Ch.2-1-7 私もオールイン
◇2327年10月16日(土) 00:01
「来たぞ! Tiānqǐだ!」
「撃てッ! 殺せ!」
男の断末魔がきっかけとなり、有象無象どもがTiānqǐの黒尽くめたちに気付いた。犬という名に反して統率を無視し、各自バラバラに発砲し始める。精鋭のTiānqǐたちも隠密行動を続けるわけにはいかず、否応なしにパーティが始まった。
開幕ベルは、華やかに切断の絶叫。参加者同士の挨拶は銃声。
静寂は一瞬にして粉砕され、ガスステーションの夜は戦場へと変わる。
黒麒麟に身を包んだ闇よりも黒い執行部隊は、事前情報通り無線通信をしているらしい。キャンキャンとよく吠える犬に対して、一切の声も聞こえない。ジャミングはまだだ。最初から妨害すると、罠だと勘繰られる。
恐れという言葉を知らず、まっすぐ突っ込んでくるクレイジードッグズたちを、Tiānqǐ部隊は赤子の手をひねるかのように片付けていく。正確無比な射撃。連携の取れたクロスファイア。何とか近づけた者も、ナイフで処理されるか、首を折られて排除されていた。戦力差は歴然。
彼らにとってこれは戦闘ではない。ただの”害虫駆除”。アリスが呼んだオーディションの参加者たちは、瞬く間に鉄屑と肉塊に変えられていく。
リサイクルできる分、生きているより有益になったじゃないか。スカベンジャーたちも大喜びだろう。
クレイジードッグズの粗悪な銃弾は黒麒麟の装甲に弾かれ、まともなダメージは一切与えられていない。流石最新鋭。
そんな中、バウンティー・ハンターたちはしたたかだった。駄犬に先陣を切らせ、相手方の情報を収集している。チラホラと既に逃げ出している判断の早いやつも見える。だからこそ今まで生き延びてきたのだろう。
まだまだ残っている参加者たち。それでも傍目から見ると、圧倒的な戦力差があることが分かる。このままだと五分も経たずに犬と狩人は全滅させられるだろう。
「チッ、予想以上に手強いな⋯⋯」
流石に学んだのか犬たちの特攻がなくなり、中距離戦へと戦況が変わる。多少落ち着いたおかげで、俺は余裕を持ってTiānqǐ部隊を観察することができた。
ガスステーションの右側を包囲する、九つの黒点が描く半円のちょうど中央。おそらくこいつがリーダーだろう。手にはアサルトライフル、腰のホルスターには拳銃、タクティカルベストの左胸には大ぶりのナイフ。
装備は標準的だが、なんとなくこいつは匂う。大体リーダーってのは一番視野が広い後ろに位置するもんだし、何より余裕が感じられる。
頭は先に潰すのが吉。それにそろそろ我慢ができなくなってきたし。俺はスコープの中央に男を据えた。
距離三百。銃の固定よし。風読みよし。カメラとリンク、弾道補正よし。
悪いな。邪魔するぜ。息を吐き切り、止める。あとはトリガーを絞るだけ——思わずスコープから目を外す。
引き金を絞り切る直前、ステーションを照らしていたライトが消えたのだ。その代わりステーションの中央に位置するボロボロの建物が、場違いに煌々と輝き始めた。まるで図ったかのように風が止む。
「冗談がすぎるぞ」
身体強化したおかげで三百メートル先でもよく見える。見たくはない。でも見ざるを得ない。この日一番の嫌な予感。
先程までの銃声が嘘のように静まり返り、全員が呆気にとられ、ステージの中央、建物の内部に目を向ける。
建物はそれ自体が眩しいのに、加えて投光器がスポットライトのように光を集める。その内部の放棄された店のカウンターに腰掛け、満面の笑みで両手を広げているのは赤い髪の女。
「Welcome to Wonderland!」
アリスだ。マニッシュな中折れハットに、ボディラインを強調するスーツ。その声はスピーカーで拡張され、聞き漏らすやつはいないだろう。右手には細長い指揮棒のようなもの、左手にはタブレット型デバイスを握り、彼女はパーティー会場のど真ん中にいた。
「は?」
俺は目を疑った。ナオミのクリニックにいるはずだろ? なんでここにいる? 嘘だろ。あいつ、一番危険な特等席にいやがる。
「アリス! お前、何やってんだ! 自殺する気か!?」
頭が混乱したまま、俺は通信機に向かって怒鳴った。返ってきたのは楽しげな、しかし芯の通った声。
『ジーク、私思うの。誘った男たちが血を流してるのに、私が安全なソファで紅茶を啜ってるなんて、フェアじゃないわ』
『お前は何を言っているんだ?』
『やばい橋を渡るときは、いつだって一緒よ。仲間が命をベットするなら、私もオールインしなきゃ嘘じゃない?』
頭を抱えた。出会ったときから狂ってると思ったが、それ以上だったようだ。
アリスが指を鳴らす。パチン、という乾いた音が戦場に広がる。同時にカメラに付属するスピーカーからドラム——フロアタムの軽快なリズムが響き渡った。
明らかに場違いなグルーヴ。ビッグバンドによるスウィングジャズが流れ始め、ブラスの攻撃的な咆哮、ウッドベースの腹に響く音が唸る。
スピーカーが古いのかちゃちいのか分からないが、若干ピッチが狂ってるのが気になる。それでも今のガスステーションは、狂騒的な音楽とアリスが支配していた。
皆が呆気に取られる中、俺とTiānqǐのリーダー格が動き出したのは、ほぼ同時。いや、相手のほうが少し早い。
視界の端で男が建物に向かって歩みを早めたのを捉える。奴が動いたのを見てから動きだした分、俺は少し遅れてた。”ロングボウ”を放り投げ、代わりの銃たちを引っ掴み、屋上から飛び降りる。舌打ち。
「馬鹿女⋯⋯ッ! 何がオールインだ、死んだら意味ねぇだろ!」
着地、疾走。心拍数が急激に上がる中、俺は夜を切り裂き、ガスステーションへと急いだ。
左手には”喷发”。右手には”Amor”。愛を握りしめた瞬間、銃と俺は一体化する。”Amor”はただの銃ではない。電脳化され、文字通り体と一体化する拡張武装。右目のスマートリンクにコネクション確立のメッセージが浮かぶ。
> Initiating Neural Link… Device: Amor (Gen.4 Custom)
> User Authentication: Zeke Dallas (ID: INFINITY) ...Sync Rate: 100%
> Limiter: Disengaged.
> Battle Mode: ACTIVATE.
俺と銃が連結される。俺は銃であり、愛をばらまく天使だ。
不思議と胸が高揚する。初めてと言っていい、”Amor”を使った戦い。アリスのサプライズに驚かされたものの、俺はパーティーの主役として遅れて参加することに興奮していた。もちろんそれと同じくらいは、焦っているが。
ステーションまではもうすぐ。
「どけ」
俺はビビって少し離れてたクレイジードッグズの頭を左手に握った銃のグリップで殴り飛ばした。雑魚に構ってる暇はない。犬と狩人が時間稼ぎをしているが、もうTiānqǐは建物のそばに迫ってる。
俺は左目の眼帯を脱ぎ捨て、狂ったジャムセッションの渦中へと飛び込んだ。
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