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DEAD-LOCK  作者: 西浪
畳を愛した死体

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33/75

畳を愛した死体_⑥

 実家に帰らなくて済むように、朝賀家に泊めて貰えたのはありがたかった。もちろん遠慮はした。しかし、大紫兄が譲らなかった。

 「泊まりなって!一応勝手も知ってるだろ?」

 「同じ敷地にいたら、いつでも事件について話し合えるじゃんかよ」

 極め付きは、

 「何泊するかわからないんだから。ホテルなんか使っちゃ経費がかさむでしょ。車中泊とか絶対駄目、凍る!夕飯エビフライだよ?みかんも好きなだけ食べていい!ほんと頼むから!」

 両手を合わせる、必死な顔が面白かった。そこまで言われちゃ断ることはできない。朝賀家は居心地の良い空間ではあった。他愛ない世間話も、朝賀家らしいふわふわ、ぽやぽやした空気も含めて。

 今の自分は、この空気に触れても良いのだろうか。

 「……東京に帰りたいや」

 やけに気が重い。何故だろう?それは推理ではどうにもならない。いや、多分水分が足りていない。あと睡眠も。…調子悪いな、これは。依頼に響くぞ。

 「碧波、タオル足りる?」

 大紫兄の声で我に返る。そうだ、お風呂場にいたんだっけ。

 「碧波ー?」

 「足りる、ありがとー」

 それだけ言って、湿ったふわふわのタオルに顔を押しつける。朝賀家は毛足の長いタオルがお気に入りらしい。見た目に反して、ぐしょっとした感触。結構気持ち悪い。反して湯船は、冷えた体にとって非常に心地よい。このまま沈んでしまいそうだ。

 「……帰りたい」

 帰って最初にすること?そんなの、睡眠に決まってる。



 「どう?何か思いついた?」

 頭を拭きながら、部屋に大紫兄が入ってくる。入浴後とは思えない、すっきりしない表情。彼もまた、何も思いついていないのだろう。曇った眼鏡を剥ぎ取り、眉をひそめてタオルで拭いている。何となくつられて、自分の眼鏡を袖で拭いた。

 「全然。考える気力もない」

 「…龍馬の畳泥棒説でいいでしょもう」

 「よくないよくない。絶対嫌、そんなふざけた事件」

 「そうだけど」

 「やっぱり、もう1回現場…に」

 突然、足元が大きく揺れる。大紫兄が目を見開いてこちらを見ている。地震かな?

 「…碧波!」



 体を包んでいる、柔らかい感覚。羽毛布団だ。天井がぼやけている。眼鏡は大紫兄が外してくれたらしい。

 「いつ振り?倒れたの」

 「会話に段階つけようよ。まず今何時?」

 「二十三時。二時間経ってる」

 自分の溜め息が部屋に響く。

 「半年。まぁ許容範囲でしょ」

 「二時間しか経ってないってば。半年も寝てたら干からびてないのが奇跡」

 「今のはいつ振りに倒れたって話」

 「会話に段階つけようよ。まだ寝ぼけてるだろ、そのまま寝てな」

 「寝るよ。後でね」

 反動をつけて体を起こす。鈍く痛む頭を振り、眼鏡をかけた。いくらか視界が冴える。脳も。部屋を見渡す。布団がないスペースには、かつての現場と同じように畳が敷かれている。

 …本当にそうか?

 「…畳、不自然な体勢、床の跡、京都」

 「ん…?」

 眠たそうな大紫兄とは逆に、私の頭はすっきりと冴え渡る。ぼんやりと靄がかかっていた脳内に、氷のように冷たい風が吹く。考えが浮かんでは繋がる。重なる。そうして一つの推理が形を成していく。

 やっぱり睡眠は大事だ。

 「こんな時間に悪いんだけどさ、車出していい?運転するから」

 「いいけど…どこまで?」

 「時間がないから、話は車の中で」

 きょとんとする大紫兄を横目にコートを着込み、車のキーを掴んだ。

 「証拠品を消されちゃ堪んないもん。場所言うから、最短ルート調べて」


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