7話 超常現象研究会1
超常現象研究会。略して、超研。
オカルトマニアの常盤凪紗が立ち上げたサークルである。
活動場所は、科学準備室の一角。
決して広いとは言えないその部屋には、凪紗がどこからともなく集めてきたオカルトグッズや書籍、新聞の切り抜き、出所不明の怪しげな資料などが所狭しと詰め込まれていた。
これまでは凪紗がたった一人で活動していたため、この程度の広さでも何の問題もなかった。
――それが昨日、いきなり四人に増えた。
もっとも、記念すべき活動初日から清志はバイトで欠席。
というわけで、この日の参加者は暁人、凪紗、千景の三人だった。
暁人はこれから始まるであろう面倒事を想像し、重い気持ちのまま科学準備室の扉を開ける。
しかし――。
その先に広がっていた光景は、暁人の予想を大きく裏切るものだった。
「ねえねえ、千景ちゃん! これ見て!」
凪紗が机の上に一枚の資料を広げている。
「三か月前にアメリカのジョージア州で発見されてニュースになった、この隕石跡! これ、自然にできたにしては不自然だと思わない?」
「そうね」
千景は写真を覗き込み、少し考えるように顎に指を添えた。
「これはきっとインテクラル効果によるものね」
インテクラル効果?
「つまり、ここで誰かが呪術か魔術を使ったのよ。その影響でワーインフィールドが発生して、局所的なパラドキシスが起きたんだと思う」
何を言っているんだ、こいつは。
暁人にはさっぱり分からない。
「そうそう! やっぱり千景ちゃんもそう思うよね!」
――分かるのかよ。
「ってことは、この辺りには超能力者か魔法使いがいるのかなぁ。会ってみたいなー!」
「あんた、会ってどうするのよ。いい人とは限らないでしょ」
「でも見てみたいんだよー。それに、そんな力が私にもあったらなーって妄想するだけでも楽しいじゃん!」
「あなたのことだから、空を飛んで夜景を見てみたいとか考えてるんでしょ」
「すごーい! なんで分かるの!?」
「顔に書いてあるから」
「うそっ!?」
「うそ」
「もう!」
凪紗が頬を膨らませる。
千景が小さく笑った。
「…………」
暁人は入り口に立ったまま、二人を眺めていた。
正直、何を話しているのかはまったく理解できない。
だが、それ以上に理解できないことがある。
――なんでこいつら、こんなに仲良くなってるんだ?
昨日の千景の態度を考えれば、もっと険悪な空気になっているものだとばかり思っていた。
凪紗を睨みつけ、同じ空間にいることすら拒絶する。
そんな態度だったはずだ。
それが今はどうだ。
まるで以前から何度もこんなやり取りをしてきたかのように、自然に会話をしている。
「あ! 暁人くん!」
凪紗が暁人に気づき、嬉しそうに手を振る。
「先生。来たのね」
千景は腕を組んだまま、こちらを見る。
「久遠さん、だったか。お前、昨日あんな態度だったのに、なんで――」
「千景よ」
「……は?」
言葉を遮られた。
「先生に、私を『千景』と呼ぶ以外の選択肢は用意されてないの」
「は、はあ……」
相変わらず意味が分からない。
「じゃあ……千景」
「うん」
満足そうに頷く。
「お前、凪紗のこと嫌ってたんじゃないのか?」
暁人は一切言葉を包まず、そのまま聞いた。
二日目にして分かった。
こいつに気を遣って遠回しな聞き方をしても、たぶん意味がない。
「嫌ってないわ」
千景もまた、一切言葉を包まなかった。
「私は凪紗のことを嫌いだなんて、一度も言ってないもの」
「じゃあ昨日の態度はなんだったんだよ」
「先生が凪紗と仲いいのが嫌なの」
「お前……」
また、とんでもないことを真顔で言ってきた。
言葉だけを拾えば、嫉妬。
あるいは独占欲。
だが――違う。
まだ二度しか会っていない。
それでも暁人には、なぜか確信があった。
千景が自分に向けている感情は、そんな分かりやすいものではない。
「ええー? 私と暁人くん、仲良くしちゃ駄目なの? 千景ちゃん」
凪紗が不満そうな声を上げながら、千景の二の腕をむにっと掴んだ。
――そこ、普通は服を掴むんじゃないのか。
こいつもこいつで距離感がおかしい。
「そうよ。私は凪紗と先生が仲いいのが嫌なの。あと、肉つままないで。気にしてるんだから」
「えー」
「えー、じゃない」
ぺしっ、と千景が凪紗の手を軽く叩き落とす。
そして――。
「……こっちならいいから」
自分の制服の袖を摘まんで、凪紗の方へ差し出した。
「うん。じゃあ、こっち掴んでるね」
「そうして」
凪紗は素直に千景の袖を掴む。
「…………」
なんなんだ、こいつら。
昨日まで初対面だったはずだろ。
いや、それよりも――。
「なあ、千景」
「なに?」
「なんで俺と凪紗が仲良くしたら駄目なんだ?」
千景の表情から、わずかに笑みが消えた。
「嫉妬って言われた方が、まだ納得できる。でも違うんだろ?」
「…………」
「お前、俺と凪紗を引き離そうとしてるくせに、凪紗本人とは普通に仲良くしてる。昨日はあれだけ睨んでたのに、今日は一緒に笑ってる」
暁人は千景を見る。
「なのに、俺が凪紗と一緒にいることだけは嫌がる」
「…………」
「意味分かんねえよ」
答えはない。




