197.ブルガシェル族の帝国侵攻
帝国皇帝はほうほうのていでアリルヌリア王国へ逃げ帰ったのであるが、アリルヌリア王国人の帰った皇帝を見る目は厳しかった。とにかく2万人の帝国軍がほぼ壊滅したのである。皇帝の後逃げてくる帝国兵もいたがその数わずかであった。ほとんどはチェンハーザ平原で殺されたようである。
アリルヌリア国王からは「先の契約はなかったことにする」と言われた。また「ブルガシェル族から新たな要求がなされたときは帝国にその金を要求する」とまで言われた。アリルヌリア王国にいても意味がないと悟った皇帝は帝国へ帰ることにした。
そのような時、帝国の都市がブルガシェル族に襲われているとの知らせを受けた。ブルガシェル族の住む地域と帝国の間にはいくつかの小国があるはずだが、それらの国はどうしたのだ。あまりにも早い帝国侵攻に驚くばかりである。
その後入った情報によると、ブルガシェル族はチェンハーザ平原で帝国軍を撃破した後、逃走する皇帝を追わずにそのまま西進し帝国本土を狙ったようだ。この情報を得て皇帝は
「道理で追手に追い付かれることなく、アリルヌリア王国まで逃げられたはずだ」
と思った。
それから急いで帰国の途に就いたのだが、その途中でウンベルブルク市が落ちたと知らせを受けた。ウンベルブルク市は帝国南東部の交通の要衝で、辺境伯領の領都である。
確かに今回の遠征には北部の貴族は参加しておらず、南部の貴族はその分まで軍を出しており、その軍のほとんどは先日のチェンハーザ平原会戦でほぼ全滅している。したがって、今帝国南部には守るべき兵がいない。おまけに将軍もたぶんチェンハーザ平原会戦で死亡しているだろう。それに皇帝もいない。
つまり帝国南部には兵もいなければ指揮官もいない。攻めるには絶好の好機である、家すらない蛮族と侮っていたが、意外と知恵が回るようである。「これは彼らの見方を変えるべきだな」と要らぬ現実逃避をする皇帝であった。
皇帝は帝国に戻ると南部の窮地を救うべく、北部の貴族に援軍を要請したが、彼らの反応は冷たかった。
「我々が反対したのにも関わらず、軍を出したのだから後始末は自分でするべきだ」
と一蹴された。
それに皇帝がアリルヌリア王国でもたもたしている間にブルガシェル族の使者が来て
「今回、軍を出したのは帝国南部の貴族であることはわかっている。我々は我々に敵対した南部貴族を懲らしめるために軍を起こしたので、我々と敵対しない限り北部の貴族には手をださない」
と言ってきたそうである。それで
「帝国北部の貴族は中立を守る
と回答したそうである。
どうも、このようなやり方でブルガシェル族の住む地域と帝国の間の小国は通過してきたようである。恐るべき彼らの戦略。「背後で誰か糸を引いている人がいるのでは」と疑ってしまう。変なところで感心する皇帝であった。
感心していても仕方がないので、なんとか打開策を講じることにしたが、南部貴族には戦う力はない、北部貴族に見放された状態では戦闘は無理である。それで、ブルガシェル族と講和を結ぶことにした。北部のブルヘンハイム公爵に仲介を依頼したところ、「帝国を亡ぼすわけにもいかないので講和の仲介をする」との返事であった。
その後、決まった講和の内容は
ブルガシェル族が攻略したウンベルブルク市はブルガシェル族の領地とする。
また、南部のバイエルベルク公爵家の所有する銀鉱山はその利益の半分を毎年ブルガシェル族に提供すること。
また、今後ブルガシェル族に戦争を仕掛けないこと。
この3つである。
この条約締結後、皇帝は帝位を返上して退位した。
王国歴350年11月、後に腹黒皇帝のご乱心と呼ばれた一連の騒動は、帝国の国力を著しく低下させて終了した。ハルト40歳、北大陸にはつかの間の平和が訪れた。




