第4話 茨だらけの舞踏会
無意識にレオンハルトの手に手を重ねたティアナが、はっと意識を取り戻した時には、王妃の前までエスコートされていた。
「母上」
王妃カロリーネに挨拶していた人が下がると、すかさずレオンハルトは声をかけ、しっかりとティアナの手を握り締め前に進みでる。
「母上に紹介したい方がいます」
レオンハルトの声に振り返ったカロリーネは、レオンハルトの横に少女がいるのを見てとると、一瞬片眉を上げ、それに気取られないように優雅な微笑みを浮かべて口元を扇で隠す。
「まあまあ、あなたが私に紹介したい方ですか? どなたかしら?」
そう言ったカロリーネの瞳は笑いながらも、レオンハルトが初めて紹介しようとしている女性、しかも手を繋いでいるのを目ざとく見つけ、ティアナを上から下まで眺めまわす。
凛とした眼差し、服装は絹ではないが淡い若草色を基調とした少女らしい清楚な姿で、髪や服の所々に飾られた生花の薔薇に負けないほど美しい容姿の少女に――カロリーネは扇で隠した口元を吊り上げる。
※
ティアナは、レオンハルトの“母上”という言葉で目の前にいる人物がドルデスハンテ国の王妃だと悟り、それまでの放心気味だった瞳を瞬かせ、すっと居住まいを正して、目の前の王妃を見つめた。
「こちらは、イーザ国第一王女のティアナ様」
レオンハルトに紹介され、ドレスの裾を掴んで腰を深く折り曲げ最上級の挨拶をする。
「王妃様におかれましては、ご機嫌麗しく存じ上げます。お初にお目にかかります、ティアナ・ローゼマリー・イーザと申します」
「イーザ……国の、ティアナ姫ね」
カロリーネはティアナが一国の姫と聞き、納得するように頷く。
「ティアナ様とは視察中のチェの街で知り合い、そこで起きた疫病の特効薬を作ったのはティアナ様なのですよ。聞けばエリク王子の妹君で、舞踏会に出席するためにビュ=レメンに向かう途中と言うではありませんか、ちょうど私も帰城する途中だったので道中一緒に来たのです。エリク王子も博学で優れた人物ですが、それに負けないくらいティアナ様も素晴らしく薬学に優れた方で、私の自慢の――友人です」
レオンハルトはそう言ってティアナを紹介した。
「まあ、あなたにこんな可愛らしいご友人がいらしたとは、母として嬉しいわ。ティアナ様、これからもレオンハルトと仲良くして頂けるかしら?」
そう言ってカロリーネに手を掴まれたティアナは、心とは裏腹ににこりと可愛らしい笑みを浮かべる。
「はい」
昨夜、夕食を食べ終え部屋で休んでいたティアナの元に、アウトゥルがレオンハルトの代理で挨拶に来た。
レオンハルトの魔法を解いたことに対して深々と頭を下げお礼を言われた後、レオンハルトが魔法をかけられて猫にされていたこと、エル=レオンハルトだということを口外しないことを約束させられ、レオンハルトが猫にされていた間は秘密裏に国内視察に出ていたということにするとは聞かされていたが……
私とレオンハルト王子が、友人!? なんておこがましい設定なのかしら。私にとって王子は憧れの存在で、遠い存在で――
まさか、視察の途中で自分とレオンハルト王子が知り合い、友人になったという設定になっているとは……全く聞かされていなかったティアナの思考はいっぱいいっぱいで、胸はドクドクと鼓動を早く打ちつけていた。
だけど、ここで違うと言ったり、顔に表情が出てしまうと、レオンハルト王子に迷惑をかけることになってしまう。
その一心で、ティアナは一生懸命笑顔で取り繕ったのだった。
※
友人――その関係に偽りはない。
ただレオンハルトとしてはティアナに対して友人以上の感情を持っていて、それを本人に伝えることができないとしても――王妃にはちゃんと紹介しておきたかったのだ。
例え友人としてでも、初めて自分が女性を紹介するのだ。王妃はおそらく、その含むところを察してくれるだろうと思った――のだが、レオンハルトは王妃のことを甘く考えていた。わざわざ“花嫁選びの舞踏会”を開くほど、王妃にとってレオンハルトの結婚が切実な願いだとは知らずに。
王妃や周りには、友人と言いつつも“彼女”になりそうな人物がいるとアピールし、ティアナには、エル――旅の仲間というポジションから、“友人”という関係を求めたのだ。
※
さきほどまで華やかな音色を響かせた楽団は、ホール内にゆったりとした雰囲気の曲を奏で出す。その曲に合わせて、一組また一組と、男女が手を取り合いホールの中央で踊りはじめる。
王子の花嫁探しの舞踏会ではあるが、王子に見染められなくても、舞踏会には優秀な貴族や隣国の騎士なども集まっており、少女達にとっても大事な舞踏会の意味を持っていた。
王妃への挨拶を済ませたティアナは、レオンハルトに手を引かれ豪華な料理が並べられた場所に連れて来られ、食事を一緒に取っている。
横に立って、色々と取り分けてくれるレオンハルトに見とれてしまうティアナ。
人間の姿の王子と対面したのはほんの数時間だけで、今自分の横にいることが信じられなくて、緊張して、食事も上手く通らなかった。
あまり食事が進んでいないティアナの様子に気づいたレオンハルトは、ティアナの前にすっと手を差し出す。
「ティアナ様、私と一曲、踊って頂けますでしょうか」
胸に手を当て、腰を曲げ上目づかいにティアナを見上げるレオンハルトの瞳はシャンデリアの光を反射し、眩しいほど青々と輝いている。
「……はい」
僅かに頬を染め、じっとレオンハルトの瞳を見つめてティアナはレオンハルトの手を取った。
ホールの中央に出て踊りだした二人はあまりに美しく、周囲の人々はその様子に感嘆の囁きをこぼす。
ティアナは夢にまで見た舞踏会で憧れのレオンハルトと一緒に踊ることが出来て、ふわりと頬を綻ばせ――
レオンハルトはバノーファの街で一緒に踊った夜のことを思い出して、胸に抱えきれないほどの淡い感情を抱いて――
※
そんな二人の様子を一段高くなった壇上に用意された椅子に腰かけて見ていたカロリーネは、自分に挨拶に来た貴族にではなく。
「まるで薔薇の妖精のようね」
ただ独り言のように呟き、口元を隠した扇の裏でにんまりと微笑んだ。
久しぶりの更新です。
色々悩むことがあり……
更新が遅くなってしまい、申し訳ないです<m(__)m>




