255.東方の調査(亡国の王女イリナ)
ハルト一行の旅は続く。途中行き交う商人も多い。街道は平穏無事である。右手は雪を頂いた高い山脈が延々と続いている。両側は苗の植え付けを待つ水田が広がっている。そして、左手の水田の向こうには大きな湖が広がっているように見える。
するとレンがおかしなことを言い出した。
「旦那様、誰かが私を呼んでいるような気がするのですが」
「誰かが呼んでいるって、俺は何も聞こえないぞ」
「お前ら何か聞こえるか」
すると、アファフとアメルの絶世の美女2人も
「そう言えば私も誰かに呼ばれているような気がします」
どうも、女性には誰かの呼ぶ声が聞こえるようである。
「急ぐ旅でもないし、呼んでいる声の主を調べてみるか」
俺がそう言うと
「そうですね、何かあるかもしれないですし。しかし、お気を付けくださいハルト様、このあたりは幾つも国が興っては滅んだところ、さ迷っている魂も多いと聞きます」
「おかしなことを言うなよ。俺そういうのは好きじゃないぜ」
「旦那様も怖いものがあるのですか」
「あるぜ、俺は万能じゃない。それに俺は聖魔法は使えない。魂の浄化なんて出来ないぜ」
「精根の王にも、出来ないことはあるのですね。でもその精根を使えばさ迷える魂も満足すると思うのですが」
この言葉にレンが切れた。
「さ迷う魂の浄化に旦那様の貞操を使うことは許しません。さ迷える魂など、私の魔力で一瞬で蒸発させて見せます」
なんかおかしな方向へ話が進んだが、気になるので、声の主を探しに行くことになった。レンとアファフとアメルの3人の案内で街道を離れ右手の山の方へ向って行った。山の方へ行く小道を行くと、小さな村があった。その村には古ぼけたたぶんお寺があった。そのお寺の壊れた垣根のところに1人の少女が座っていた。
「お前、こんなところでどうしたんだ」
するとその少女は驚いたような顔をして
「お兄さん、私の姿が見えるの」
「ああ、見えるぜ、どうしたんだこんな所に1人で座っていて」
するとレンやアファフとアメルそれにサラムが
「誰と話をしているのですか」
「誰って、そこにいる少女だ」
「わたしには何も見えません。声も聞こえません」
「わたしもです」
「お前たち、この少女が見えないのか。声も聞こえないのか」
「はい」
俺以外はこの場にいる誰もこの少女を認識できないようである。
「ごめん。お嬢ちゃん。俺以外は誰もお前のことが分からないようだ。お前は誰なんだ」
「私は、ここからずっと南、あの山脈の向こう側にあったハイゼイト王国の第5王女イリナ。王国は砂漠の中にあったけど、水がわく泉があって、とても豊かだった。作物もよく実った。
でもあるとき南から来た遊牧民に襲われて国が滅んだの。それでお父様から王家の秘宝をもって逃げるように言われたの。このお金があればいつか国を再興できるって。それで山を越えて、この村にたどりついたの。
それからは、この村で身分を隠して暮らしたのだけど、そのうちお供の者も死んじゃって、私だけ取り残されたの。それから、私はここで、ずっと、ハイゼイト王国の人が来るのを待っているの。でも誰も来ない。もう疲れちゃった」
「旦那様、その少女は何と言っているのですか」
「この少女はハイゼイト王国の王女イリナ、国が亡ぶときに王家の秘宝を持って逃げた。そして、この村にたどりついてハイゼイト王国の人が来るのを待っているそうだ。サラム、ハイゼイト王国って聞いたことあるか」
「聞いたことがありません」
「そうか、サラムも聞いたことがないのだと、ずいぶん昔のことかな」
「取りあえずイリナさん、そのお寺の中に入れてくれるかな」
「いいよ、私が許可すれば入れるから」
そして、イリナが垣根の扉を開けてくれたので、俺たちはお寺の中に入っていった。そして玄関の中を入って居間の椅子の上に横たわる1人の少女を見た。1人の少女と言うよりは少女の服を着た〇〇だった。もう少女は死んでいるようだ。
「この○○はイリナか」
「そう私。私もう体が動かないの」
亡国の王女はもう死んでいるようだった。魂だけが父の言葉を守っていたようだ。




