257.東方の調査(寺院の建立)
その日はその寺に泊まった。とにかくイリナの気持ちが落ち着くまでどうしていいかわからなかった。一晩泣いたら気持ちも落ち着いたようで、朝方俺たちが朝食をとっていると、イリナが起きてきた。
「イリナ、朝食は要らないか」
「私はもう死んでいるので、朝食は要りません」
「そうだな、そうだったな」
「ハルト様は、こんな私を気にかけてくれるのですか」
「そうだな、俺はイリナの姿が普通に見えるし、死んでいるようには思えない」
「そうでしたね。供の者がいなくなってしばらくして人が寺に寄り付かなくなってからは、まともに会話したのはハルト様が初めてでした。声を掛けられた時はとてもうれしかったです」
「そうか、それでこれからどうしたい」
「私は、この寺をハイゼントお王国が元あったあたりに移して、そこで供の者を供養してあげたいです。このお寺の敷地には供の者も眠っているので、故郷の土に戻してあげたいです」
「でも王家の秘宝をそのままにしておくと、盗賊に盗まれるぞ。それに砂漠の中だとすぐに砂に埋もれてしまうぞ」
「そうですね。それでは昨日行った砂漠から少し山間に行ったところに、このお寺を建立し、王家の秘宝はハルト様に持っていてもらえますか?そして、ハイゼント王国の生き残りが見つかったらハルト様から渡してください。私は死んでいるので、宝を手に持つことが出来ません」
「わかった。それではみんなにこれからのことを説明するぞ」
そう言ってみんなを集めた。
「今イリナから話があった。このお寺は、昨日行った砂漠から少し山間に行ったところに移す。王家の秘宝は俺が預かる。その後、近くの町に行って、ハイゼント王国の生き残りを探す。生き残りが見つかれば、王家の秘宝を渡す。これがイリナの意志だ。みんなも手伝ってくれ」
すると、レンが
「旦那様はイリナさんにすごく優しいのですね。イリナさんはそんなにいい容姿をしているのですか」
「イリナの容姿か、イリナは普通だ」
本当は絶世の美少女だが、これを言うとレンが魔力を爆発させそうだったので、嘘を言った。
しかし、レンは疑っているようで、なんか俺を睨んでいる。しかし、ここは根性、耐えることにした。
「怪しい。でもいいでしょう。私もイリナさんには同情しますし」
何とか許してくれたようである。
それから、俺は王家の秘宝の入った箱とお寺を敷地ごと俺の収納空間ボックスに収納した。それからレンやアファフとアメルそれにサラム、それに護衛や馬をまとめて昨日行った砂漠に転移した。なお、サラムの馬車も俺の収納空間ボックスに収納した。
「ここが、昔ハイゼント王国があったあたりだ。今は砂漠が広がっている」
「本当に砂しかありませんね」
「昔ここに王国があったなんて信じられませんね」
「そうだな、砂漠では水を維持することが、いかに大事かということだな」
しばらく砂漠を眺めていたが、もういいだろうと思って
「イリナ、もういいか、少し山間に転移するが、いいか」
「はい、もうここには王国はありませんから」
「そうだな」
その後少し山間に入ったところに転移した。ここだと山肌の岩が見えている。砂は下の方に見えるだけである。
「イリナ、ここにお寺を建立してもいいか」
「もう少し山間に入ったところにしてもらえますか。何となく懐かしい気がするので」
そう言われた再度転移した。すると、そこには山肌を削ってできたお寺があった。そのお寺はもう誰も住んでいそうもなく、門や壁や屋根も壊れたような感じがする。するとイリナが走り寄っていった。
「懐かしい。子供頃に来たことがあります」
それを聞いて俺は、
「どうする。このお寺、修繕しようと思えば魔法で修繕できるが、そうすると盗賊に狙われるかもしれない」
「そうですね、このままの方がいいかもしれませんね。亡国の民のお寺ですから、目立たない方がいいかもしれませんね」
「わかった。でも、盗賊の住処になっても困るので、ハイゼント王国の関係者以外入れないように結界を張ってやろう」
「ありがとうございます」
「お寺を立てる場所はこのお寺でいいか」
「それでお願いします」
俺は今あるお寺の横の山肌を削って平らな部分を作った。そして俺の収納空間ボックスからお寺を出してそこに設置した。新たに設置したお寺にも、ハイゼント王国の関係者以外入れないように結界を張った。
それから新しく設置したお寺に行って、みんなで、お祈りをささげた。おれが手を合わせて
「南無阿弥陀仏」
と唱えると、イリナが
「その言葉は仏教の言葉のように聞こえるのですが」
「そうだな、俺は仏教はこうやって仏に祈りをささげると聞いたのでそうしたのだ」
「ハルト様は博識なのですね、仏教のこともご存じなのですね。ここに葬られている者も喜ぶでしょう」
しかし、仏教のことをほとんど知らない他の面々はポカンとしている。
「旦那様、それは何の祈りですか。私たちの教会の祈りとはずいぶん違っていたように思うのですが」
「これか、これはイリナ達が信仰していた仏教の祈り方だ」
「そうですか、旦那様は博識ですね」
「そうだな」
こうしてイリナのお寺の建立は終わった。その日はまたそのお寺に泊まった。




