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甘い死をあなたに  作者: れさ


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5話 放課後1

「来てくれたのね、先生……って、ん?」


 翌日の放課後。


 暁人は千景に指定された時間に、人気のない空き教室を訪れていた。


 ――凪紗と一緒に。


 暁人の姿を見て明るくなった千景の表情が、その隣に立つ少女を認めた瞬間、露骨に強張る。


「……常盤凪紗」


 ぎりっ、と。


 こちらにまで音が聞こえてきそうなほど、千景が強く唇を噛んだ。


「あ、あの! あなたが久遠千景さん?」


 その反応に怯みながらも、凪紗が一歩前へ出る。


「ごめんなさい! 暁人くんは悪くないの。私がどうしても久遠さんと話してみたいって、無理言って連れてきてもらったの」


 ぺこり、と凪紗が頭を下げる。


「…………はぁ」


 千景はこれ見よがしに大きなため息をついた。


「あなたの言いたいことは分かるわ」


「え?」


「超研に入ってほしいっていうんでしょ」


 千景がぎろりと凪紗を睨む。


「う、うん。えへへ……そうなの。でも、久遠さんが嫌なら無理には――」


「いいわよ」


「え?」


 あまりの即答に、さすがの凪紗も面食らったようだった。


「入ってあげる」


「ほ、本当!?」


 ぱっと凪紗の顔が明るくなる。


 対照的に、千景の表情は少しも和らがない。


「ええ。だから――」


 千景は教室の扉を指差した。


「もういいでしょ。ここから出ていきなさい」


「…………え?」


「先生と二人で話があるの」


 有無を言わせぬ口調だった。


 凪紗は困ったように暁人を見る。


「……俺を見るなよ」


「だって……」


「話が早くてよかったな。これで超研のメンバーも二人になったんだし」


 暁人は凪紗をなだめるように言った。


「久遠は俺と二人で何か大事な話があるらしい。また明日な」


「……うん」


 凪紗はもう一度、千景を見る。


 千景は相変わらず凪紗を睨んでいた。


 まるで――ここにいること自体を拒絶するように。


「……分かった」


 凪紗は少し寂しそうに笑った。


「じゃあ、またね。久遠さん」


「…………」


「これからよろしくね」


 千景は答えなかった。


 凪紗はそれ以上何も言わず、教室を出ていく。


 扉が閉まる。


 足音が遠ざかっていくのを待ってから――千景は深く息を吐いた。


 それは苛立ちというより、張り詰めていたものがようやく緩んだような息に聞こえた。


「……なにがあったのかは知らないけどさ」


「え?」


「同じ超研のメンバーになるんだったら、もう少し柔らかい態度でもいいんじゃないか?」


 優しく言ったつもりだった。


 だが、自分で口にしてから暁人は少し驚いた。


 どうやら自分で思っていた以上に、千景の凪紗に対する態度が気に障っていたらしい。


「そ、それは、その……」


 先ほどまであれだけ凪紗を睨みつけていたくせに、今度は千景がしどろもどろになる。


 ――いったい何なんだ、この女は。


 明るくなったと思えば、怒る。


 怒ったと思えば、急に落ち込む。


 初対面の人間に平然と顔を近づけてくるくせに、今は俺の一言に露骨に狼狽えている。


 距離感も感情も滅茶苦茶だ。


 情緒不安定にもほどがある。


 その掴みどころのなさに、暁人の苛立ちはますます募っていった。


「それで?」


 少し強い口調になった。


「俺をここに呼んだ理由はなんだ?」


「……先生に聞きたいことがあるの」


 すると千景は、ころりと機嫌が直ったかのように顔を上げた。


「先生は、自分に特別な力があることを知ってる?」


「……は?」


「今までに、先生の周りで何か不思議なことが起きたりしなかった?」


「何言って――」


「先生に恋人はいるの?」


「ちょっと待て」


 矢継ぎ早に質問を浴びせられ、暁人は思わず片手を上げた。


 なんだこれは。


 質問の脈絡がまるでない。


 特別な力だの、不思議な出来事だの、恋人だの。


 まるで怪しい宗教か何かの勧誘を受けているようで、気味が悪かった。


「さっきから何を言ってるのか、さっぱり分からない。それに――」


 暁人は千景を指差す。


「なんで俺のことを『先生』って呼ぶんだ?」


「…………」


「そもそもこれは何なんだ? 何かのドッキリか?」


 暁人は思わず教室を見渡した。


 隠しカメラでも仕掛けられているんじゃないか。


 ロッカー。教卓。窓際。


 それらしいものを探して視線を巡らせる。


 だが――。


「…………」


 千景は答えない。


 ただ、じっと暁人を見ていた。


「……なんだよ」


 その視線が妙に気になった。


 顔を見る。


 手を見る。


 声を聞く。


 質問に対する反応を確かめる。


 まるで――。


 何かを確かめるようだった。

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