14話 出立
午前七時○○分
あれから一夜が明け、板で塞がれた窓の隙間から朝日がもれ薄暗い部屋を明るく照らす。寝不足のせいかその光がよりいっそう眩しく感じロギアは思わず瞼を閉じる。
「俺は馬鹿か……」
そう自分を叱咤するか様に呟き、溜息をつきながら頭を掻いた。
昨日、アリアとの話を中途半端な所で切ったせいか、安心する事が出来ず中々眠りにつく事が出来ないでいた。そして結局夜遅くまで起きており、現在数時間の睡眠しか取れずにいる。その為度々睡魔が襲って来ており、油断すると意識が飛びそうになる。
“アリアが起きて来る前に浴槽に溜めてある水でも浴びて眠気を飛ばした方が良いかもしれないな”
そんな事を考えつつも棚の奥から賞味期限切れのコーヒーを取り出し、お湯を沸かして朝の目覚ましにコーヒーを飲んでいた。
「こんなのでも泣く程なのか……」
手元のコーヒーへと視線を落とす。賞味期限から長期間時間が経過していた為、肝心と言える香りは既にとんでおり味もイマイチだ。
椅子から立ち上がると眠気覚ましのため両手を上げて大きく伸びをし少しばかりのストレッチをした。
「ふわぁ……」
ついつい出てしまった大きな欠伸を噛み殺し、瞳に滲んだ涙を指の背で拭っていると二階から足音が聞こえ、寝起きが悪かったのか気分が優れない表情のアリアが降りて来るのが視界に入る。
若干どんよりとした表情を除けば、朝日が少女の雪の様な白い肌を照らし、空気中に漂う埃が光に反射してキラキラと輝いているその光景が幻想的な物に見え、思わず息を呑みつい見とれてしまう。
「……おはよう」
アリアは自分を見るロギアに不思議そうに首を傾げながら声をかけた。
「あ、ああ、おはよう……」
呆然としている時に声をかけられ、咄嗟に返事を返した。ただそれ以上会話は続く事は無く二人の間に音が一切途切れる。
アリアはどうしたら良いか分からずリビング迄来るとその場で立ち止まり、壁にもたれる所か椅子にも腰をかける事もせずただ虚ろな瞳でこちらを見ていた。
「ね、ねぇ……昨日の話って……」
ロギアはチラリとアリアを見る。
「ああ、取り敢えずはその予定だ」
「……そう」「……」
沈黙に耐えかねたのかアリアは顔を反らし、昨日よく見れなかった部屋中をぐるぐると見回し始めた。ロギアが何も言わずそのまま見ていると、アリアは最初こそジッと立ち止まっていたものの「ご自由に」ロギアのその一言を聞くと、棚の上に手を乗せ滑らせてみたり、壁に飾られている壊れたアンティーク時計をいじってみたりと、昨日殺されかけたばかりなのに、アリアは全く警戒心を持っていないかの様に。それどころか少し気を許してさえいる様にさえ見える。
「ど、どうか、した?」
声をかけられロギアはアリアを凝視していた事に気付き視線を逸らす。
「いや、別に何も……ただな、何故警戒しない?」
ロギアの言葉にアリアは立ち止まりこちらを振り向く事等せず淡々と口を動かした。
「今更警戒した所で、私じゃあ……何も出来ないから……」
「それもそうだな……」
返って来たのは淡々とした全く感情の無い返事。この先どうなるか、と言うのを諦めているかの様にも聞こえた。ロギアは手元の腕時計を眺めた。
アタッシュケースがまだ残っているのかさえ定かでは無いが早く行動に移っていく事には越した事は無い。時間もいい感じに経ち、そろそろ感染者達と簡単に出くわすと言う様な事態にはなら無さそうだ。
「グゥゥゥ~」
突然低く唸る様な音が上がり視線を上げると、その音の発信源は何事も無かった様に室内の物を観察してはいるがお腹を押さえ、耳が赤くなっている。
その音でロギアも朝食を摂っていなかった事に気付き、取り敢えず保管してあった豆の缶詰を取り出しアリアを誘い朝食を摂る事にした。
「お前も食べた方が良い、少なくとも昨日からは何も食べてないだろ?」
豆の缶詰を二人分用意し、未だに部屋中の家具等の観察に没頭しているアリアに声をかけた。
「食欲は……無さそうに見えるが、腹の中には入れておうた方がいい」
「……うん」
相変わらず小さな声で返事が返ってくる。缶詰が用意されているロギアの向かい側の椅子に腰を下ろし、目の前の缶詰を一目見てから不思議そうな顔をする。
「これは……何?」
机の上にはラベルがボロボロに剥がれた大き目の缶詰が置かれていた。
「? 缶詰だが」
「……」
「豆の缶詰だ、味は保証出来ないが腹持ちが良い」
それだけ言うとロギアは缶詰を食べ始めた。
豆の缶詰は日本のあんこを甘くせず塩味にした食べ物でロギアは何度も食べているせいか殆ど飽きてしまった味だった。
そんなロギアの反応とは違いアリアは躊躇しながらも豆を口に運んでいく。口の中に入れた途端、顔をしかめた。が中々食糧が手に入らない状況だと理解したのかしぶしぶと食べ始めた。
軽い朝食を摂るとロギアは直ぐに外出の支度を始めた。
「……アタッシュケースを回収して私の事……分かったら、どうするの?」
朝食の間全く喋らず気まずい空気が続いていたが、アリアは支度するロギアを見て言う。
「昨日言った通りだ。アンタが害の無い奴ならコロニーに連れて行く。そこなら防衛戦力もあるし一応は安全だ、それ以降は自分で考えろ」
ロギアは確信を持ってそう言った。
「……私、コロニーの事……知らない」
そう言ったアリアの顔はあまり安心した様に見えなかった。
「そうか」 “自分は冷たい人間だろうか?” ロギアはふとそう思った。支度を終え、椅子に座る少女へと視線を向ける。
「そろそろ行こうか、墜落を知った奴等がアタッシュケースを持って行ったら面倒だ」
支度したバックを背負いながらアリアを見る。
「うん……」
小さく頷くと外へと向かうロギアの後を追った。
この度は第14話を読んで下さりありがとうございました。
☆マークから評価・お気に入り登録、感想いただけると励みになるので宜しくお願い致します。




