Ch.2-1-8 アドリブの掛け合い
◇2327年10月16日(土) 00:06
パーティ会場に参上する前に、接続している複数のカメラで戦況を確認する。状況確認を怠るやつはすぐ死ぬ。デイヴィスが口酸っぱく言っていた言葉。
敵は残り七人。二人ほど、バウンティー・ハンターの狙撃に頭を吹き飛ばされたらしい。大口径の狙撃銃を構える狩人がガスステーションの反対に見えた。少しは役に立つじゃないか。
しかし状況は芳しくない。ジリジリとアリスがいる建物に近づくTiānqǐの部隊。先ほどと変わって先陣を切るのはリーダー格の男。クレイジードッグズとハンターたちが応戦しているが、給油機や充電機を遮蔽物に使い、着実に前に進んでいる。
そもそもTiānqǐの最新装備の前では、狙撃銃だけでしかまともなダメージは与えられていない。
狩人と犬は不利を悟ったのか、残ってる数より逃げ出した数のほうが多そうだ。
時間がない。ここはカードを切るとき。
「アリス、やれ!」
建物にいるアリスの口が、嬉しそうに歪むのがよく見えた。
『待ってたわよ! 白馬の王子様!』
お前そういう趣味だったのか。
軽口とともにアリスが端末を操作すると、地面からスプリンクラーが起立し、周囲へと液体をバラ撒く。油断していたTiānqǐの数名と、運が悪い犬数匹にも液体がかかった。
同時にジャミングも発動している。無線が使えないことに気付いたのか、黒尽くめに一瞬の動揺が見えた。チャンス。
「悪いな。文句はあの世で聞いてやる」
口だけの謝罪は犬に向けたもの。
液体を被った黒尽くめの近くの充電機を”喷发(Pēnfā)”で撃つ。
轟音と共に充電機は抉れ、中の基盤が激しく火花を散らし、液体——ガソリンに着火。事前に仕掛けといた罠。
一気に広がる炎。黒尽くめの精鋭も火だるまになることは想定していなかったのか、ビッグバンドのテンポに全くあってないダンスを披露した。下手くそどもめ。
憐れにも巻き沿いを食らった野良犬は、絶叫を上げながら仲間に熱い抱擁を交わしてる。不幸にも燃えるダンサーが意図せず増えた。
俺とアリス以外は予期せぬサプライズに、その場にいた参加者全ての注目が建物から逸れた。俺はその隙に最も近くにいたTiānqǐの部隊の背後、死角へと滑り込む。
左手に握っているまだ銃口が熱い”喷发(Pēnfā)”——皮肉にもTiānqǐ製高火力拳銃の銃口を、黒いヘルメットの後頭部に押し当てた。
振り向こうとするがもう遅い。迷いなくトリガーを引く。
銃の名に恥じぬ噴火音がBGMを飲み込み、夜気を震わせる。
ゼロ距離で炸裂した銃弾は、Tiānqǐ最高クラスの防弾基準を誇るヘルメットを大きく凹みこそすれど、貫通することはなかった。
しかし撃ったのは12.7mmのCT弾。着弾時に運動エネルギーを一点に集中させることで、装甲の裏側をミンチにする代物。
内部にはえげつない衝撃波が駆け巡り、おそらくヘルメットの中身はトマトを握りつぶしたようにグチャグチャだろう。
案の定、そのまま隊員は声を上げることもなく、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
残り六名。
いや、ガソリンでよく燃えてた二人が、狩人の狙撃によって踊り疲れて眠っている。残り四名だ。
俺もスウィングのノリ方が大分わかってきた。ただ後ノリよりかは前ノリが俺の流儀。ガンガン前に行かせてもらう。
突然の乱入者に警戒を露わにする残りのTiānqǐ部隊に向かい、俺は駆け出した。
◇
「二号と三号で妨害者を排除。一号は私と共に来い。目標を排除する」
右から二番目の男から出される、簡潔かつ具体的な指示。やはり俺が睨んだのがリーダーだったようだ。
左の給油機に身を隠す。直後に銃弾の弾幕。俺の後ろにいた野犬どもが静かになる。ちょっといいところがなさすぎて、かわいそうになってきた。
銃撃は止むことなく、俺に近づいてきている。まあ、そうするよな。
位置関係はアリスがいる建物、クレイジードッグズとバウンティー・ハンター、黒尽くめ、俺の順列。
建物を庇うように位置する駄犬と狩人にはそこまで脅威がないとTiānqǐ部隊は分かってる。
横からの狙撃はウザいだろうが、遮蔽物が沢山ある。だから、一番の脅威と認識した俺に二人当てて、時間を稼ぐつもり。
給油機に浴びせられる止むことのない弾幕。おそらく二人交互に撃ってリロードの隙を無くしてる。完璧な統制。機械じみている。いや、仲良しなだけか?
