10-6.ネットカフェ難民
マルイとの約束という新たな目標のために動き出したアズマヤとヒノエだったが、そのためにはいくつかの問題が存在していた。
ヴァイスベーゼが行動を起こすという当日、施設で広がる混乱の最中、マルイの母親を連れ出すという難易度の高さはもちろんのこと、それまでに逃げ出した先を用意しなければいけないことも、大きなハードルとなっていた。
現在、二人がそのための場所として、最も可能性が高いと考えているのが怪人組合であるが、その怪人組合も可能性だけの話で、実際に話をしたとしても、アズマヤ達を受け入れてくれるかは分からない。
それどころか、場合によっては怪人組合との接触自体が難しい可能性だってある。
怪人組合をヴァイスベーゼに類似した怪人の組織と考えているが、それも実際はどこかの誰かが悪戯で作り出しただけであり、実際の組織はないという可能性もゼロではない。
もちろん、その部分に関して、アズマヤは怪人組合の活動記録の中に見つけた名前から、一定の根拠を得ているが、それも確実な根拠とは言えない。
つまり、アズマヤとヒノエがいくらマルイを助け出し、平穏に暮らそうと思っていたとしても、今のままではそれが実現可能なのか、かなり怪しい状況にいた。
少なくとも、怪人組合との接触を果たさないと、他の可能性を検討する段階にも行けない。
そう思ったアズマヤはまず、怪人組合からの連絡が届いているか確認しようと思ったが、そこにも問題はあった。
アズマヤ達が怪人組合と連絡を取るためには、怪人組合のホームページを経由しなければいけない。
つまり、怪人組合と連絡を取りたければ、インターネットを使用するしかない。
しかし、現在のアズマヤとヒノエはスマホを所持していなかった。
それどころか、パソコンやタブレット端末など、あらゆる機械を持っていない旧時代的な生き方をしている最中だ。
当然のように怪人組合のホームページを確認する手段などなく、それを行うにはネット環境の整っている場所に足を運ぶ必要があった。
アズマヤとヒノエが出入りできる場所で、ネット環境が整っているとなると、それは限られてくる。
該当する場所を考える中で、二人が真っ先に思いついたのは、ネットカフェだった。
ネットカフェなら既に使用したことがあり、その条件に該当することは確認済みだ。今のアズマヤ達に使える場所としては最適と言えるだろう。
しかし、既に使用しているということは、超人の目が及んでいる可能性があるということだ。
超人が滞在している可能性はもちろんのこと、超人から店員に話が及んでいる可能性もあり、安全に使えるかと考えたら、それは怪しいと思われた。
とはいえ、他に合法的に使える手段は思いつかず、知り合いの家を訪ねるという方法よりはネットカフェの方が安全そうではある。
今は一刻も早く事態を進める必要がある状況だ。他に手段があるとしても、その手段が思いつくまで考えている時間はない。
これが思いつく手段として、最も実行できる可能性が高いのなら、これに頼るしかないと、最終的にアズマヤとヒノエは心を決め、ネットカフェに足を運ぶことにした。
ただし、これまでの行動範囲から少し外れたネットカフェを選び、できるだけの変装を行うという努力はした。
それでも、超人に見つかることがあるとすれば、それはアズマヤ達の運があまりに悪いか、超人があまりに上手だったかのどちらかだ。
どちらにしても、それならアズマヤ達にはどうしようもないと思えるので、仕方ないと諦めることにした。
その覚悟が功を奏したのか、幸いにも、アズマヤとヒノエは店員に気づかれることも、怪しまれることもなく、部屋に入ることに成功していた。
無事に第一段階は突破できたことに安堵しながら、アズマヤは個室にあるパソコンで、怪人組合のホームページを確認する。
次の問題としては、怪人組合から連絡が返っているかというところだ。
もしも怪人組合から何の連絡がないとすれば、催促するような形にはなってしまうが、追加で連絡を取りたいという意思を示さなければいけないかもしれない。
それが良い結果を齎すのか、悪い結果となってしまうのかは半々というところだが、今のアズマヤ達に取れる手段は他になかった。
向こうから連絡が来ていることを祈りながら、アズマヤとヒノエは怪人組合のホームページを確認していく。
連絡を送った場合、どこでその返答が見られるのか、ホームページをざっと眺めただけでは分からず、二人は少し苦戦することとなったが、しばらく探していたら、無事にその場所も見つかり、二人はようやく息を呑む。
そして、そこに怪人組合からの返答があった。
「よ、よし……! 来てますよ、ヒノエさん……!」
怪人組合との接触、その第一歩を無事に踏み出せたことにアズマヤとヒノエは安堵し、互いに笑い合いながら息をつく。
少しずつではあるが、細い糸が繋がってきたと期待に胸を膨らませながら、アズマヤは届いた返信に目を落とした。
「えっと……こちらの話はある程度、信じてくれたみたいですね……。もしかしたら、騒ぎをある程度は把握していたのかもしれません。それで、逢ってくれる気にはなっているみたいです」
「ということは、怪人組合と接触できるということですか?」
「一応は、そうみたいです」
まだ諸々の説明を行った上での交渉という段階を残してはいるが、何とかその段階まで持ち込むことはできそうだと分かり、ヒノエは漏れ出す冷気の温度を上げていた。
だが、アズマヤは少し違っていた。
返信には、ヒノエの話を理解した上で逢いたいという希望が書かれていたが、そのための手段がやけに複雑だった。
恐らく、こちらが愉快犯である可能性や超人である可能性を考慮し、しっかりと確認を取りたいのだろう。
そこには特定の場所と特定のアイテム、それに仕草まで指定されており、それらを行った上で、向こうが問題ないと判断すれば、ようやく接触できるようだった。
まだ怪人組合との対面が確定はしていないことに加え、そこに記された場所に向かわなければいけないという事実に、アズマヤは若干の不安を覚える。
特定の行動を起こさなければいけないということは、街中を移動しなければいけないということであり、移動が増えるということは、超人の目に見つかりやすくなるということを意味している。
万が一という可能性もあるが、他に手段がないことも事実であり、アズマヤは本当に大丈夫なのかと悩み始めていた。
そこでヒノエがそのことに気づいたのか、アズマヤの手袋に覆われた手を優しく包み込んでくる。
「大丈夫です。二人なら、きっと。だから、行きましょう」
まっすぐとした目でヒノエに見つめられ、そう力強く言われたことで、それまで不安を感じていたアズマヤの心は一気に解けたようだった。
確かに二人なら大丈夫だろう。そう思えたことで、アズマヤはヒノエの言葉に頷いて、そこに記された場所やアイテム、仕草をメモする。
その内容を確認しながら、二人はいくつかの場所を、いくつかの物を買いながら、いくつかのポーズを取って巡ることとなる。
そうして、ある程度の場所を回り、そういえば時間という記述がなかったのだが、いつ回ってもいいものだったのか、と当然の疑問をようやく懐いたところで、アズマヤとヒノエの背後から声が聞こえてきた。
「すみません、よろしいですか?」
その声が自分達のすぐ後ろから聞こえたことで、二人はすぐに振り返り、そこに立っている人物を見やる。
「初めまして、怪人ですか?」
そこに立っていた男は二人と目が合うと、開口一番そう言った。




