209.破門騒動
ハルトがマエズラ王国で、東方の安全のための布石を設置している頃、先のペテン師騒動で、司祭の任命権を失った教会本部の司祭長は失った権力の挽回を図る一手を模索していた。
(ここからは教会長の視点)
何とかして、司祭の任命権を取り戻せないだろうか。そこで、目を付けたのはサウスブニューデン侯爵である。彼は、色々な国に領地を持っている。特にマエズラ王国では宗教の自由という、ある意味教会に反旗を翻すような政策をしている。
彼を亡き者にすれば、失った権力を取り戻せるのではないかと考えた。そこで、最初は刺客を送り込んだ。しかし、送り込んだ刺客は、すぐに戻ってきて、今度は教会関係者を殺そうとする。危うく、自分も殺されかけた。「彼は闇魔法が使えるのではないか」と考えたが、証拠がない。まさか「送った刺客が洗脳されて戻って来たからおかしい」とは言えない。
そこで、「マエズラ王国の宗教政策は教会の教義に反する」と唱えた。すると、サウスブニューデン侯爵からは「ここは元々蛮族の土地、北大陸の教会を信じる人は一人もいなかった。だからむしろ門戸を開放したぐらいだ」と返された。これには、教会本部の人間も賛同する人間が多くいて慌てた。
それで、破れかぶれ、理由もなく、ただ、「サウスブニューデン侯爵は教会の教義に反する政策をとったので破門にする」とだけすべての教会に通知した。
(ここからはハルト視点)
俺は、「俺が司祭長から破門された」との知らせを受けて、久々にサウスナンテンブルグに戻った。この世界の人間は宗教に強い関心を持つが、前世が日本人の記憶を持つ俺の感覚からすると、破門と言われてもいまいちピンとこない。帰って、レンやアンナやリタに聞いてみると、
「大変なことです。旦那様」
と言われたが、
「そうなの」
と返すと
「どうして、旦那様はそんなに落ち着いているの」
と不思議がられた。
それで
「だって、今の教会にも神がいて、東の帝国の教会にも神がいる。さらに、南の大陸のサウス王国の人々が信仰する宗教にも神はいる。さらにマエズラ王国のマエズラ族や東の族にも神はいる。世界中神だらけじゃない。1つの宗教に見放されてもほかの宗教の神がいるわけだから。うまく言えないけど何とかなると思う。
今後、俺の領地の司祭を集めて、聞いてみる。それで、俺に忠誠を誓わない司祭は罷免して、領主に反抗したということで、財産没収の上、領地外へ追放処分とする。そして俺に忠誠を誓う司祭を新たに任命する。これで何とかなると思う。
後、こんな物もある。以前ヨハンと言う司祭から買った北大陸の司祭と司祭長の任命権の譲渡書と印章だ」
「それいくらしたんです」
「金貨10万枚」
「それ本物なのですか」
「本物だ、俺は鑑定のスキルがある」
「すると、今の司祭長は、ハルト様に任命されていないから、資格がないことになります。それに印章も、これが本物なら、今の教会本部にある印章は偽物となります。だから、今の教会の通知文はすべて偽物となります。ハルト様を破門したという通知文も偽物となります」
「そういうことか」
「そうです」
「なんだ、おれ破門されていないのじゃない。気にする必要ないんだ」
次の日、ハルトは領内の司祭すべてに向けて、「2週間後に、サウスナンテンブルグの領主館で会議を開催するので出席するように。もし、この会議に出席しない場合は財産没収の上、領地外への追放処分とする」と言う通知文を出した。この通知文は、大至急ということで、すべて転移魔法を使って発送した。
2週間後、ほとんどの司祭が集まった。さすがに財産没収で領地外追放というのは効いたようである。




