第9話 【衝撃】エポールマン、「肩の角度」だと思ってる奴、全員やり直し。
「先生、エポールマンって、肩を斜めにすることですよね?」
若い奴に聞かれた。
「よく見るじゃないですか、あの肩のライン」って。
俺、その時思わず笑った。
「それ、エポールマンの『結果』を『原因』と間違えてるぞ。」
きょとんとしてた。
でもな、これ、本当に多い間違いなんだ。
---
ある日、見た「衝撃のエポールマン」
今からもうずいぶん前になる。
とある発表会で、一生懸命エポールマンをやろうとしてる子を見た時の話だ。
その子、肩をものすごく斜めにしてた。
首を傾げて。
顔は客席の方に向けて。
見た目は「それっぽい」。
でもな、見てて気持ち悪かった。
だって、身体がツイストしてなかったから。
肩だけ斜め。
胸は正面。
腰は正面。
足は正面。
つまり、上半身だけ無理に捻ってただけなんだ。
終わった後、その子に聞いてみた。
「それ、どこで教わったの?」
「先生が『肩を斜めにしなさい』って。」
その瞬間、その先生のレベルが理解できたよ。
---
エポールマンを日本語に訳してみろ
まずは基本から行くぞ。
エポールマン(épaulement)
フランス語で「肩」が語源。
バレエ用語で「上半身を斜めに向けること」。
多くの人は「肩の角度」だと思ってる。
でもな、それ、間違いなんだ。
エポールマンは「肩の角度」じゃない。
「胸と背中と腰のツイスト」なんだ。
つまり、肩だけを斜めにするんじゃない。
身体全体で「ねじれ」を作るんだ。
この「ねじれ」が、
ワガノワの表現の源泉なんだよ。
---
ワガノワ式エポールマン、3段階の「隠れた構造」
よし、じゃあ教える。
ワガノワで叩き込まれる、
エポールマンの「本当の構造」だ。
これを理解せずに肩だけ斜めにしても、
ただの「歪んだ人形」にしかならない。
第1段階:「骨盤」は正面
まず、大前提。
骨盤は正面を向いたまま。
ここを間違える奴が多い。
「身体を斜めにする=骨盤も斜め」と思ってる。
違うんだよ。
エポールマンで動かすのは「胸から上」。
骨盤は基本、正面を向いたまま。
なんでか?
骨盤が動くと、軸がぶれる。
軸がぶれると、回転もジャンプもできない。
骨盤は「土台」。
土台は動かすな。
第2段階:「胸」を斜めに
骨盤が正面のまま、
次に胸を斜めに向ける。
ここで重要なのは「胸」って言葉だ。
「肩」じゃない。「胸」なんだ。
胸を斜めに向けるとどうなる?
自然に肩も斜めになる。
肩甲骨の位置も変わる。
「肩を斜めにしよう」とするから、
肩だけが先に行って、胸が置き去りになるんだ。
胸が先行しろ。
肩はそれについてこい。
第3段階:「頭」は胸と逆
ここが一番繊細で、一番大事。
胸が斜めを向いたら、
頭はその逆方向を向く。
具体的に言うと、
・胸が右斜めなら、頭は左を向く
・胸が左斜めなら、頭は右を向く
これがワガノワの「古典的なエポールマン」だ。
なんで逆なのか?
視線と胸の向きに「緊張感」を持たせるためだ。
同じ方向を向くと、のびのびした感じになる。
逆方向を向くと、ねじれた緊張感が出る。
この「緊張感」が、
ワガノワのエポールマンの特徴なんだ。
---
ある日のレッスン、伝説の一言
俺がキーロフで若手だった頃、
ある老師にエポールマンを教わった時の話だ。
俺、当時は「肩の角度」ばかり気にしてた。
鏡を見て、肩のラインを確認して。
「よし、これで斜めになってる」って。
老師、それを見て、こう言った。
「お前、顔だけ泥棒してるぞ。」
意味がわからなくて、聞き返した。
「いいか。肩の角度は『結果』だ。
胸が向きを変えた『結果』として肩は斜めになる。
胸も動かさずに肩だけ斜めにするのは、
顔だけ盗んで、身体は置き去りにする泥棒と同じだ。」
その時、ハッとした。
エポールマンは「部分」じゃない。
「全身」なんだ。
---
「エポールマン」と「方向」の関係
ここで一つ、重要な区別を教える。
バレエには「アン・ファス(正面)」と
「エピュルテ(斜め)」と
「プロフィール(横)」がある。
多くの人は「エポールマン=エピュルテ」と思ってる。
つまり「斜めを向くこと」だと。
でもな、ワガノワでは違う。
エポールマンは「斜めを向くこと」じゃない。
「どうやって斜めを向くか」なんだ。
同じ斜めを向いていても、
・胸から行くのか
・肩から行くのか
・頭はどこを向くのか
この「方法」によって、
同じ「方向」でも全然違う表現になる。
ワガノワが厳密なのは、
この「方法」を教えるからなんだ。
---
よくある間違い、3つ
ここでよくある間違いを教えてやる。
自分に当てはまるか、チェックしろ。
間違い1:「肩だけ斜め」
肩だけを先に動かして、胸は正面のまま。
結果、首がねじれて、呼吸が浅くなる。
直すには、肩より先に「胸」を動かせ。
間違い2:「骨盤まで斜め」
骨盤まで一緒に動かしてしまう。
結果、軸がぶれて、回転やジャンプが不安定になる。
直すには、骨盤は「正面」と意識しろ。
間違い3:「頭を同じ方向に」
胸の向きと同じ方向に頭を向ける。
結果、緊張感がなくなり、ぼやけた印象になる。
直すには、頭は「逆方向」と覚えろ。
---
子どもに教える時、どうするか
ここで実践的な話をしよう。
子どもにエポールマンを教える時、どうするか。
まず、「肩」という言葉を使うな。
子どもは「肩を斜めにすること」だと誤解する。
代わりに、こう言え。
「おへそを斜めに向けてみよう」
「胸でお辞儀する相手を変えてみよう」
「頭だけ反対を見てごらん」
「おへそ」は子どもにわかりやすい。
おへそが向いてる方向=胸の向き。
これなら「肩だけ」の間違いを防げる。
もう一つ、効果的な練習がある。
「バーを持って、上半身だけツイスト」
バーを持っていれば、骨盤は動かない。
胸だけを動かす感覚が掴める。
これを繰り返して、
身体で覚えさせろ。
---
結論:エポールマンは「肩の角度」じゃない
よし、まとめるぞ。
エポールマンは「肩の角度」じゃない。
骨盤は正面
胸は斜め
頭は逆方向
この3段階の「ツイスト」なんだ。
肩の角度は「結果」であって「原因」じゃない。
原因は「胸の向き」と「頭の向き」の関係だ。
これを間違えると、
ただの「歪んだ人形」になる。
正しくできれば、
「生きている彫刻」になる。
エポールマンは、
ワガノワで最初に学ぶ「表現の文法」なんだ。
---




