85.ランドル戦争、救援軍の派遣
ハルトが領地で娘の英才教育に専念している頃、王宮では問題が生じていた。それは、ランドル王国とフラ王国の間に戦争が勃発しそうな情勢になったことである。
ランドル王国は毛織物工業が盛んで豊かであった。この豊かさに目を付けたフラ王国がここを併合しようとしたのである。
そのため、危機感を抱いたランドル王国は周辺国へ支援の使者を派遣したのである。その使者がベー王国を経由してアムスム王国に来たのである。
どうもベー王国ではあまりいい返事が得られなかったようである。
王宮ではランドル王国救援に意見がまとまりそうな情勢である。国王としては疫病の被害が回復していない情勢で遠征軍を派遣するのは財政的にもきついものもあり消極的であったが、王宮内では先の戦争で帝国を圧倒した魔道馬車を用いればフラ王国の軍勢を圧倒できると考える貴族が多くいたからである。
それと先の戦争では魔道馬車で出陣したにもかかわらず、トゥール公爵領で守勢に回ったエウゲン将軍が名誉挽回と意気がっているためでもある。
結局、ランドル王国救援で軍を出すことになった。魔道馬車500台、兵士1万人という大軍である。
当初、陸路でランドル王国に向かう予定であったが、ベー王国がフラ王国との関係の悪化を懸念して、兵の通過を許可しなかったため、急きょアムスム王国西側の港まで行き、そこから海路でランドル王国のレー港まで行くことになった。指揮はエウゲン将軍がとることになった。
国王がエウゲン将軍に
「ハルト伯爵に声をかけなくていいのか」
と聞くと、エウゲン将軍は
「心配ご無用、魔道馬車の扱いは私も熟知しています。あんな農民上がりの成り上がり者と違って、私は歴代の貴族、そして、戦争のプロですから」
この言葉に国王は
「しかし、おぬしは実際に魔道馬車に乗って兵を指揮したことはないであろう。そこで副官に、アムスム王国軍で実際に魔道馬車を運用しているシュルツ第2師団長を連れて行くように。
そして、魔道馬車の運用については、シュルツ師団長の意見を聞くこと。そして、くれぐれも魔道馬車を失うことのないように、もし魔道馬車に損失が出た場合はおぬしの責任とする。よいな」
「わかりました」
すると国王は宰相に
「それで持っていく兵糧の準備はどうなっておる」
「はい、今回は海路で行くことから、魔道馬車をマジックバッグに入れる必要があります。そのため、兵糧は、レー港到着後、ランドル王国から受ける予定となっております」
「もし、現地でまともな兵糧が得られなかった時のことを考慮していくらか持って行ってはどうか。
わしがアムスム王国の貴族にマジックバッグの提供を呼びかけてみよう」
「わかりました、貴族家からの兵糧は届き次第追加で送ります」
こうして、あわただしくランドル王国軍は王都を出発していったのである。この後、国王からマジックバッグと食料の提供の呼びかけが各貴族家にあり、ハルト伯爵のところにも通知が来た。ハルト伯爵は王都のチョウチョ商会を通じて、250tの穀物と250tのエールをマジックバッグに入れて王宮に届けた。
各貴族家から届けられた兵糧は後日海路でランドル王国に送られるそうである。
魔道馬車での出陣を要請されたエウゲン将軍は実際には騎兵を2000人連れて行った。そのため、実際には魔道馬車500台、歩兵8000人、騎兵2000人という陣容であった。
このため、魔道馬車に乗るシュルツ師団長率いる8000人の歩兵と、エウゲン将軍率いる2000人の騎馬隊とは別行動であった。
そして、魔道馬車に乗る部隊は2日後にアムスム王国の西側の港に到着したが、騎馬隊は到着が1週間遅れた。
さらに、後から来たエウゲン将軍の騎馬隊は、先に来ていたシュルツ師団長の歩兵を残して、先に船に乗って出かけてしまった。
このため、エウゲン将軍の部隊を乗せた船がレー港で部隊を下ろして戻ってくるまで、さらに2週間遅れた。
しかし、この2週間で貴族家からの追加の兵糧2000tが届いたことは朗報であった。
「これだけあれば兵士だけなら3か月は持つ。あのエウゲン将軍のことだ、我々に食料をまともにくれたりしないだろう。これはあまり正確に報告しないでおこう」
そう思うシュルツ師団長であった。




