白い聖夜の逆さま密室_④
某チェーン喫茶店の窓から、真っ白な街を眺める。クリスマス限定のふらぺちーの(今日初めて知ったわけではない。断じて)など飲んで解放感でいっぱいだ。と言っても、まだ事件は解けていない。碧波も俺も、謎が解けるまで他人の家にずっと留まるなどというのは胃痛がするほど耐えられない性分なのである。
「…ごめん、やっぱりふざけた依頼だった」
合わない奴と関わるのは疲れる。風邪の前触れかストレスかわからない倦怠感が漂う中、口火を切った。嫌々でも喋らないと終わらない。
「雪密室に逆さま死体。良かったじゃない、結構興味持てる依頼だよ」
「依頼人たちが気にいらない」
「珍しいね。不満タラタラなの」
「そっちこそ。受け入れすぎじゃない?何か気になる?」
再び沈黙。顔を見ると、かたく目を瞑っていた。眉間には皺まで寄っている。いつもの減らず口はどうした?
「…碧波、風邪でもひいた?」
「いや。…楽しんでる奴って意外といるよね。理解し難い」
「滅多にいないよ」
「芹谷は?」
「例外だ。あいつは」
束の間浮かんだ薄笑いが、潮が引くように消えていく。真っ赤な苺味のドリンクを見つめる目が冷たい。
「あれは、私の事件だった」
「碧波」
「本当なら─」
「やめなさい」
「むぐ。あ、おいしい」
碧波の口にチーズケーキを突っ込む。お返しとばかりに突き出されたチョコケーキを頬張ると、碧波が焦り顔を浮かべた。
「…貰っちゃ駄目だった?」
「大紫兄、これがクリスマスケーキの代わりとか言わないよね」
「言わないよ」
気が抜けたところで、さっき撮った空き地の写真を出す。『誰が殺したか』ではなく『どうやって殺したか』。考えやすいと言えばそうなのかも知れない。
「まず、空き地のど真ん中に人を逆さまで突き刺す方法を考えよう。ベランダからの飛び降り意外で」
「死んでから雪の中に刺さったのか、雪に刺さったのが死因なのか、が鍵じゃない?駒田の死体をヘリから落としたとか、ドローンで運んだとか、雪の中に投げ入れたとか…死体なら色々できるよ」
「…突拍子もないけど否定できないな。足跡は残しちゃいけないし。でも相当目立つよ」
チーズケーキの上に、爪楊枝を一本突き刺してみる。造作もない簡単な動き。しかしこれが死体となれば、碧波の言ったやり方はかなり大掛かりな作業のはずだ。人目につく可能性が高い。それに…
「そんなことで済むなら高城も挑発して来ないよねぇ」
「俺もそう思う。ねぇ碧波?駒田の死因ってなんだと思う」
「いつ死んだかによるけど、雪に埋まったら窒息するんじゃないかな」
道の端へと固められた雪を見ながら頷く。俺たちにとっては楽しい雪でも、豪雪地帯に住む人々にはかなり厄介なもの。雪かきだって命懸けだ。屋根からの転落、雪に埋まった末の窒息死などは、毎年ニュースになっている。
「駒田の死体に外傷はなかった。雪に埋まって窒息死、あとあり得るのは毒殺。証拠不十分で事故になるような事件にしてるなら、窒息死が妥当だと思う。でも死因が雪に埋まったことだとしたら、潰さなきゃいけない疑問が一つ」
「駒田の死体には、『外傷がなかった』」
「それだ。雪の中で死亡したのに、どこにも凍傷の類は見られなかった」
「雪からは、駒田の脚が二本真っ直ぐ伸びていた。これらが意味することは」
「…駒田は別の場所で殺害され、死後硬直が進んだ状態で雪の中に運ばれた。さっきの『死んでから雪に刺さったのか、雪に刺さったのが死因なのか』って問題。答えは、『死んでから雪に刺さった』だ」
碧波が残りのケーキを頬張った。空になった皿を机の端に追いやる。…追加で何か頼まないとな。
「かなり簡単になったところで、もうひとつ脳味噌を追加しない?」