だが、左目を解放した俺とお前らじゃ釣り合わねえよ。
奴らのライフルの装弾数は標準的な三十発。俺は二十八発を数え、給油機から左目だけ出し、うるさいだけの二人を見た。
横並びの二人。今撃っているのは右の男。
”残り二発は俺には当たらない”。
左の男が”頭を出した俺を確認し、照準を合わせようとするのが見えた”。
身を屈め、左に疾走。目標は隣の給油機。
”男が慌てて俺を追尾するように銃を乱射するが、俺はもう遮蔽物に隠れている”。
さらに疾走。左回りで建物に近づく。右側にクレイジードッグズの死体を盾に進むリーダー格の男と一号が見えた。ここからなら俺の射線が通る。
ならそうだよな、追ってくるしかないよな、二号と三号。お前らが命じられたのは仲間がアリスを殺すまでの俺の邪魔。このままじゃ逆に俺がお前らのリーダーを殺しちまう。
焦った足止め二人は、直線的な動きで俺に迫ってきた。
そして踏み込む——キルゾーンへ。
『スイッチオーン』
アリスの場にそぐわない間抜けな声が遠隔でスイッチを入れる。阿吽の呼吸。彼女が戦況を見てるのは分かってた。
「あば」
俺が五日前に設置していた電子地雷。単なる爆発ではない。指向性の高出力マイクロウェーブ照射。つまり、電子レンジ。ジャズにそぐわない、ブォン、という重低音と共に、空間が歪む。
「うわぁ」
俺は目を逸らしたくなる光景を前に、ガキの頃、生卵を電子レンジに入れたことを思い出す。後で母親に怒られたから、よく覚えてる苦い思い出。
俺が設置した電子地雷の範囲に入ったTiānqǐ部隊の二人はそろって間抜けな音を出したが、その声はすぐに泡立つような音に変わった。
マイクロウェーブの出力によって、血液が瞬時に沸騰。その結果、目、鼻、耳、穴という穴から煮えたぎる血と蒸気を噴き出し、内側から破裂したのだ。あの時の卵のように。
辺りに鉄錆と茹でた肉の臭いが充満する。ひどい有様だ。
『明日はローストポークね!』
ブラックジョークがすぎるぞ。
とにかく残り二名。観客はもうまばら。ビビったのかステージから降りて遠巻きに見てるだけ。
「あいつを足止めしろ。俺が脱走者を殺す」
リーダー格の一言で、一号が俺に向かって突撃してきた——今までの誰よりも早い! 身体強化手術を何回したんだ、このバ金持ちが!
それでも左目で”奴が充電機の陰に入るところを捉え”、先回りして撃つ。ただ、想像以上に素早い一号には当たらず、銃弾は闇の彼方に消えた。
そのまま一号は遮蔽物に身を隠し、逆に射撃を返してくる。慌てて給油機の陰に隠れるが、右耳を掠る。
熱い血が流れるジンジンとした感覚。付けていた骨伝導通信機も落ちてしまった。
あぶねぇ。射撃線をカメラで捉えてなかったら、ドタマ撃ち抜かれてた。
「クソ野郎が」
ビッグバンドが大一番のソロ回しに入ろうとしている。佳境。
狩人たちの援護射撃も数が減っていってる。リーダー格を遅らせられるのはもう僅かな間だけだろう。
時間がない——残念だが、お前にソロの出番はないぞ、一号。
スマートレンズを操作、一号が映るカメラとリンク。居場所を確認。
奴は充電機越しに右手だけ出し、その手に持つライフルで俺が隠れている給油機を打ち続けている。
時間稼ぎのつもりらしいが、三下に構ってる暇はない。お前の行動は無意味だということを教えてやる。
右手の”Amor”を握り、カメラとリンク。銃身に走る赤い光条が輝きを増す。
> Target: Hostile [Obstructed]
> Calculation: Terminal Guidance Solution... FOUND.
> Fire Control: READY.
スマートリンクにより、銃そのものが俺の腕になる感覚。
俺は一号の如く右腕だけ給油機から出すと、”Amor”を一発だけ放った。
これで十分。同時に遮蔽物から飛び出し、建物へ走る。
反撃はない。
一号は”充電機の陰”で頭が破裂して死んでいるから。
”Amor”はただのSMGじゃない。PAW——対軍殲滅兵器。
ただの威力が高い銃じゃない。この銃はスマートリンクで持ち主と一体化し、ごく僅かだが専用弾は弾道補正が可能。
つまり、曲がるのだ。
曲げられるのは精々二メートル。物陰の背後にいる臆病者を撃ち抜くには十分すぎる補正。一号は曲がる銃弾でソロパートに入る前に退場させられたというわけだ。
だから専用弾は高い。俺の食費一日分。
リーダー格はもう建物の目の前に迫り、その目は入口を見据えてる。
他の参加者の助けはもうあてにできない。狩人の狙撃手は排除され、死んでいるのをカメラで確認した。
建物の奥にいるアリスは笑顔を浮かべたままだったが、どこか緊張しているようにも見える。
安心しろ、俺が来た。
左手の”喷发”をリーダー格に向けて二連射。
撃つ直前にこちらを認めた奴は、射線から逃れようと身を捩ったが、俺の左目は奴が”どう動くのかを知っている”。
「⋯⋯かてぇな」
頭を狙った一発は、奴が咄嗟に盾にしたライフルとスリング、負い紐にあたる。命を奪うことは叶わなかったが、銃を奴の手から弾き飛ばした。
もう一発は狙った胸部ではなく腹部に直撃した。驚異的な速度の体捌きだ。しかも平隊員と違って、致命傷には至っていない。
おそらく、超高分子量ポリエチレン繊維の積層装甲。衝撃を面で分散させる最新素材。距離が開くと、この拳銃では火力が通らないな。
それでも直撃だ。内臓がちぎれるくらいの痛みは感じているはず。
しかし、男はダメージなど一切ないかのように俺と向き合う。
左胸のタクティカルベストから大ぶりのナイフを取り出し、腰のホルスターから拳銃を抜き、構えた。CQC。近接戦闘の構え。
「⋯⋯なるほど。その左目、死神の犬か。噂より出来がいい」
ついにビッグバンドがソロ回しに入る。
主役は俺とお前、つまり二人でアドリブの掛け合い。
左目が、今日最高潮に輝くのを感じた。
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