら、あなた自身の寿命が縮むの」


 ナオミは小言を言いながらも、その手つきはこころなしか優しい。

 俺の体を気遣うように、ポッド内のナノマシンやら化学物質やらの濃度を調整していく。


「あなたも、あのバカ女も⋯⋯無茶ばっかりするんだから」

 ナオミは少し目を伏せ、それから小さく微笑んだ。


「でも無茶はするなって言っても無理でしょう? ならせめて死なないでよね。死ななきゃ私がなんとかするから」


 治療ポッドのガラス越しに見えるナオミはどこか決意を秘めた顔。

 それがあまりにも美しくて、思わず見惚れた。


「ああ。ナオミがいなきゃ、俺はとっくに死んでる。これからも頼むよ」


 素直に礼を言うと、ナオミは少し照れくさそうに顔を背けた。

 その横で顔だけこちらを見てニマニマしているアリス。お前はもういっぺん処されろ。


「⋯⋯こっちは任せて。今はゆっくり休みなさい」


 そう言って彼女はメインスイッチを押し、治療ポッドに麻酔が投与される。

 薄れゆく意識の中、アリスの悲鳴が子守唄代わりに聞こえた。

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