白い聖夜の逆さま密室_③
駒田の死体は浴室に安置(と言えるのか)されていた。検死などという本格的なことはできないが、最低限の観察をする。硬直した真っ直ぐの脚についた雪は、中途半端に溶けて残っていた。警察もまだ触れていない、本物のあたらしい死体。何度見ても気分の良いものではない。
しばらくして、碧波は首を振りながら手袋をポケットに突っ込んだ。
「目立った外傷どころか、かすり傷一つない。状況が不自然なのに綺麗すぎる…これを事故にしたいの?大体」
浴室の反響を気にして、碧波が声を潜める。ドアの向こうに人の気配。監視のつもりだろうか。
「推理するまでもないよ。犯人あの四人しかいないじゃない。これが事故なわけないんだし、駒田が自分の意思で出て行ったんじゃないことも証言してしまってる。じゃあ他に誰が駒田を殺せるの?さっきのが自供みたいなもんでしょ。証拠はないけど」
「あの雪密室に余程の自信があるんだろうね」
その上で『事故にしろ』と依頼してきたのだ。謎が解けない、つまりは自分たちを犯人にするだけの材料を見つけられないのであれば事故だと言え。証言しろ。
それが依頼の本質だったのだ。
「本当に無実なら警察に通報すれば良いんだ。敢えて俺たちを呼んだのは、自分たちの作った謎が通用するかどうか試したかったんだろう。どうする、もうやめる?」
「もう少し。雪密室は興味深いよ」
そこまで言ったところで、碧波が浴室のドアを開けた。コップを手に引き攣った顔をする高城に対し、こちらは眉一つ動かさない。
「『犬神家の一族』知らないのに、盗み聞きのやり方は古いね。今時それする子いるんだ」
「あ、これは…その」
「話聞いてたなら早いな。そういうことで合ってるの?」
シラを切り通せば良いものを、大学生らしい浅はかさが出たようだ。高城はぎこちない笑みを浮かべると、大げさに腕を広げた。
「大正解。せいぜい解いてみてくださいよ」
「解けたら出頭するか?」
「そんなことより、ちゃんと報酬くれるよね?」
「そんなことって何よ碧波ッ」
「お餅つきの方が大事!」
「できるよ餅つき!お金あるから!」
「それ餅つき資金じゃなくて生活費でしょうがッ‼」
「俺のこと忘れてません?」
なんだよ、乗ってきたところなのに。まだ言い合い足りていないのだが、渋々と高城に向き直る。すっかりペースを乱された高城は口角をぴくぴくさせながら、自棄気味に頷いた。
「出頭するし報酬も払いますよ。お二人に解ければの話ですけどね」




